1. 目覚めたらどこか
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日の光が顔に降り注ぎ、僕は惰眠を貪ることが不可能になった。
日の光を避ける様に顔を背け、手探りでカーテンを探した。
しかし僕の手は空を切るだけで、何も手に触れることはなかった。
さすがに我慢の限界となり、跳ね起きカーテンを閉めようとしたが――
「………はい?」
そこにカーテンはなかった。
それどころか窓も壁さえなく、ただ森が広がっていた。
そして僕はベットではなく、豊かな草の上に寝っ転がっていた。
すぐさま立ち上がり周りを見渡したが、やっぱり視界に映るのは森だった。
自分が寝てたはずの部屋の物は一つもなかった。
小学校のころから使っていた机も、マンガや小説が所狭しと並べられた本棚も、小まめに調整しないと遅れる時計も、機種変したばかりの携帯も、全てなくなっていた。
目を擦ってみた。
変わらず森だった。
もしかしたら、森じゃなく林なのかもしれない。
「林だとしても、木が群生してるという意味では同じか」
あははは。
何となく笑ってみた。
……びっくりするぐらい意味がなかった。
「――って、落ち着け落ち着け自分! 取り乱すな! こういう時はまず最初に何をやる?! そう頬をつねることだ!!」
動揺しすぎて自問自答を実施していた。
ちなみに、頬をつねったところ、その行動に値するだけの痛みがした。
吹き抜ける風の心地よさ、木の葉が震える微かな音。 そして靴の裏からくる豊かな草の感触も全て夢などではなく、疑う事なき現実(リアル)のモノだった。
(………って靴?)
別に僕には、靴を履いて寝るという習慣はないし、昨日の夜だけ靴を履いて寝たということも決してない。
しかし足下を見ると、目覚めたばかりというのに、僕は履き慣れた運動靴を御丁寧に靴紐をしっかり結んで履いていた。
しかもそれだけではなく、周りの景色の変わりように気を取られて気が付いていなかったが、服装も昨日寝た時とは違い、運動しやすい格好になっていた。
「駄目だ……有り得ない状況過ぎて、脳の処理容量(キャパシティ)が限界だ」
思考することを一旦投げ出し、両腕をあげ、大きくゆっくりと深呼吸を二回行った。
( ――……よし落ち着いた)
おもちゃ箱のごとくゴチャゴチャしていた頭が平生を取り戻し、鮮明になっていく。
鮮明になった頭で思考する。
(まあ、こういう訳が分かんない事ばかりの時は、分かんない事は分かんないままに放置して。分かる情報だけを冷静に分析して片付けることが大切だな)
さっき僕は部屋の物、そして部屋そのものが無くなったのだと考えた。
しかしこの状況を改めて分析し直してみると、部屋が無くなったのではなく、自分だけがこの森に来たと考える方が自然だ。
もし部屋が無くなっただけなら、見える景色は見慣れた部屋の外の景色のはずだからだ。
「そんな事にも気づけないとわな。混乱しすぎだな」
そんな自分を軽く嘲笑し、状況の分析を続けた。
空を見上げ、木の葉の合間から太陽の位置を確認すると、今がまだ朝の早い時間だということが分かった。
あくまでも推測だけど、時差ボケとかがないところから考えるに、ここは外国とかではないのかもしれない。
「――まあ、今の状況で分かるのはこんぐらいか……」
次に分からないこと、疑問点の整理をしてみた。
まず最初に、どうしてここにいるのか?
真っ先に誰かのイタズラではないかと考えたが、こんな手の込んだイタズラをすることは、まず有り得ないだろう。
他に『自分は誘拐されたのではないか?』という考えが出てきたが、だとしたらこんな動きやすい格好をさせて、こんなところに放置する意味がない。
こんな穏やかそうな森ではなく、暗い樹海の奥とかで身体を縛っておくのが普通なはずだ。
そんな経験はないので知らないが。
次に、此処はどこなのか?
もう一度、状況確認のために辺りを見渡した僕は、胸の奥に何か引っ掛かるような『違和感』を感じていた。
いや、見慣れないところに来て『違和感』を感じるのならそれは普通だ。
逆に、初めて見たはずなのに、自分がこの景色に前に見たかのような既視感(デジャビュ)を感じていることに『違和感』を感じたのだ。
見たことがないはずなのに、見たことがある。
知っている景色である。
それについて直ぐに一つの仮説が出てくる。
それは突拍子もない仮説だったが、何故だかとても信憑性があった。
「――まあ、何を判断するにしろ、圧倒的に情報が不足しているな」
それから数秒間、どうするか思案に要したが、
「危険かもしれないけど……。この状況を打破するには行動あるのみだな!」
そう決心し、先が見えない道なき道に足を踏み出した。
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