第5話 憎めないハプニング

 初めて王様と出会ったと思ったら急に転校の宣言をされ、元いた高校に電話をしてみると「火蔵陽陰? 誰ですか?」と返されたから驚きだ。

 さすが王様だよなーとか悠長なことを言っている暇はない。絶賛俺の進路を変更中なんだが……。

 はあ、とため息を着くと横から声が聞こえた。


「どしたの?」

「……なあ、御門楓よ――」

「楓でいいよ~」

「じゃあ、楓よ。お前なんで俺と一緒に仲良く歩いてるんだ?」

「え? 好きだから?」

「今はそういうことを聞いてるんじゃねぇ!!」


 俺は道の真ん中で叫んだ。嬉しいよ!? 嬉しいけどさ! 俺はそういう意味で言ったんじゃありません!

 俺の隣を歩いているのは、東の王の娘にして、なぜか出会ったばかりの俺を好きだと嘘をつく御門楓だ。

 そして、何よりコイツが俺が転校することになった元凶でもある。

 再びため息を着いてから、俺はあることを思い出す。


「おい待て。お前まさか、このまま俺んちに来るとか言うなよ?」

「なんで?」

「なんでじゃねぇ! いいか? 来るなよ? 頼むから来ないでくれよ!?」

「そういうフリ?」

「ちげぇよ!!」


 ダメだ。こいつ、俺んちに来る気マンマンじゃねぇか!

 俺は泣きたい気分を振り切って、どうにかして楓を追い返す策を練る。だが、いい案は当然のように思いつけない。

 やがて、俺の家が見えてくる。

 ドクンッドクンッと嫌な高鳴り俺の耳に聞こえてくる。


「あ、ここが君の家なんだね!」

「……そうだけど。ホントに来るのか? ていうか泊まる気なのか?」

「あれ? 気づいちゃったの?」


 見ればわかる。大きい荷物は持っていないが、数日分の着替えができる程度のカバンは持っているんだから。

 しかし困った。見れば、親父の車はない。しかし、母さんの車は存在している。この時間だと、妹も帰ってきているだろう。このままでは完全にこいつの存在がバレる。

 困りに困り果てた俺が、試行錯誤していると、


「お邪魔しまーす!」


 楓が悪びれもなく家の中に入っていった。

 ……入っていった?


「おおい!! ちょっと待て!!」


 俺は靴を脱ごうとしている楓の肩を引っ張ると、


「へ?」


 勢いが強かったからか、元々軽い体が紙のように俺の方に引っ張られてきた。あ、まずい。ちょっと力込めすぎた。

 次の瞬間、俺に楓がのしかかるように地面に倒れてしまった。


「つぅ……すまん。大丈夫か?」

「あっ、うん! 私は大丈夫だけど、君の家族は大丈夫じゃなさそうだよ?」

「は?」


 俺は楓の体から視線をずらし、開けっ放しのドアに目を向ける。そこには、今年中学一年になったばかりの我が妹が頬を引き攣らせながら絶句していた。


「あ、楠葉くずは、これはその……」

「おかーさーん。にぃが外で女の人を犯し――」

「てねぇよ!! 母さん! 大丈夫だ! 何も起こってないぞ!?」


 俺は爆弾発言もいいところの妹の発言に誠心誠意の否定の叫びを放つ。






それから五分後。

 結局、母さんに楓の存在がバレたため俺は渋々紹介した。


「こいつは――」

「御門楓です! 彼女してます!」

「なあ、頼むから黙っててくれる? お願いだから黙っててくれ、な?」


 もう、泣きたい。この子、俺を破滅させたいのかしら!

 俺は気を取り直して紹介を再開する。


「こいつは御門楓。御門恭介の娘だ」

「……誰だっけ?」

「頼むよ母さん。東の王の名前くらい覚えていてくれよ……」

「ああ、そうだったわね……はい?」


 母さんはやっと事の大きさを知ったらしい。国王の娘がこんな家に来ているのだ。さぞ、驚くだろう。

 と、思っていたのだが。


「ひ、陽陰……彼女ができたの!?」

「驚くのそこかよ!?」

「うぅ……私のにぃが……」

「大丈夫だ! 俺はいつまでもお前だけの兄貴だから!!」

「あははー! 面白い家族だねー!」


 緊張感もへったくれもない。どうしようもない家族ですみませんね、ホント。

 俺は意外にも馬鹿な家族に頭を抱えたい衝動にかられたが、母さんが真面目な顔になったので俺は息を飲んだ。

 俺の母さんは国際魔術師ランクA級の魔術師だ。ちなみに、国際魔術師ランクとは5段階の階級制でA級魔術師は世界でも数える程しかいないらしい。その上もあるようだが、それは既に国王に最も近い存在であるとされ、秘匿になっているのでいるかもわからない。

 つまり、存在が確立している中で最強の魔術師はA級魔術師ということになる。

 そんな母さんが、真面目な顔をしたということはこれからは真面目な話に――


「それで? 私の息子とはどこまで行ったの?」

「全然です!」


 あ、ならないのねー。最後までブレないのねー、母さんは。

 俺はふざけた親に心底うんざりして、ソファの背もたれに背を任せる。

 どうしよう。このままだと本当にお泊りになってしまいかねないぞ……。

 どうにもできない現状に救いがあるとすれば、妹が俺の頭を撫でてくれたことだろう。


「いい子いい子」

「お前だけだ妹よ! 兄をいたわってくれるのは!!」

「私はにぃの味方だよ?」

「うぉぉぉぉおおおお! 兄は感動したぞ!!」


 最愛の妹に抱きつき、頬をスリスリと如何にもロリコンがしそうなことを平気でしだす俺。まさに外道である。

 と、そんな中、母さんが小さくため息をつく。


「はあ、息子が自壊しそうだから、そろそろ真面目な話をしましょうか」

「そだねー。じゃあ、何から聞きたいの?」


 今度こそ真面目な話をする気になった母さんと楓がお互いの腹を探りに入った。

 俺と楠葉はじっと二人の話に聞き入る。


「じゃあ、まず。あなたはどうしてここに来たの? 息子の『中の物』が目当てかしら?」

「ん~。それはないな~。だって、それを操れるのって彼だけでしょ? 強大すぎて、私には扱えないよ~」


 ふむと頷いて、母さんは次の質問に入った。


「なかなかの『良い目』を持っているわね。じゃあ、私たちのことは知っているのかしら?」

「知らないよ~。一般人には思えないけどね」


 なかなかイイ線を言い当てる楓に俺は心底驚いた。

 こいつ、母さんに会うのも見るのも初めてなはずだろ? なんで、こうも言い当てられるんだ?

 そういえば、楓の親父さん、つまり王様がこいつは昔から『勘』だけはよかったって言ってたけど、ほんとにそれだけか?

 母さんは2回の質問を経て、朗らかに笑った。

 どうやら、悪者ではないと見破ったらしい。母さんは立ち上がると手を差し出した。


「あなたはいい子ね。ただ本心が読めないのが難だけれど」

「しょーがないよ。パパにそう育てられたからね」

「まあ、情報漏洩防止には持ってこいよね」


 楓も立ち上がると母さんと握手を交わした。

 ふぅ。一件落着か……いや待て、このまま行ったら――


「さあ、今日は五人分のご飯を作らなくちゃいけないわね!」

「やっぱ、そうなるのかよ……」


 こうして、親公認でお泊まり会が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

王様の娘が俺の彼女になるそうです。 七詩のなめ @after

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ