シークエル

『おー、カズ。おまえ神崎 遊姫かんざき ゆきのアルバム買ったん?』

 連休の一日目の朝一番の電話の開口一番、裕哉はそう尋ねてきた。時間は九時過ぎ。

「おまえ、もしかして、この電話の主な内容はそれか?」

『うん、そうやけど?』

「オレがなんでそんなどこの馬の骨とも知らないやつのアルバムを買わなくちゃいけないんだよ?」

『馬の骨って。るみなの声やないか。いわゆる中の人ちゅうやつやんね?』

「中の人などいない! るみなはるみなだ」

『…………』

 裕哉が息を飲むがわかった。呆れているのだろう。だが、譲れない。

『そんな痛いことオタクでも言わへんで?』

「痛かろうが痛くなかろうが、オレの嫁は、訂正、内縁の妻は、二次元だ。三次元とは一切関係ない。それに、るみなの歌っている歌は全部購入済みだ」

『……そうか。すまんかった。わいが悪かったわ』

「それで用事は全部か?」

『ほんまは、遊姫ちゃんのサイン会行こうって誘うはずだったんやけど行かへん?』

「行ったらなにか良いことあるのか?」

『先着百人には、神姿るみなの七転抜刀の非売品ポスターがついてくるといったらどうや?』

「よし、何時だ? 場所は?」

『大通りのタワレコに昼からやけど』

「よし、良い時間に電話してきてくれたな。十時につくようにタワレコへ向かうぞ」

 るみなパジャマとるみTを脱いで、新しいるみTを着る。その上から濃い色のシャツを着る。前はしっかりしめる。嘉寿がるみなを愛しているのを知っている人間は自分だけで良い。まあ、裕哉と真白はもう知っているから例外だ。

 鏡の前に立って、姿を確かめる。ファッションはそつなく、顔は美形。成績優秀。性格は一部を除き温厚。カリスマ保有。制服は鋼鉄の学生服といわれるほど。品行も方正。

 だけど、嫁は二次元。るみなオタク。

 胸に手を当てて、「愛してるぜ、るみな」。

 今日も幸せいっぱいだ。


〈了〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

にじこん 終夜 大翔 @Hiroto5121

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ