シオンめもりー。

@msklv

第1話


「おばあちゃん、いる?」

玄関の戸を開ける音と同時に、孫の柚里の声が聞こえた。

洗い物をしていた手を止めて玄関へ向かう。

「柚ちゃん、どうしたの?」

拭ききれなかった水気をエプロンで吹きながら柚に問うと、柚は靴を脱ぎながら、トイレトイレ!と言い玄関のすぐ横にあるトイレに駆け込んだ。

「出てきたら台所にいらっしゃいな。焼き芋あるからね」

「はーい」

柚は娘の子で、今年の春に高校生になったばかりだ。柚の家と高校のちょうど真ん中に、私の家はある。建てたのは主人だけれど。

主人は昨年肺癌でこの世を去った。あれほどタバコはよしてくださいよと言ったのに、大丈夫大丈夫と言いながらも肺癌で逝ったあの人。

やっと一人の家に慣れたものの、仏壇の上のご先祖の遺影に紛れて主人がいるのはまだ慣れない。時々、ふいに寂しくなる。

娘夫婦も私が独り暮らしになったのが心配なのか、柚をこちらに寄越すことが増えた。と言っても、学校帰りの柚が今のようにトイレに寄ったりするくらいだが。

高校生なら放課後は友達と遊びたいだろうに、柚はバイトがあるらしく帰宅部らしい。

「あースッキリ! ありがとう、おばあちゃん」

台所で洗い物を再開しようとしたら、柚がトイレから出てきた。テーブルの上の焼き芋を二、三個取り居間のこたつに入る。

「食べ過ぎたらご飯入らなくなるよ」

蛇口を閉めお茶を柚のところへ持っていく。二つ。柚の左となりに座り二人で焼き芋を頬張る。

「大丈夫だよ。おやつは別腹なんだから」

もっもっと焼き芋を頬張る柚は、小さい頃と何も変わらなかった。ただ体が成長しただけな気もする。

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