エピローグ
エピローグ
「ほらほらみてくださいよハジメくん! すごい再生数です!」
マサヨシが得意げにパソコンの画面を見せてくる。画面には動画サイトに投稿された、一つの動画が表示されている。
「いち……じゅう……ひゃく……せん……」
「百万再生か」
ハジメが数えていると、隣から覗いていたジロウが言った。
「そうなんです! すごいでしょう! みんなのおかげですよ!」
マサヨシは嬉しそうに飛び跳ね、小躍りを始めた。
動画のタイトルは『金星人来襲!』ハジメたちがジロウを説得に行った日の、夜道を金星人スーツで走り回るミツコとそれから逃げるハジメの映像と、全員で小学生たちを追いかけまわしていた時の映像に、いくつかシーンを撮り足してマサヨシが編集した短編映画だ。
ストーリーは街に襲来した金星人がひとしきり走り回った後なぜか唐突に滅びるというシュールなもので、ハジメには何が面白いのかイマイチわからなかった。
一応、あの小学生たちの顔や名前を叫ぶ声は入らないように上手いこと編集してあったが、ハジメやジロウはバッチリ顔出しで出演していた。
コメント欄はほとんど外国語のコメントで埋められている。どうやら外国の掲示板で「日本人が作ったどうかしている映画」として大ヒットしているらしい。翻訳サイトを駆使してコメントを翻訳すると、賞賛と酷評が半々だった。
「うう……恥かしい」
「ミツコは顔出てないだろ」
「でも恥かしいものは恥かしいのよ……」
ミツコは画面から顔を背けた。画面には浜辺で子供を追い回す金星人のシーンが映っている。
「アッハハハハハハ! もー、アタシが必死にジロちゃんたちに電話してた時にこんなことしてたんだ、そりゃ電話出れないよね。懐かしいなあ、アタシも学生時代こんなの作ったよ!」
犬塚さんが冷めたワラスボ焼きを配りながら言った。
「それは知ってます……ところで、この前の映像見せてくださいよ」
「ん、いいよー。親切なお客さんに撮ってもらったやつだからどうなってるか知らないけど」
ハジメに頼まれた犬塚さんはポケットからUSBメモリを取り出すと、パソコンに差し込んだ。
「え、あれ見るんですか」
「やめようハジメ、オレたちはもう先のことを考えよう!」
「絶対見たくない……絶対見たくない……」
マサヨシ、ジロウ、ミツコは必死に止めようとしたが、犬塚さんは無慈悲にもすでに動画ファイルをダブルクリックしていた。
『こんにちは! 違う、こんばんはだ! こんばんは! ザ・ヴィーナスアタックです!』
画面の中のハジメが叫んだ。
……そこからの映像は酷いものだった。セッティングには手間取り、曲が始まると今度は緊張してテンポは速くなり、極め付けに全員チューニングが狂っていた。演奏直前にチューニングは確認したはずだったが、当日昼に弦を張り替えたせいだ。張り替えたばかりの弦はチューニングが狂いやすいことを誰もが失念していた。ヘロヘロの演奏だった。
救いだったことといえば、駆けつけてくれた同級生をはじめとする客の存在だ。犬塚さんたちが事前に盛り上げてくれていたことも手伝って、ハジメたちのヘロヘロの演奏に観衆は大盛り上がりだった。
それと、救いだったことがもう一つあった。映像の中のハジメたちが、緊張しながらも楽しそうに演奏していることだ。見るのを嫌がっていたジロウたちも、いつの間にか画面に釘付けになっていた。
「次の練習、いつにしようか」
ハジメは笑いながらつぶやいた。
完
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