失英雄の落丁本(エクセプト)

@mitaku

0. 始まり

 筆の軌跡が文字を刻み。


 文字の羅列がことばを奏で。


 ことばの纏まりが物語を描く。


 




 ――コトッ。


 最後の句点を付けた僕はシャーペンから手を離し、ノートを閉じた。


 一区切りが付くまでと思っていたが、気がつくと時計の針は四分の一周していて、もうすぐで次の日になりそうだった。


「うぅーん、身体いてぇー」

 椅子の背もたれに身体を預けながら、同じ体勢を長時間続けて凝り固まった身体をほぐした。


 ………この趣味。

 と言うより既にいつもの日課となった、一つのオリジナル小説を書き始めて、はや五年になる。


 ジャンルは『ファンタジー』。


 題名はその場その場で変わるのでコロコロ変わるので、まだこれといったモノは無し。

 

 パソコンはそれなりに扱えるが、ちょっとしたこだわりから昔ながらの紙とペンで。


 書いた量はA4サイズのノート二十三冊分。


 細かい設定やメモを書いてノートを合わせたら三十一冊。


 数えたことはないし、此れからも数えることはないだろうが、文字数にしたら数百万を軽く記録するだろう。


 それだけの時間をかけ、それだけの量を書いた自分の小説だが、別に誰かに見せようとして書いているわけではない。


 友達に見せようとは思わない。

 ネットで公開しようとも思わない。

 ましてや、小説の賞に投稿しようとも思わない。


 ひどい言い方をすれば、只の独りよがりの自己満足だ。


(――まあ、自分が面白いと思うモノを書いているだけだもんで、それはひどい表現とかじゃなく、正当で適切な表現だろうけどな)


 等と自嘲気味たことを思ってみた、しかし誇れるものとは思っていないが、別にこの趣味について恥ずかしがる気持ちはないし、卑下する気もない。


 自己満足で思いつくままに書いているせいか、五年たった今でも、全く終わりが見えてこない。


 しっかりと最後まで書いて、良い思い出になるのかもしれない。


 未完のまま飽きて、途中で投げ出すのかもしれない。


 もしかしたら、それっぽい終わりを付けて、無理やり終わりendingを迎えせさせるのかもしれない。


(それはきっと何年か後のことだし。そんなことを今考えても意味なんかないけどな)


「――おっと! やばいな」

 そんな事を考えていたら、時計の針は次の日への秒読みを始めていた。


「明日学校だし、寝ないとな」

 ギリギリ明日のことを考え、全国の学生の殆んどが総じてなる、憂鬱な気持ちになりながら、ベットに飛び込んだ。


 元々かなり眠気があったのだろう。


 ベッドの感触を肌で味わうことなく、僕は直ぐに夢の中に落ちていった。


 

 だから、気付けなかったのだ。



 小説を書いたノートの全て暗闇の中でぼんやりと光り、独りでにページが捲られていくことに―――

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