7. リジェクター
『|狩る側の者(リジェクター)』とは、言うなれば|賞金稼ぎ組織(ギルド)のことである。
我々は魔物達に狩られる側ではない、狩る側だ!
という強い想いから名付けられた組織で、世界中至るところに存在している。
仕事としては賞金が掛けられたモノを倒す以外にも、材料採集、輸送の護衛などの民間から依頼や、国から直接依頼がくるなど、何でもやっている、本当に何でもやっている。
ほとんど仕事発注所なのであまり組織だった行動はしないが、その影響力は多大なものである。
「――……しっかし、自分で言うのもなんだけど『|狩る側の者(リジェクター)』って厨二病過ぎるよな……。――っと、ここだ」
思い出しながら歩いていると、目的地の目の前まで着いていた。
『|狩る側の者(リジェクター)』ラザワンテ支部。
砕かれた剣と砕かれてない剣が寄り添うようなデザインをされた看板以外、特に特筆することがない薄汚れた建物。
「すぅーー」
僕は深く深呼吸して、その無骨な扉を開いた。
(うわっ、酒くせぇ)
途端に襲ってきたのは、下手するとそれだけで酔いそうなお酒の匂いと、リジェクター達の珍しいモノを見るような視線だった。
(ウーム、やっぱりこの服変わっているだな。まあ他の国どころか、他の世界の服装だしな)
視線に堪えながら、受付の女性に声をかけた。
「あの、すみません。リジェクターに登録したいのですが」
「あ、はい分かりました。紹介状などはお持ちでしょうか?」
「いいえ、持っていません」
「ではFランクからですが、よろしいですか」
「はい」
受付の女性はテキパキと言い、電話帳のような分厚い冊子を取り出し、
「ではお名前を聞かせてください」
「凌木菱和です」
「『シノギ・リョウワ』ですね、分かりました」
サラサラと僕の名前を書いた、もちろん日本語ではなく、昨日図書館で見たどの言語とも違っていた。
しかし、それも何を書いているのがわかるので、『これ』はかなり万能のようだ。
ちなみに、おそらくこの冊子はリジェクターの登録本であると思う。
「では次に、登録のために簡単な情報を取らせていただきます。これに手をおいてください」
次に魔方陣が描かれた薄い琥珀色をした板のようなモノを出された。
言われるがまま、それに手を置くと魔方陣が薄く発光。
すると少し皮膚の上を細かいものが動くような、むず痒さを感じた。
(これは|知るための物(エアファーレン)だな)
|知るための物(エアファーレン)とは情報を抜き出すための魔法具の総称のことである。
身体能力を調べたり、魔法色を調べたりと様々な種類があるが、これはかなり簡易的なもので認証に必要な情報のみ抜き出すことができるのだ。つまりは本人確認のための情報を調べているのだ。
比較的にリジェクターは誰でもなれる(入れる)モノだけれども、基本的に信用商売なため、こういった情報が必要となってくるのだ。
「はい、いいですよ」
光が治まるとすぐにむず痒さも感じなくなった。
受付の女性は|知るための物(エアファーレン)をリジェクターの登録本に軽く押し当てた。
すると魔方陣がスタンプのようにページについた。
受付の女性は次にチェーンが付いた青い結晶を板の上で漂わせた。
(記憶結晶(インプットストーン)だな)
記憶結晶(インプットストーン)とは魔力を持つ魔法石の一種で、言うなればUSBメモリーのようなもので様々な情報を蓄積することができるのだ。
そして『|狩る側の者達(リジェクター)』の場合これに特別な加工を施しており、周囲の情報を簡易的に集めることができる。請け負った仕事をしっかりとこなしたかの1つの証明となるのだ、仕事を達成を欺くことや仕事を達成した本人以外が不当に報酬受け取ることをできなくするためのものである。リジェクターの資格証(ライセンスカード)で、簡単な身分証にもなる。
(欺くことはかなり難しいけど、不可能ではないんだよな――まあ、記憶結晶(インプットストーン)以外での確認もするし、欺く労力もけっこうかかるからあまり意味ないけど)
そう考えている間に記憶結晶が一瞬強く発光したが、まるで花火かのように光は消えた、情報の注入が終了したのだろう。
「はい、これでシノギ・リョウワさまの登録は終了しました」
記憶石(インプットストーン)を受け取り、首から下げた。
「これは仕事(クエスト)を受理する時等にも必要ですので、なくさないでください」
「わかりました。ありがとうございました」
早速僕は1つ仕事(クエスト)を受けてみることにし、仕事(クエスト)の依頼状が貼られたクエストボードの前に立った。
依頼状には仕事(クエスト)内容と成功報酬、そして制限ランクが書かれている。
先ほど僕はリジェクターは信用商売と表現したが、その信用度を分かりやすくしたのが、FやDといったランク分けである。
一番下のFから始まってF+、E、E+といった感じにローマ字順に上がっていき、A+より上は、S、S+、SS、SS+といった感じに順にSの数が増えていくといった感じに分けられている。
このランクは一概にそうだとは言えないが、=強さのランクと言うこともでき、ランクか上がれば国からの仕事など、重要度が高い難しい仕事を受けることが出来るようになっていく。
(当たり前だけど、信用できんやつ弱いやつに重要な仕事を任せるわけにいかないしな)
つまりは、リジェクターになったばかりの僕は最低ランクのFなため、簡単な仕事(クエスト)しかできないというわけである。
(――まあ、いきなり難しい仕事(クエスト)やっても危険なだけだしな。できるだけ簡単なやつからやるか……)
しばらくクエストボードを物色してると、一人のおっさんが声をかけてきた。
「おいニーチャン! あんた新人だろ」
全身から酒の臭いをさせ、かなりよいがまわっているのか顔を真っ赤にしたそのおっさんに俺は、
(うわ酔っぱらいに絡まれた! めんどいな……)
と鬱陶しく思ったが、無視する気にもなれなかったので、それを表に出さないように対応した。
「まあ、そうですけど。何のようですか」
「いや俺はヘベンっていうんだが、見たところニーチャン武器を何も持ってないみたいじゃないか」
「はぁーそうですね」
実際問題、自分もそれを心配しているのだ。
魔物がいるらしいこの世界において、武器といった対抗手段を持っていないのは、かなり危険なことだ。
だからといって武器を買おうにも、そのお金なんて有るわけもないので、『狩る側の者達(リジェクター)』の武器を必要としない店の手伝いなどの、町から出ない比較的安全な依頼(クエスト)をこなして武器を買うお金を得ようと考えていたのだ。
「それはいかんな。武器を携帯しないなんて、死にたがりの馬鹿か格闘家のどちらかぐらいなもんだ」
そう言って、ヘベンは懐に差していたナイフをケースごと僕に向かって放り投げた。
「えっ」
そのナイフを少し落としそうになりながら受け止めると、腕に金属類の確かな重さが生じた。
それを見ると、グリップ部分に少し擦りきれた布が巻かれていて、使い込まれている印象を抱いた。
「これは?」
「俺がガキの頃愛用してたもんだ。そんな物でも持たないよりはマシのはずだ」
恐る恐るグリップを握るとしっかりと手に吸いつくように馴染み、ケースからゆっくり引き抜くと刃零れ1つない片刃の刃が鈍く光を反射した。
「いいんですか?」
ナイフをケースにしまいながら僕は聞いた。
「古いもんだが、手入れは一応してあるから問題なく使えるはずだ」
「いやそうじゃなくて、交換条件というか……代償というか」
「代償?」
そう言うとヘベンは愉快そうに大口を開けて笑った。
酒の臭いがひどくなるから口を開けないで欲しい。
「そんなもんいらねえ。新人に施しを受けるほど落ちぶれている気はねぇーよ。おっさんの意味ない善意とでも思ってくれ」
少し思案したが、この事は普通にありがたいし、何か思惑があるはずもないので、
「ありがとうございます」
素直に感謝の言葉を述べ、心の中で「鬱陶しいと思ってすみません」と謝った。
貰ったナイフを左腰に差す。 ほんの少しナイフの重みで比重が寄った気もするが、何の支障なく動けるだろう。
「なかなか様になったな。 まあ頑張んな」
酒盛りの途中だったのか、ヘベンは直ぐに騒がしい輪の中に混じっていった。
(よし武器も手にいれたし、初クエストといきますか!)
意気込んだ僕は、クエストボードに貼られた一枚の依頼状を剥ぎ取り、クエスト受理手続きを手早く済ませ、
(――さてと、頑張っていきますか!)
|狩る側の者達(リジェクター)のドアを開け、仕事場に向かった。
失英雄の落丁本(エクセプト) @mitaku
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