3. ラザワンテ
道がしっかりと舗装されていないせいでよく揺れるが、座るのに躊躇するぐらいのかなり高級そうな柔らかな座席が、衝撃を吸収してくれるおかげで、初めての馬車の乗り心地はそれなりに良かった。
馬車に乗ってからルクルは宣言どうり、子どものように興味津津とばかりに質問をぶつけてきた。
「その服装はどういった物なのですか?」
「故郷での風習などを教えてください?」
「ここまでの旅で心に残ったのはなんですか?」etc...
それらの質問に対してでっち上げなどを織り交ぜながら答え、ルクルはそのたびに感心するような相槌を打った。
僕も質問の合間を狙っては逆に、様々なことについて質問した。
――いま僕は、自分の書いた小説の世界の中に居るのかもしれない。
詳しく現在地を言うと、小説の主人公が物語の中盤に訪れる【騎士国家ルーセルト国】領地内にいるらしい。
ルーセルト国の建国は千年ほど前と歴史は長く、[英雄騎士]クロティウス・ルーセルトの下に人々が集まってきたのが切っ掛けである。
今現在は、クロティウスの子孫が代々国を統治する王権君主制をとっており、特色としては国名から分かるように、主な戦力である【ルーセルト騎士団】が挙げられる。
騎士団の役割としては、国軍としての基本的役割のほかに、警察のようなことを行う治安維持、未開地調査など多岐にわたる。
――領地面積や特産品などの細かい事の確認はできなかったが、僕が考えたルーセルト国の設定とルクルから聞いたルーセルト国の歴史や制度は完全に一致していた。
「――よく私たちの国について勉強してくださっているのですね」
ルクルは嬉しそうに微笑んだ。
(僕が持っている知識がどれだけこの世界と『合っている』のか確かめるのが先決か)
「そろそろ着きますよ」
などと決心していると、馬を操っているナキセが声をあげた。
窓から身を乗り出して外を見ると、様々な西洋式建物を一望することができた。
「あれがラザワンテか!すげぇー。マジでRPGとかの風景じゃん」
頬を撫でる風を感じながら、僕は感嘆の声を上げた。
ルーセルト国第二都市ラザワンテ。
首都クロパリスに次ぐ大都市で、多種多様な交易品が飛び交うルーセルト国随一の貿易都市である。
国境近くに存在するこの町には、あらゆる国の人たちが訪れ、その者たちが持ち込んだ古今東西の品が飛び交っている。
それから僕たちを乗せた馬車はラザワンテの入り口である大きな門に到着し、ナキセが通行許可の審査を手早く済ませた。
そして馬車は門を潜り抜けラザワンテの中に入って行った。
「さて、送るのはここまでで良いかな?」
そう言ってルクルは馬車を停めさせた。
「は、はい。ありがとうございました」
僕は馬車から降り、礼を言った。
「いやこちらこそためになる話を聞かせてくれてありがとう」
またいつか会いましょう。 そう言い残し馬車は去っていった。
「ふーー」
馬車の後ろ姿が見えなくなると、僕は肩の力を抜き安堵の溜息をついた。
(慣れない敬語を使って若干疲れたけど、最初の町がラザワンテだったとは幸運(ラッキー)だったな。――と表現するよりは『不幸中の幸い』と言った方がいいのかな?)
周りを見渡すと輸入品をなどを扱う様々な種類(ジャンル)の店がそこらかしらに建ち並び、それを求める人の行き来は止まること知らず、売り買いする人たちの声が溢れかえり、騒々しさを感じるほど活気に満ちていた。
人が沢山訪れると言うことは、それはつまり多種多様の情報が入ってくるということと同意味でもある。
しかもここには、国本だけではなく輸入本も多く扱っている、国内蔵書数NO.1を誇る国立図書館『知望の集い場(コノシェンツァ)』があるのだ。
情報を集めるという目的においては、これほど良い場所はそうはないだろう。
「――まあ、さっさと情報を集めてしまいましょうか」
僕は早速『知望の集い場(コノシェンツァ)』を探し始めた。
♭
シノギと別れた後、しばらくして馬車に揺られていたルクルはナキセに質問した。
「――どう思いましたか?」
「『どう思いましたか?』ってシノギ・リョウワのことですか?」
ルクルはその問いに「はい」と答えた。
「私個人としては、ただの得体の知れない男としか思いませんね」
「まあ、そうですよね」
ナキセの返答に共感するようにルクルは頷いた。
「――だけど不思議だと思いませんか?」
「不思議ですか……私は特に何も。変な奴とは思いましたが」
そう言うナキセに、ゆっくりとルクルは告げる。
「彼の服は長旅をしてきたというのに、ほとんど無傷に近い状態でした。あのような材質の服はこの辺では見かけませんので、買ったばかりという可能性は少ないでしょう」
「そう言われればそうですね……」
納得するナキセに、ルクルは更に続ける。
「武器も所持していませんでしたし。それどころか『手持ち倉庫(ハンド・ウェーザース)』さえも所持していませんでした」
「誰か護衛がいるならまだしも、そんなのただの自殺行為ですよ」
「そうですよね。彼の反応から見ても、この町の住人ではないみたいですし。――それに私は彼が嘘をついているように感じました。どこまでが嘘なのかはハッキリと分かりませでしたが、真実だけを話してしていない事は自信を持って言えます」
何かを考えるようにナキセは渋い顔をしたが、諦めたように首を横に振った。
「――分かりません。いったい奴は何者なんでしょうか?」
「それは私には分かりません。ですが――」
ルクルはそこで言葉を切り、既に見ることは出来ないが、窓からシノギが降りた方向を見つめて前髪をフワッとかき揚げ、ゆったりと笑顔で言った。
「彼とは何度か会うことになりそうです」
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