第4話 始業式
まず最初に、国王とは何かを説明しよう。
国王とは、日本が四つに分断された時にいち早く日本を取りまとめた四人のことを指す。だが、民衆が決めた正式なリーダーではない。ただし、すべての人類が総じて崇める存在だ。それは、規格外の力を持つが故の崇拝。つまり、四人いる国王は武力で民衆を押し黙らせたことになる。
実際、世界戦争を停戦にまで追い込んだのは、壊滅寸前の日本だったとアメリカの歴史書に書かれている――日本の歴史書には四人の国王がアメリカを文字通りぶん殴ったと書かれている――。自然災害で壊滅寸前だった日本では、四人の強者が立ち上がり、瞬時に統率を測った。それは見事に成功し、日本は他国を押し黙らせるほどの余裕が出来たのだ。
十年、否、もっと莫大な時間をかけなくては復興などできなかったと言われている災害を、たった一年で復興させたのは四人の国王があってこその偉業だと、他国からは恐れられているが、実質の国王の戦力も相当なものだ。
十年ほど昔、ある国の大使が日本に人身売買のルートの密談をしに来たそうだが、それを知った西日本の国王が密談者の祖国を一瞬にして壊滅させ、隣国をも消し飛ばそうとしたところを、バカンスに来ていた北日本の国王が笑って防いだという事件――なお、北日本の国王は隣国を守ったのではなく、ただ戦いが面白そうだから邪魔しただけという噂も存在する――があった。
このことから、他国のお偉いさん方は四人の国王を含むすべての日本人を『危険人種』と呼んでいる。
そして現在、目の前で爽やかに笑うのは、なんと東日本の現国王である御門恭介だった。
「いやー、反乱分子を消すためとは言え、さすがにやりすぎたかな? ほら、なんかみんなの目が怖いんだけど……」
口ぶりからして、自分が狙われていたことは知っていたらしい。その上で、ダミーまで作って姿を現し、炙りだしたのだと言う。
恐ろしい人だ。歴史書にあるままじゃないか。いや、敢えて言うなら、歴史書の写真と何ら変わらないのだ。姿は若干違うが、顔立ちは全く同じだ。
俺は危険を顧みない国王という人種に身震いしながら、座ったまま御門恭介を見た。
本当かどうかは知らないが、東日本の国王は死んでも死なないらしい。灰にしたと思ったら、どこからともなく復活し、絶対に勝利を勝ち取る。そのせいで東の王は『
御門恭介は驚きを隠せないみんなの顔を見ながら、首を傾げていた。
「あれ? もしかしてサプライズって知らないの? ほら、サプライズだよ。面白いだろ?」
子供っぽく笑っている国王に呆然とする少年少女ら、その中でひとりの少女が前に歩いて行った。
「もう! 作戦は聞いていたけど、ママを危険に晒さないでよ!!」
「おいおい。怒るなよ。何にも危なくなかっただろ? ほら、そこの少年とか、あそこの少年とかが守ってくれてたし」
「そういう問題じゃないよ!! パパのバカ!」
その少女は南波楓だった。
そうか。親子だったのか。なるほどなー……は?
「はぁぁぁぁああああ!?」
親子!? 東の王と、南波楓が!?
いや、いやいやいやいや! だって、苗字違うじゃん!
俺が驚いていると、南波楓が俺に近づいてきた。
「あはは。驚かせちゃった? 事情があって偽名を使ってたんだ。もう一回、自己紹介するね、本当の私の名前は
などと可愛らしく自己紹介してきた南波楓、もとい、御門楓に俺は頬を引きつらせていた。
俺、もしかして、クソ面倒な事に巻き込まれてる?
考えるまでもなく巻き込まれているのだが、そのことは深く考えたくない。とにかく、帰りたい。今すぐ帰りたい。返って、夢だったのだと実感したい。当然、無理な話だろうが。
「ねえ、もう
「ああ、悪かったな。男の役させちまって」
「大丈夫だよ。あとでベッドの上で気持ちよくさせてもらうから♪」
「うん。とりあえず子供の前でそういうのはやめような!?」
「え? なんで? お昼寝しちゃいけないの?」
「そっちね!」
マイペースな国王はさておき、俺はどうしていいのかわからなくなっていた。
そもそも、俺は無関係なわけで、こんなところに用などなくて、帰っても誰にも文句を言われる筋合いなどないのだが、なぜか御門楓が俺を離してくれない。
御門楓の目は、俺に興味津々というキラキラしたもので、どうにも眩しい。
「あ、あの、なにか?」
「なんで敬語? 多分私のほうが歳下だよ?」
「い、いや、一応ご令嬢だし……」
「そういうの嫌い! 君から見て私は人じゃないの?」
「そ、そういうわけじゃないんだが……」
やりにくい。可愛いから特にやりにくい。
べったりとひっついてくる御門楓を片手で押しやりながら、御門恭介の会話に耳を向ける。
「恭介さん。犯人は縛りましたよ」
「こっちも終わったよー」
「どうする? 消す?」
「まあ、待てよ。
いつの間にか倒した敵を縛り上げている少女らが御門恭介とそんな会話をしている。
あの人たちも、どこかで見たことがあるような……そうだ。御門恭介の身辺を守るガーディアン。確かそんな感じで通っていたはずだ。
「あ、ママたちの仕事も終わったみたい。さっ、行こ?」
「あ、ああ……ママたち?」
「うん。私、捨て子だったみたいだから、パパたちは本当の親じゃないんだ」
なるほど。王族にならよくありそうなことだな。
座っていた俺は、御門楓に引っ張られるがままに立ちあがった。すると、御門楓が俺の腕に抱きついてきた。
「うっ……」
「やっぱり、痛む? さっきの攻撃、完全に防げてなかったもんね」
「……気がついてたなら、してくるなよ。イテェんだぞ?」
「ごめんごめん」
言って、離れる御門楓。その後も、俺の周りをちょろちょろと回ってから、ニコッと微笑んでいた。
一体、何がしたいんだこいつは……。
俺は小さくため息をすると、今度は傷まない方の腕を御門楓に引っ張られた。
こ、今度は何をされるんだ!?
「お、おい!」
「パパー! 私、この人のこと好きみたい!」
「は!?」
「何!?」
俺と東の王の声が重なる。同時に、俺の頬がこれ以上になく引きつった。
何をのたうち回ってんだよ、この女!! しかも、パパって、パパって王様じゃないですか、やだー。
娘である御門楓に突然の宣言を受けた王様は頬を引きつらせながら指をポキポキと鳴らして俺にガンを飛ばしてくる。
「お前、女にしてやろうか?」
「ど、どういった方法で?」
「取る」
「何を!?」
ダメだ。強さが規格外なら、頭の出来も規格外だぞ、このひと! しかも、親ばかと来たもんだ! 俺死ぬかも知れない……。
王様が腕を振り上げ、
「歯ぁ、食いしばれよ、クソガキ」
思いっきり殴りかかってこようとしたとき、笑顔の御門楓から意外な言葉が出された。
「あっ、パパ。パパじゃ、その人に勝てないよ」
スンっと空気が俺の顔面を撫でたと思ったら、全身に鳥肌が立った。
ど、どういう意味ですか、それは! この女は俺を殺したいのか!?
正直、今の俺はこれ以上の力が出せない。今の状況の俺がどう頑張っても勝てる相手じゃない。
それを知っているのか、少女はこうも言っていた。
「ただ、今は力を使ったせいで全力は出せないようだけど。全力のこの人に、パパは絶対に勝てない」
「……なんで、言い切れる?」
「だって、私が好きになった人だよ? パパより強くなくちゃ、好きになんてならないよー」
なんて無茶苦茶な理論だよ!
だが、御門楓は自信をもって、言い切っていた。つまり、確証があるのだ。俺の全力を見ていないはずの少女がここまで言い切れる理由。それを、俺はまだ知らない。
果たして、王様は鼻を鳴らして、腕を引っ込めた。どうやら、納得したらしい。
「お前が言うんじゃ、そうなのかもな。昔から、お前は、『勘』だけは良かったからな」
「えへへ~♪ 褒められちゃった~♪」
「はあ……」
王様は小さくため息をしたかと思ったら、振り返って果てしなくめんどくさそうな顔をしながら宣言した。
「お前たちを集めたのは他でもない。この廃校になっていた高校を再び開学させる! お前たちは第一期生として呼び立てた! 四十二人呼んでいたのだが、諸事情により三十九人になってしまった。しかし、案ずることはない。ここに、四十人目を見つけ、転入させた」
そう言って、俺の体を引っ張って壇上からみんなに見える位置に移動させられた。
………………は?
「さて、皆に問おう。人生は面白いか。尊いものか。もしもそうだと思うやつはここから立ち去れ。人生を楽しいと思うやつに、俺は興味がない! 人生とはつまらない! くだらない事の連続だ! でも、お前たちが持っている能力は素晴らしい! しかし、その分ほかのことがからっきしできちゃいない! だが、それでいい! 主人公に平穏な日常は必要ない! 力があり、守りたいものがあれば、物語は成立する! お前たちは国王を超えられる!!」
御門恭介が何を言っているのかわからなかった。
だが、少なくとも、俺の横にいる王様は……本物だ。本物の主人公(メインキャラ)だ。それだけは、身震いと同時にわかった気がした。
横で堂々と立っている御門恭介が息を吸い、
「ここに、主人公育成機関桜坂高校の開学を宣言する!! テメェら! もう、逃げ隠れする理由はなくなった!! 思う存分に暴れやがれ!!!!」
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