現実
授業が終わり、掃除当番だった彼はゴミ箱を持ち、
外にある校舎の外れにあるゴミ置き場に向かった。
部活動をしてない彼は、これが終われば帰るはずだった。
校舎の外に出ると涼しい風が吹いていた。
「風が気持ちいい…。」
季節はムシムシした夏から秋に変わりつつある。
ーさっさと終わらせて、本屋にでも寄って帰ろう。
ゴミを捨てながら、そんなことを思いながら教室に戻ろうとした時だった。
ガサッ!
「…す…けて…」
背後から女の声が聞こえた。
足を止め、恐る恐る振り返ると
同じ制服姿の女子が倒れていた。
彼の距離から見ても分かる。
顔には殴られたような痣や傷。
ズタズタに引き裂かれた制服…
「…!?」
一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
「たす…け…て…」
彼の方に手を伸ばし、絞り出すような声で助けを求める少女。
「だ…大丈夫か?」
はっと我にかえり、あわてて倒れている女子に駆け寄った。
「…助けて…助けて…助けてえええええ!」
うわ言のように繰り返す言葉。
何度も殴られたのか体中のあちこちが腫れ上がっていた。
下着も何も着けていない、全裸に近い状態。
誰もが目を背けたくなるような光景…
夢なら覚めてほしかった…
けれど、これは紛れもない現実だ。
「た…立てるかい?」
絞り出すような声で小刻みに震えている彼女に何とか話しかける。
彼女は涙をこぼしながら、首を横に振った。
彼はそっと全裸に近い彼女の上半身を起こそうとした。
「ひっ!!」
また何かされるかと思ったのか怯える彼女…
「大丈夫だよ。何も怖いことしないから。」
動揺しながらも悟られまいと静かに優しく問いかける彼。
自分の着ていたワイシャツを脱ぎ、彼女の方にそっとかける。
そして、彼女に背を向けしゃがんだ。
「取り敢えず保健室に行こう。立てないなら、おぶって行ってあげるから…」
けれど、彼女は頑なに首を横に振る。
「大丈夫…オレを信じて。」
彼女からの返事が返ってくるまで、彼はしばらく待った。
返答が長く感じられたが、多分時間にして2.3分ぐらいだろうか。
ごそごそと音が聞こえたかと思うと、彼の背中に重みを感じた。
彼女の体が、まだ小刻みに震えているのが背中越しから伝わってきた。
彼は彼女を背負ったまま立ち上がり、
人目につかないように足早に保健室に向かった。
ーレイプ…されたんだ…。
今まではテレビや人の話とかで聞いていた。
まるで他人事のように。
いいや、自分の日常には関係ないと思っていた。
でも、実際に目の前で事件を目の当たりにしたら
どうしていいのか分からなかった。
そして、自分が被害にあった訳じゃないのに
彼は悔しくてツラい気持ちになった。
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