第20話
私は父に向かい
「お父さん、あの、会ってもらいたい人がいるの」
「なんだ梨央奈。そんな改まって……おいおい、本当か?」
「本当に本当」
そこに智也が入って来た。
「こんばんは。突然お邪魔して申し訳ありません。吉野智也と申します。梨央奈さんとお付き合いしています。もちろん結婚も考えています。梨央奈さんにはもう結婚の申し込みをして……」
「お、あ、う。ど、どういうことだ! 梨央奈、聡さんとお付き合いしてたんじゃないのか」
智也の自己紹介と私達の交際にまで話が進んだところで、父はパニックになってしまった。お父さん智也の前で聡さんの話をしていいの? 本当は違うからいいんだけど本当ならマズイんですけど。
「お父さん。失礼よ。ちゃんと話を聞きましょう」
パニックの父とパニックの原因の智也の間に母が入って来てくれた。
「き、君は何者だね」
少し冷静さを取り戻した父が一番聞かれたくないことを聞いてきた。ああ、また話が混乱するよ。
「僕は吉野智也です。梨央奈さんと同じ会社に勤めています。今は派遣社員ですが来年からは正社員として再就職する予定です」
「派遣社員だと!」
「え? 正社員?」
う、嘘。知らなかった。智也正社員になるんだ。なんで言ってくれないのよ!
「いろいろ家の事情で、派遣社員として梨央奈さんが働く部署に配属されたんですが、目的を果たしたので」
「家の事情? 目的?」
な、なになんの話?
「僕の父は社長です。次期社長には姉がなる予定だったんですが、姉が結婚して話がなくなってしまい、僕に話が回ってきたんです。今の部署に配属されたのは部長に問題ありなので様子を見るように言われてたんです。吉野姓を名乗るので警戒されないように派遣社員として働いていました」
え? え? ええ?
社長………そう言えば次期社長は娘さんで勝手に結婚したとか。あ……マンション……お姉さんが結婚したから出て行ったんだ。会社の近くに住んでるわけだよね。
「しゃ、社長? 君が次の社長なのか?」
「まあ、そうなります」
「う、ぐぐぐぐ」
「お父さん」
「気に入った! 吉野君だったね。梨央奈をよろしく頼むよ。あーとプロポーズも、もうしたんだっけ?」
「はい」
「そうか、そうか」
お父さん……手のひらを返すとはこのことだよ。
「梨央奈よくやった。よかった。よかった」
バンバン私の背中を叩く父。
「じゃあ、僕はそろそろ。お邪魔しました」
「まあ、そう言わんと一緒に飲もうじゃないか。泊まってってくれたらいいんだよ。なあ、母さん」
そこから智也は父に捕まり一晩中私の話で盛り上がった。聞くのに耐えられなくて、私は途中でリタイアしたけれど、智也は父に付き合ったようだった。翌朝、仲良く眠りこけている二人を見て心配ごとは消え去ったことを実感した。
***
「智也、なんで何も言ってくれないのよ」
「俺じゃなくて、家とか会社とか見てないか確認したかったの」
「でも、あんな直前まで……」
「ごめん。言うタイミング逃して」
「タイミングって……」
タイミングはいっぱいあったような気がするんだけど。
***
リーンゴーン
教会の鐘が鳴り響く。
「おめでとうございます! まさか吉野君と付き合ってたなんて」
「ありがとう。香川さん」
「それも次期社長って……」
「まあ、まだまだ先の話だから」
「吉野君まだ若いですもんね」
「………」
香川さんの言葉に声が出なくなる。
「梨央奈。どうした?」
「ううん。なんでもない」
隣にいる智也を見る。まだまだ若い、可愛い智也。でもいずれ、そういずれは私と並んでいても、まだまだ若いなんて言われない時が来るだろう。だって私はずっと智也の側にいるんだから。
恋=結婚? 日向ナツ @pupurin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます