DeadLine Troopers ―死線上の兵士達―

ふぁいぶ

第一話 人型兵器、襲来


 この世界には、大小問わず百以上の国が存在する。

 ほとんどの国と手を取り合い非武装を掲げる国や、核兵器をちらつかせて自国の立場を守る国もある。

 だが今回は、世界の兵器事情を大きく変えた二つの国をピックアップしよう。


 一つは《帝国》。

 今のご時世帝国と名乗る国がある事に驚きを隠せないが、そこはあえて置いておこう。

 帝国の特徴としては国土は大きく鉄鋼業に優れた国なのだが、食物事情が常に危うく悩みの種であった。

 そして、その帝国の真下に存在する《王国》。

 領土は帝国より一回り小さくて鉄鋼技術に関しては、世界水準以下となっている。

 代わりに食物は大変豊富であり、三ツ星シェフが喉から手が出る位欲しがる食材を多く輸出している。

 《帝国》は兵器で国を保っているのに対し、《王国》は食材による輸出で国を潤していた。


 決定的な食糧難が《帝国》に降りかかった時、《帝国》は決断した。

 食料が豊富だが兵力が乏しい《王国》を支配して食糧難から脱出しよう、と。

 

 とある戦争評論家は《帝国》のこの決断に対して、やらざるを得ないまでに追い詰められた結果と評した。

 何故なら、この国の土は栄養分が異常に少なく、自国生産率は皆無に等しかった。

 つまり、自国生産率をあげる為には、《王国》を支配してその領地で食物を育てるしかなかったのである。

 貿易等では賄えない程の人口であり、苦渋の決断だったのだろう。


 しかし、《王国》は自然の要塞と言われる位の鉄壁であった。

 国を守るように、人の足では登頂不可能な断崖絶壁で囲まれ、航空機で飛び越そうとすると、上空だけに吹き荒れる突風のせいでまともに操縦が出来ない。無理に突っ込んでも風に舵を取られて墜落してしまったのだ。

 山と空に守られている《王国》だったが、唯一侵入できる場所があった。

 それは、《帝国》と《王国》の間の山に、一部山を切り崩した道があったのだ。


 《帝国》はここを抜けようとし、《王国》は他国から武器や戦車を買って必死に防衛した。


 常に死と隣り合わせのこの戦場を、人は《デッドライン》と呼ぶようになった。

 これは、《デッドライン》で命を散らしていく兵士達の物語だ。









 今日もデッドラインは、銃声が響き渡っていた。

 サブマシンガンやロケットランチャー、戦車のキャタピラ音に着弾して爆発した音。

 このデッドラインは今日も平常運転だ。


 建物に隠れて壁に寄りかかりながら、ユウ・カシマは溜め息を付いた。

 ゆったりと農業を営む為に日本国籍を捨てて、晴れて《王国》の国籍を手に入れた矢先の戦争、徴兵であった。

 武器の説明に一日を費やし、次の日には即実戦投入である。

 溜め息を付かない方がおかしい。


「俺、多分即撃ち殺されるだろうな」


 と死を覚悟していたものの、何だかんだで半月も生き残っている。

 しかも何だかんだで二桁台のキルマークを叩き出しており、最近一等兵に昇格した。

 意外に自分の命に関わる事になると、敵を殺害する事に躊躇しなかったのは驚きだった。


「おい、ユウ!! 前方二百メートル先にスナイパーがいるぜ!!」


 建物の窓から双眼鏡で辺りを見回していたユウの相棒、クルツ・アーガインが叫んだ。

 戦場のスナイパー程、歩兵にとって怖いものはない。

 戦車は旋回能力が低いからまだ対処出来るが、スナイパーは上手く身を隠しているから何処にいるかはわからない。

 こちらはフランスから買い入れたアサルトライフル、《FA-MAS》しかない。それで二百メートル先のスナイパーに対抗出来る訳がなかった。


「はぁ、また面倒な……。こりゃまた夜まで匍匐前進大会かな?」


「そりゃ勘弁だぜ。次も戦場なのに筋肉痛のまま戦いたくねぇっての」


 ユウが溜め息混じりで呟き、答えるようにクルツが愚痴をこぼす。

 彼の冗談で少しは和んだが、しかしユウはずっと違和感を感じていた。

 それが不安で、建物から出られなかったのだ。


「なぁクルツ、何か敵さんの動きがおかしくないか?」


「ああ? 何がおかしいのさ」


「いやだってさ、《帝国》の癖に戦車を投入してきていないんだ。しかも今戦場にいるのはスナイパーのみ。異常だろう?」


「知るか! 俺達はただ、このデッドラインから敵さんを通さないのが仕事なんだからよ!!」


「まぁそうなんだが……スナイパーは今確認できただけでも五人だな。それだけしかいないの不自然でしょ?」


「不自然だが、敵さんも人材不足なんじゃねぇの?」


「そうだといいんだけどね。はぁ、早く俺は農業をやりたいんだけどなぁ」


「そういやお前、ここで一級品のブドウを育てたくて来たんだっけか。それで早速戦争とは、災難だったな」


「本当だよ。でも君とペアを組めてるのは幸運かな」


 クルツは同じ一等兵で、銃の扱いに非常に長けていた。

 故に何度も命を救ってもらったし、銃の撃ち方を教わったのだ。

 今命があるのは、彼のお陰と言っても過言ではない。


「とりあえず、夜まで待てば俺らも少し休めるだろうよ、頑張ろうぜ、ユウ」


「うん、そうだね」


 次の瞬間、地震が起きた。

 何かの衝撃音と共に、地面が大きく揺れたのだ。


「うわっ、地震か?」


「いや、地震じゃないねこれ」


 地震とは無縁なクルツは慌てるが、日本で散々地震を味わっているユウはこの程度では動揺しない。


「恐らく、何かが落ちたんだと思う。爆弾か?」


「地面を揺るがす程の爆弾って、ついに敵さん本気を出してきたか!」


 クルツとユウは窓から少しだけ頭を出して、正面を見てみる。

 そしてそれを認識した時、まだ爆弾の方がよかったと思ったのだ。


「お、おいおい……冗談も程々にしてくれよ」


 クルツは喘いだ。


「……俺、ゲーム好きだけど、今ゲームの世界にいるのかな? これは夢?」


 ユウは放心していた。

 そう、二人共信じたくなかったのだ。


 目の前には、五メートル大の鉄の巨人が、デッドラインを見下していたからである。

 その巨人の手には、戦車をアサルトライフル状に改造したのではないかと思う位、巨大な銃が握られている。

 あれに掃射されたら一瞬で肉片となって散らされるだろう。

 ユウとクルツには、その巨人は絶望が具現化した存在であった。


 近代兵器史上、初の人型巨大兵器が実戦投入され、デッドラインで猛威を振るう事となる。

 そして、兵士達の命は無惨に散らされ、大地をさらに血で赤く染め上げる。


 デッドラインで戦う《王国》の兵士達は、ただただ、絶望を目の当たりにして立ち尽くすしかなかったのだった。


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