2. 見たことがある?
「キミは、この世界にどんな題名を付ける?」
僕はその問いに――
#
僕は自分の背丈ほどもある草や、木の枝を掻き分け森の中を進んでいた。
上が半袖のため、腕に草などがウザくなるほど刺さってくる。
その感触がこの状況をより一層、現実(リアル)であるという認識を強くしていった。
もし自分に植物や木について詳しい知識があったのならば、これらの邪魔してくる植物たちの分布地域から現在地を何となくは判断することができただろう。
「だけど、そっち方面の知識は皆無だからなー。分かるのは熱帯雨林ではない、という事ぐらいだな……」
気温も湿度も高すぎず低すぎもしないので、熱帯地域でも寒冷地域でも乾燥地域でもないのだろう。
というかそれしか想像できない。
「全然わかんねぇー!こんな事になるんだったら、地理を勉強しておけばよかったよ!」
そう嘆いてみたが、勉強していたところでこの状況を打破できるとは思えないのだけども。
(――っというか、道標がないからただ単純に真っ直ぐ行っているのだが、自分は更に迷っているのではないのか?というか目的地が曖昧な今、『迷う』という言葉は適切な表現なのだろうか?もしかしたら自分が探す目的地というモノは最初から存在しないのかもしれない。だとしたら今の自分は『迷う』という状況に陥っているのではなく、当たり前の状況の中に居るのかもしれない)
「ああダメだ!!そんなネガティブになってどうする!?」
頭を音が出るくらいに激しく横に振り、その考えを脳内から追い出す。
情報がなくて不安なせいか、どうしても嫌な考えばかりが頭に浮かんできてしまう。
「と、とにかく、この森から出ないとな……」
気持ち歩調を早め、目の前の草を掻き分けていると――
「我発見したり!」
木々の合間から、道を見つけることができた。
見慣れたしっかりとセメントが敷かれた道路ではなく、土むき出しのとりあえず平らに舗装された程度の道だったが、人工的なモノには違いない。
「まあ、これでなんとかなるだろ」
言葉になかにおいては冷静であったが、かなり僕の気持ちは舞い上がり興奮していた。
そのため、その道に向かって一目散に駆けていった。
ここでひとつの教訓を述べさしていただきます。
道路や道に出るときは、左右をしっかり見ましょう!
道に飛び出た、その時。
「ヒヒーン!!」
猛々しく耳につんざくような馬の雄叫びがし、振り向くと、目の前に大きな馬が前脚を空に高く挙げたいた。
大の大人よりも大きなその身体のせいで、太陽の光は遮られ僕は影に覆われた。
「――はい?」
挙げられた脚は必然的に下ろされる。
そして下ろされる先にいるのは、もちろん僕―――
「のわぁああああああ!!?」
寸前で身体を反らし、直撃を避けることが出来たが、そのまま尻もちをついてしまった。
「こ、このクソガキ! なに急に飛び出してきてんだよ!? アブねェーじゃねえか!」
馬は馬車を引いていたらしく、手綱を握っていた男が馬を宥めながら怒鳴ってきた。
「す、すいません……」
と直ぐに謝ったが、
(ヤベッ!初めて馬車なんか見たよ。まあ、カボチャの馬車じゃないからシンデレラではないな)
などと見当違いのことを考えていた。
すると馬車から透き通った上品な雰囲気を漂わせる、シンデレラの声ではなく、若い男の声がした。
「突然止まって、どうしたのですか?」
「ああ、すみません!行き成り子どもが飛び出してきたもので」
声から判断したら僕とそれほど年齢が変わらないというのに、さっきの態度がウソみたいに消え、男はへりくだった口調で馬車に向かってペコペコしながら言った。
「こんな所に子どもですか?それはとても珍しいですね」
馬車の扉が開き、一人の男がゆったりと降りてきた。
櫛がなんの抵抗もなく通りそうな金髪。
日焼けという言葉さえも知らないような白の肌。
優しさを感じられる瞳でありながら奥に、鋭く洗練された一本の芯が通っているのを感じられる、声質どうりの容姿端麗な若い男性で、まるで貴族のようだった。
「わざわざあなた様がお降りにならなくても!」
慌てる様に男は言ったが、若い男は片手を挙げて制し、僕のところまで歩み寄ってきた。
「子供扱いは失礼じゃないですかナキセさん。私とそれほど年も変わらないじゃないですか」
そう言って、若い男は手を差し伸べてきた。
そこでまだ尻もちをついたままだったことに気付き、僕は恥ずかしさをか感じながらもその手をとり、立ちあがった。
「ケガが無いみたいで良かったです」
若い男は頬笑み、前髪をフワッとやわらかにかき揚げた。
(……な、なんか僕、少女マンガのヒロインみたいだな……男なのに)
そう落ち込みながらも、この若い男に対し先ほどの森の風景を見たときよりも一層強い、既視感(デジャビュ)を感じていた。
――というよりは、先ほどまでのは『どこかで見たかな?』と曖昧な感覚だったが、今ハッキリと分かった。
僕が今感じているこの感覚は『見覚え』があるのではなく『書き覚え』があるのだという事を。
「――ルクル・ファンブレ」
僕が漏らしたその名に、若い男は嬉しそうにハニカミ前髪をかき揚げた。
「私の名前を知っているのですか?光栄ですね。はい、私は《ルーセルト国第五騎士団・団長》ルクル・ファンブレと言います」
そう若い男――ルクルは恭しく名乗った。
なぜ、僕がこの若い男の名前を知っているのか?
それは単純明快だ。
ルクル・ファンブレは僕が書いている小説に登場するキャラクターの一人で、目の前の若い男の容姿、言動が小説内でのルクルの設定と一致していたからである。
つまりは、僕が既視感(デジャビュ)『書き覚え』を感じているのは、僕が小説で描いた世界と、今|現実(リアル)で見ている世界が一致しているからである。
(ということは、ここは僕の小説の世界なのか?いやいやいや!!いくら自分が厨2病患者だとしても、そんなはずないだろ)
(――だけどもそれを否定したら、ここは本当になんなんだ?)
(くそ! わかんねえ!)
一度思考を落ち着かせる。
(――……まあとにかく、もっとこの世界について情報が集めたほうが良いことだけは分かった、それから判断していこう)
「それでキミの名前はなんと言うんだい?」
ルクルは興味深そうに聞いてきた。
「僕は凌木菱和(しのぎりょうわ)といいます」
「シノギ・リョウワ……。あまりこっちの方では聞かない名前ですね。服装も珍しいものみたいですし――遠くからの旅の方ですか?」
自分でもさえもどうやってここに来たかは分からないし、下手に事情を話すのもどうかと思ったので、
「ええ、そうですね。初めて来たせいで気が付いたら森の中を迷っていましたよ」
とだけ答えた。
「ケトス森林は魔物の数は少ないとはいえ、とても広いですからね。迷うのは仕方がないですよ」
「そう言ってもらえて安心しましたよ」
自分でも驚くぐらいに、嘘(セリフ)がスラスラと流れる様に出てきた。
もしかしたら自分には役者の才能があるのかもしれない、と自惚れてみた。
「そうだ!」
突然ルクルは思いついたように、手を叩いた。
「もしよろしければ、近くの町まで送ってあげましょう」
「えっ!?良いのですか?」
「大丈夫ですよ。道すがらに旅のお話を聞かせていただければ、それで充分です」
町でだったらこの世界についての情報も集めやすいはずだ。
それにそんぐらいの事はどうにでも誤魔化せるので、その申し出は願ったり叶ったりだ。
「それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
「……私はこんな得体の知れないモノを運ぶのは嫌ですが、ルクル様がそう仰るのなら反対はしません」
手綱を握っているナキセと呼ばれいた男は、嫌そうに言いながらも了承した。
(――そういえば。コイツに対しては、ルクルとか風景に感じるよな『書き覚え』を全く感じない、普通に初対面みたいだな。まあ実際、こんな奴は会ったことも書いたことは無いから正しいのだけど……)
正しいはずのものが、間違っているものの中にあると、それが逆に間違っているように感じてしまうものだろう。
「――では行きましょうか」
そうこう考えていると、ルクルはエスコートするように馬車のドアを開いた。
――まあ、それらについても追々、情報が集まってから考えようか。
そう思考に区切りをつけ、馬車に乗り込んだ。
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