03-17

 嘉寿は、どうしたらよいかの方策を得るために、裕哉の家を訪ねた。

「おー、良く来たな」

「来たな」

 裕哉と真白が迎えてくれた。

「どないしたん、嫁に振られたような顔して?」

「結婚ができない」

「は?」

「るみなと結婚できないんだ」

 大げさに頭を抱えて、苦悩のポーズ。

 どすんと、定位置になった卓の一角に腰を下ろす。

「どういうこっちゃねん。書類は作ったんやろ?」

「未成年は、親に確認書が郵送されるらしい」

「あちゃー、それはあかんな」

「どうしよう」

 肩はすぼまり、自然背中は丸くなる。美形の秀才、桜井嘉寿の面影がないぐらいに覇気がなく、いかにも打ちのめされたような感じだった。

「どうしようもないなぁ」

 裕哉の言葉に、こくりと頷く真白。

「現実を受け入れるしかないってことか」

 もう泣きそうになっている。

「そうや。だけどなカズ、一つだけ言うとくで」

「なんだよ?」

「おまえが好きなんは、神姿るみなか、紙切れか、どっちや?」

「るみなに決まってるだろ?」

 頭が半分パニック状態の嘉寿は、なにを言われてるのかわからなかった。

「そうさ。おまえは、役所の作った紙切れがないとるみなを愛せないのか?」

 裕哉の言葉から、関西弁らしいなにかの影はない。

 だけど、言いたいことはなんとなくわかった。

 るみなを愛しすぎるあまり、目が曇っていたようだ。そう、大事なことはるみなを愛してると言うことで、結婚しているということではない。そんなものなくったってるみなを愛してきたつもりだし、これからもそうするつもりだ。

 結婚なんていわば、対外的なものに過ぎない。自分はこのキャラに命をかけてますという宣言以上のなんでもない。たしかに、重要なシーンは出てくるだろうけど、今はその必要はない。

 答えは得られた。やはり持つべきものは友達である。少し感動した。

 目から鱗がぼろぼろと落ちる気分とはまさにこのことだろう。そして、手段が目的に変わったというのもこういうことをいうのだろう。

「わかったよ、ゆう、真白。オレが間違っていた。結婚申込書なんてただの紙だ。結婚なんていうのは対外的なもので、愛してることに変わりはない。オレは、るみなを内縁の妻だと思って大事にする。そう、世界にだってわざと結婚しないで愛だけで繋がっている人たちもいるくらいだ。オレだってそうするぜ」

「あ、いや」

「じゃあ、オレ帰るわ。勉強して、来年の一人暮らしを決定的なものにする」

 部屋を慌ただしく出て行く嘉寿。なにか言いたそうに伸ばされた裕哉の手は虚空をつかむだけ。真白は、どうしようもないとふるふると首を振っているだけだった。


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