露洞姫
まだ昼下がりなのに、お堂の中は薄暗い。分かるのは、俺を無数の「め」が見つめていることだ。
そこには、旧友の目も含まれている。
だから、これだけは言っておかなければならなかった。
「ここで暮らせるのは甲斐性のある奴だけや」
あのソーラーパネルでの売電も、たぶん兄の決断だ。
俺より頭はいいはずなのに、次男坊を進学させようとここに残って、独身のまま両親と共に暮らす兄だ。
「ウソつけ」
旧友の言うことは半分だけ正しい。
俺は高校時代、クラスのある少女に想いを寄せていたことがある。
それを知った旧友は、彼女が父親と2人で暮らす家まで教えてくれたが、何もできずにいるうちに、彼女は突然消えた。
卒業すると、俺はその思い出から逃げるように東京の大学へ行って、二度と戻らなかった。
「露洞姫みたいな子だったな」
「何でその話知ってる」
小学生の頃に見た、地元の昔話の本に載っていた話だ。
昔、露洞におわした尊い姫を、山奥に住む大蛇がさらっていった。
大蛇から逃れられぬまま、自らも次第に蛇と化すのを嘆いた姫は、ある嵐の夜、川の氾濫に乗じて海へ下ろうと思いついた。
だが、濁流に沿って長良川へ向かうのを、針金で吊られた橋が阻んだ。
「おのれ、私が金気のものを嫌うと知っていながら……見ておれ!」
巨体をむずと横たえて川筋を変え、田畑を押し流しながら姫は海を目指して下っていったという。
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