第三話 非情な命令
「ちくしょう、ヴァイスとトニーが……!!」
クルツが涙を流しながら叫ぶ。
彼らがいた場所にはもう何もない。
死体も、血も、綺麗に吹き飛んでしまった。
だが悲しんでいたら自分達もそうなってしまうので、防空壕の中に隠れて悲しみに暮れていた。
「……あのクソロボットが! 何なんだよ、あれはよ!!」
「それは……俺も聞きたい位だよ」
ユウも二人の死に悲しみ、うなだれていた。
「戦場にジャパニメーションなんざ引っ張り出してくるんじゃねぇ、クソが!」
「元日本人としては複雑だけど、今は同意だね……」
ユウとしても、ロボット物のゲームやアニメは大好きである。
自分で操縦をして、敵を倒して英雄になりたいとも夢想した事がある。
だが、それが現実となり、しかもタチが悪い事に敵側で登場してきた。
これ程の恐怖と絶望を、あの人型巨大兵器はもたらした。
このままでは、自分も二人と同じ末路を辿るのは明白だった。
戦場は、仲間の死に悲しむ余裕すら与えてくれなかった。
すると、通信が入る。別の仲間だ。
『こちらビリー!! 敵スナイパーを捕縛した!!』
ビリーは最近入隊した二等兵。しかし傭兵として活躍していた経歴を持っている為、即戦力として戦場へ駆り出された。
「こちらクルツ、敵さんを尋問してみたか?」
『ああっ。指を一本ずつ切り落としたらゲロってくれたよ』
さすが元傭兵、俺に出来ない事をやってのけるなと、ユウは心の中で思った。
『まずスナイパーなんだが、あのSFじみたロボットが来るまでの足止めだった。そして戦場で実績を残せるかの最終試験を今やってるらしいぜ』
「くそっ、はた迷惑な最終試験だぜ」
『ここで良い結果を残せば、随時戦場へ投入するそうだ』
「……ん? という事は、もう量産体制は出来上がってると?」
ユウが割り込む形でビリーに質問すると、「そういう事らしい」という聞きたくなかった答えが返ってきた。
クルツは下品な言葉を吐いて悪態を付いている。
『それでユウ、敵さんはどうする?』
「そうだね、慈悲はいらないよ」
『オーケー、処分しておく。じゃ、通信終了』
さて、どうするかとユウは心の中でぼやく。
仲間を失った悲しみに暮れる訳にもいかない、だからと言ってあの兵器に対抗出来る手段は思い浮かばなかった。
しかし敵の人型起動兵器は、ユウに考えさせる間すら与えなかった。
ロボットが装備しているアサルトライフルが、なにかを射撃している。
耳の鼓膜を突き破る位の勢いで、連射をしているようだった。
「こちらユウ、誰かがロボットに的にされているようだ! 状況が分かるのはいない!?」
『こちらビリー! アイクの野郎が臆病風吹かせたのか、敵に背中を向けて逃走を図った。そこを狙われて、死んだ』
相当無惨な最期だったのだろう。
ユウとクルツはそれを想像して、唾をごくりと飲み込んだ。
『ユウ、どうする? 動くと蜂の巣どころか跡形も無く消し飛ばされる』
「ならビリー。君はそのまま隠れてロボットを観察してほしい。何でもいい、気付いた事があったらすぐに報告して」
『了解した!』
今、小隊の中でユウが隊長代理となっている。
本当はとある軍曹が隊長だったのだが、二時間前にスナイパーに狙撃されて死亡したのだった。
それで部隊の中では上官で撃破数が多いユウに、隊長代理の任が降りたのだった。
(はぁ、俺なんて人をまとめる能力なんてないんだけどなぁ。まぁ、やるしかない)
心の中でため息をつくと、隣にいたクルツが話しかけてきた。
「そういえばユウ、本部に連絡したか?」
「…………あっ」
していない。
あんな兵器が自分達を蹂躙していたのだ、すっかり報告を忘れてしまっていた。
「今隊長代理はお前だ、ユウに任せる」
「わかった」
ユウは手に持っている通信機を、本部の通信機に繋がる周波数に合わせて話し始めた。
「こちら第五小隊の隊長代理、ユウ。本部、応答願います」
ユウが受け持っている隊は第五小隊。
人数は七名と小規模である。
しかし今はユウとクルツ、そしてビリーだけしかもう残っていない。
ほぼ壊滅状態だ。
『こちら本部。ユウ、聞こえているぞ』
「よかった、現状の戦況を報告します。遅れてすみません」
『気にするな。だが、簡潔に報告をまとめろ』
「了解」
ユウは要所要所をしっかり押さえて、簡潔に報告を済ませた。
本部の反応は、ただただ驚愕しているようだった。
『まさか、そんなものを持ち出したのか、《帝国》は……』
「はい、《RPG》も装甲を軽く凹ませた程度です。戦車の主砲でも効くかわかりません」
『しかし、戦闘ロボットは絵空事とまで言われていたのを、実践投入するとは……』
「ですが、あれは危険です。武器の一発一発が戦車位の威力だと思います。それを小銃みたいに連射可能です」
『歩兵を巨大化させたようなものか……。恐ろしいな』
人型巨大兵器の何が恐ろしいか、それはユウでも判断できた。
戦車級の威力がある武器を連射し、しかも標準もしっかり出来ると来た。
そこからさらに《RPG》も効かない位の分厚い装甲だ。
まだまだある。
歩くスピードを見ると、戦車より早いし旋回能力も若干上と見た。
もし、細かい作業まで出来たら、進行に邪魔な木を排除したり、重労働な土嚢設置まで楽に出来てしまうだろう。
ただの驚異、歩く絶望そのものだ。
『威力が高いもの程連射出来ないのは、反動が障害であった部分が大きい。しかし、そのロボットは恐らく問題をクリアしたのだろう』
「そうでしょうね。私はあのサイズの《RPG》があったら、街一つ消し飛ばせるのではないかとまで考えました」
『……あり得るな』
「ではすみません、是非援軍を寄越していただきたい。このままだと我が小隊は全滅です」
『そうだな、我が国はただでさえ人口が帝国より少ないから、兵士一人一人が貴重だ。諸君達だけでも帰って来てもらいたいが……』
「いかがなさいましたか?」
嫌な予感がする。
非常に嫌な予感だ。
『……上からの命令だ。諸君、第五小隊でそのロボットを鹵獲しろ、との事だ』
「……は?」
『そのロボットを徹底的に解析したいそうだから、鹵獲せよとの事だ。……上は何を考えていやがる!』
どうやら、上から無茶な注文が降りてきたようだ。
ユウは絶望した。
恐らく人数が壊滅状態になっているので、上の判断としては第五小隊を切り捨てたのであろう。
もし鹵獲出来たらラッキー、全滅しても風前の灯火である小隊が消えるのみ。
そうなったら、応援も寄越さないだろう。
「……応援は?」
『……応援を寄越す余裕がないそうだ。諸君らだけで任務にあたるようにだそうだ!』
「……」
ユウ達からしたら、本部から死刑宣告を言い渡されたようなものだ。
(……前にも後ろにも虎どころか死神にサンドイッチにされてるよ。……どうする)
しかし上官の命令は絶対だ。
逆らえば生き残ったとしても懲罰が待っている。
鹵獲失敗して生き残っても、懲罰が待っていそうだが。
(くそっ、やるしかないのか!)
「わかりました、第五小隊はその任に就きます」
『……すまない』
「ええ、死んだら恨みます」
最後に本部へ皮肉を言って、ユウから通信を切った。
「……はぁ」
ユウの口から、今日何度目かになる大きな溜め息が漏れた。
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