きっかけ

 睡眠は十分取れているはずなのに

身体が異常に重く感じる。

それでも、疲れた身体を引きずって

何とか学校に行く。

ノロノロと教室に入り、彼は自分の席に付きため息をついた。

始業チャイムの鳴る前の教室は、いつもと変わらない日常だった。

賑やかな教室、楽しそうに笑う声。

そんな、賑やかな教室から女子達の会話が聞こえた。

 「ねえ、ねえ、知ってる?またBV事件があったらしいよ。」

 「知ってる、知ってる、今朝テレビでやってた。」

 「今度は緑ヶ原公園だって。」

 「げっ、この高校から近いじゃん。」

 「今月に入って8件目だって。」

 ーああ、そう言えばそんな事件があったっけ…

ここ最近、彼の住んでる街では、女子中高生を狙ったレイプ事件が多発していた。

ただレイプするだけではなく、殴る蹴るの暴行を加える悪質な犯行から

テレビや新聞では、この事件をBV(ブラッティ・バイオレンス)事件と、

名付けて報道していた。

犯行は毎回同じような手口で、警察は同一犯と見ているらしいが

三ヶ月以上経過した今でも捕まっていない。

 ーまったく警察は何してるんだか!

 「あれ…?」

 ーボクがあの夢を見出したのって、

  確か最初のレイプ事件をニュースで見た時の夜だったような…

見出した夢のきっかけがレイプ事件。

彼の中で、何か引っかかりを感じたと同時に全身に寒気を感じた。

 ーボクは男でレイプなんてされる訳ないじゃないか?

  夢を見始めたのだって、ただの偶然だ…よな…?

自分の中で必死に否定しているが、

心のどこかで記憶と関係があるのかもしれないと考えてしまう自分がいる。

いつの間にか、授業が始まっていたのにも気づかずに、

彼はずっと事件と夢のことばかり考えていた。

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