悪夢

 彼は、毎晩同じような夢を何度も見ていた。

まとわりつく生暖かい感触…

血なまぐさい匂いが、充満している部屋の中で

彼は誰かに泣きながら、何度も何かを懇願していた。

何を懇願しているかは分からない。

口に布のような物を詰められ、声を出せない時もあった。

抵抗できずに、ただされるがままの彼。

時には体に激痛が走り、気を失いそうな時もあった。

血に混じって、生臭い匂いが部屋中を充満させることも…



 目覚めると、身体にまとわり付く不快な生暖かい感触と

生臭い匂いがした事だけは覚えているが、

内容までははっきりとは覚えていなかった。

しかし、彼にとっては悪夢に近い夢であることは事実だった。

ただ最後に必ず女の声が聞こえる。

 「…みは…わた…ま…から…」

いつも、聞き取れないまま夢から覚めてしまう。

女の声は誰なのか?

彼女が何を言っているのか?

そして何よりも夢の細かい内容が知りたい。

もしかしたら、幼い頃の記憶の断片かもしれないのに。

ー届きそうで届かない夢…

目が覚めると、涙が頬を伝っていた。

彼は、溢れ出る涙を拭いて、ベッドから起き上がる。

眠っていたのに、どっと疲れが押し寄せる。

 「…また…いつもの夢だ…」

そして、今日もまた朝が来て、いつものように学校は行く。

自分の中で燻っている、記憶と夢を心に抱えたまま。

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