末期がんガン患者への奇跡の知らせ

ネロヴィア (Nero Bianco)

末期がんガン患者への奇跡の知らせ

 男は今年23の誕生日を迎えた。去年の同日に暖かな家族に包まれながら口いっぱいに頬張ったケーキの味は今も忘れられないと時折語っていた。仕事熱心な性格は確かに彼の人生に大きく寄与していたが、それが早期発見を妨げた原因でもあった。

「気づいた時には遅かった。」テレビやラジオでも何度も聞いたセリフだったが、いざ自分の身に起きるとなると虚無感程度しか湧き上がって来ない。


 『アスベストの過剰吸引による末期の肺がん』


 カルテにはそう速記文字で綴ってあった、担当医になった中年の男は「助かる見込みは残念ながらありません。」と非情にもきっぱり言い切った。延命や、代替療法を提案する側の医師すらも諦める始末。男はただただ顔色を変えずにその時を待ち続けていた。「そういう運命だったんだ。今更どうしようもないさ。」と


 程なくして男は病院で一番見晴らしの良い部屋へ入院する事になった。この部屋は残り少ない日数をどうか安らかに過ごしてほしいという病院側の配慮の表れでもあった。木々は赤く色づき、日に日に葉の数は減っていく。何を想う訳でもないのに、いつか聞いた童話のような話を思い出した。最後の1枚が散った時、また私も死ぬのだと悲観していた患者を気にかけ、同室のもう一人が接着剤で葉をつなぎ留めて勇気を与えた話。そんなことが自分の身にも起こらないかと、最後の希望だけは心の奥底でジリジリと燻っていた。


 入院から4日目の午後に担当医が血相を変えて病室に飛び込んできた。


「冴木さん…どうか落ち着いて聞いて下さい…。あなたの事でお話があります」


入るなりそう話す医師の顔は真っ赤で呼吸は非常に荒くなっていた。


『それってもしかして…。』


「ええ、今も信じられません。まさに奇跡としか言いようが無いのです…。」


 男の心にぼうっと熱い何かが燈った。今まで忘れかけていた未来への望み、どうしようもないとばかり思って諦めていたが、やはり奇跡は起きるのだと思いを巡らせているうちに頬を何年振りかの涙がすぅっと伝って布団にしみ込んでいった。


『先生…もしかして…。』


「はい…!私に宝くじが当たりました…!1等の6億です…。今も信じられません」


『…えっ?僕の癌が快方に向かっているとかそういう話では…?』


「は?そんな訳無いでしょう?持ってあと数日でしょうね。あ、そうそう大事な話と言うのはですね。私、今日で退職します。なのでまぁ後任の医師を適当に選んでおいて下さい。じゃ、銀行に受け取りに行くんでこの辺で失礼しますね。」


 医師は早口で話し終えると鼻歌を歌ってスキップしながら病室を後にした。末期の肺がんを患った男のその後の事は言うまでも無い。

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末期がんガン患者への奇跡の知らせ ネロヴィア (Nero Bianco) @yasou

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