第二話 巨大人型兵器の蹂躙


 まず、何故巨大人型兵器が今まで登場しなかったのかを語ろう。

 日本から配信されているアニメ等ではとても有用に見えるのだが、現実世界ではそうでもない。

 一つに、操縦の複雑さである。

 兵器というからには、修練すれば最低でも運用できる位の簡略化が必要なのだが、ロボットとなると話は別である。

 結局は様々な動作をする上では簡略化出来ない壁にぶち当たり、操縦できるようになるには長い時間が必要である。

 それ戦時では大変なデメリットになる。


 二つ目は、コストである。

 ただでさえ歩兵等が所持する武器の弾薬やらメンテナンスでも費用がかかるのに、ロボットとなると武器も弾薬も巨大化する。

 故に生産コスト、維持コスト諸々が肥大化する。

 大国ですら何度も構想したのだが、ついにはお蔵入りする位、金がかかる兵器だ。


 最後は、人型である意味がない。

 二足歩行の意味がないし、ロボットを製作した経験がある人間はわかるように二足歩行させるのにも一苦労なのだ。

 そして砲撃やミサイルの的である、デクノボウである。

 

 以上の理由から、現在までに巨大人型兵器は作られなかったのだ。

 しかし、《帝国》はデメリットを度外視して巨大人型兵器を製造、実戦投入をしたのだった。

 しかもこの戦場で実績を作ってしまい、世界中の兵器製造メーカーは、この戦争に注目する事となった。

 この事例を、《ロボット革命》と呼ぶ。




◆ ◆ ◆




「これは……夢なのか?」


 ユウはただただ呆けるしかなかった。

 目の前には五メートル大の巨大人型兵器。

 丸みを帯びた頭部に赤い光を放つ二つの目のような光。

 全身が鈍い銀色の配色になっているせいか、装甲はとてつもなく硬そうだ。

 手には巨大化したアサルトライフルが握られている。

 歩兵に全身鎧を着けさせてアサルトライフルを握り、そのまま巨大化させたような印象だ。


 すると、巨大人型兵器がユウ達がいる建物を見た。

 ユウの全身に鳥肌が立つ。


「クルツ、ここから出て土嚢に隠れよう!!」


「は? 何でだよ!!」


「いいから、早く!!」


 ユウとクルツは、中腰で建物を飛び出すように出た。

 次の瞬間、耳をつんざく轟音が何度も放たれた。

 あの巨大ロボットのアサルトライフルが火を吹いたのだ。

 たった五回の発射音がしただけで、コンクリートで出来ていた建物は穴だらけとなり、最後には崩れ落ちるように崩壊した。


「は、ははははは……。マジかよ」


 何とか土嚢に身を隠せたユウの隣で、クルツは乾いた笑いをあげる。

 ユウも同様の感想だ。

 だが、彼らに巨大ロボットは安息を与えない。

 成人男性の股間部分までの高さしかない土嚢だと、あの巨大ロボットから見下ろされたら丸見えである。


「や、やべぇ!! 敵さんまだ俺らを狙ってやがる!」


 クルツが悲鳴に近い叫び声を上げる。

 ユウとクルツは急いで土嚢から全速力で離れる。

 その瞬間、通常のアサルトライフルやスナイパーライフル、サブマシンガン等の銃弾を貫通させないはずの土嚢は、中に詰まっていた砂を撒き散らしながら吹き飛ばされる。一瞬にして土嚢は決壊した。

 しかも巨大アサルトライフルを連射しながら、ユウ達を追う。

 彼らは必死に走る。

 彼らのすぐ背後で、巨大な弾丸が地面に着弾し、地面を震わせ土埃が上がる。


「走れ走れ走れ!!」


「わかってるよ!!」


 しばらく走ると、防空壕があった。

 しかも運が良いことに、建物が影になっているからあの兵器からも見えていないだろう。

 二人は滑り込むように防空壕に身を隠す。

 あの轟音と共に度々地面が震えるが、しばらくして鳴り止んだ。

 何とか逃げられた事に、二人は安堵した。

 すると、ユウが持っていた通信機から音が鳴った。


『こちらヴァイス!! ユウ、聞こえるか!?』


「ああ、聞こえるよヴァイス。そっちは無事なのかい?」


 ヴァイスとは、ユウと同じ部隊の同期で、階級は二等兵だ。

 階級で見ればユウの部下にあたる。


『俺は無事だが、トニーの左足がスナイパーにやられて負傷した』


 トニーはヴァイスの相方であり、階級は二等兵。

 どうやらスナイパーに左足をやられてしまったようだ。


「そうか。恐らくヴァイス達が一番スナイパーが潜伏している場所に近かったと思うけど、奴等は?」


『それが、今はスナイパーは一人もいなくなってやがる』


「えっ、どういう事?」


『わからねぇ。憶測だが、あのロボットが来るまでの足止め役だったかもな』


「そんなバカな! アレの為の前座なのか?」


 ならばあの巨大兵器と共に、逃げ回る敵を狙撃した方が効率的なのではないだろうか。

 ユウは視線でクルツに意見を求める。


「さぁな。あのロボットが出たら《帝国》としてはチェックメイトだと思ってるんだろうよ!」


「そうなのかな。それが本当なら、大した舐めプだよ」


『ユウ。今俺の手元に《RPG》がある。なけなしで一発しかないが、それをぶつけてみていいか?』


 《RPG》、正確には《RPG-7》は旧ソ連が開発して今でも広く用いられている、ロングセラーの携帯対戦車擲弾発射機。つまりロケットランチャーだ。

 《王国》がフランスから買い取った武器の一つであるが、これまでの防衛戦で残り弾数が少なくなっており、使用の際は上官に許可を求める必要があった。


「……仕方ない。《RPG》を着弾させたら即刻離脱するんだ」


『了解!!』


 ユウとクルツはそのまま防空壕の中で待機した。

 約一分後、再び通信が入る。


『こちらヴァイス、《RPG》の発射準備完了!』


「了解。目標、巨大人型兵器。発射を許可する」


『了解、発射!!』


 通信が切れて三秒後、外から爆発音が響いた。

 上手く着弾してくれたようだ。

 ユウ達は恐る恐る外に出て、顔を出してみる。

 巨大ロボットがいたであろう場所に、爆発で発生した煙幕が濃くて、あの兵器がどうなったか視認出来ない。

 効いていてくれ、心から祈るが願いは届かない。

 ロボットはそのまま前進し、煙の中から姿を現した。

 胸部装甲に若干凹みが出来ている程度で、ほぼ無傷だ。


「ちょっと待てよ、対戦車用の武器が効かねぇのかよ!!」


 クルツが絶望しながら言った。

 しかし、ユウは予め効かなかった場合を想定していたので、すぐ通信で指示を出す。


「ヴァイス、敵には効果なし! 現地点から即離脱するんだ!! 恐らく君達の居場所はさっきのでばれた!!」


『了解!! いくぞ、トニー!!』


 どうやらヴァイスはトニーを連れていくようだ。

 その通信を聞いたクルツがユウから通信機を奪い、叫ぶ。


「バカか、トニーは捨て置けよ!! 足手まといになって二人共倒れだぜ!?」


『クソかてめぇは!! トニーを置いていけねぇだろうがよ!!』


 そして通信は、ヴァイスが一方的に切った。


「あぁっ、クソ野郎が!!」


 すると、ヴァイス達が隠れていたであろう建物から、二人が出てくるのをユウは確認した。

 ヴァイスがトニーに肩を貸して移動していた。だが、速度があまりにも遅すぎる。


「ヴァイス、早く、早くこっちに来るんだ!!」


 ユウが叫ぶ。

 恐らく声が二人に届いたのだろう、彼らなりに速度を上げて、ユウ達に向かって移動している。

 必死の形相だ。

 誰だって死にたくない。

 だが、相棒も見捨てたくなかったのだ。

 クルツにもその気持ちがわかるから、大声で叫んだ。


「早くこっちに来やがれ!! 説教は後でしてやるから!!」


 ユウは声が枯れんばかりに大声を出し、「頑張れ」と声援を送る。

 クルツは罵倒に近い言葉で叱咤する。

 しかし戦場は無慈悲だ。

 ちょっとだけの希望すら持つのを許してはくれない。


 巨大ロボットがアサルトライフルの銃口を、ヴァイス達に向ける。

 そして、一拍の間を置いて引き金を引いた。


 轟音と共にヴァイスとトニーの体は大きく削られ、携帯していた手榴弾が起爆してさらに爆発四散した。

 死体すらも人間の形を留めさせない巨大兵器の無情さに、ユウとクルツは慟哭した。


「ヴァイス、トニィィィィィィィィィィッ!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る