こっくんの仲直り術

青空

第1話

ことなんか、大嫌い!」

 一ヶ月前、一番の仲良しの亜妃あきとけんかした。琴葉がわるいのはわかってるの。ことはずっと一緒いっしょにいた亜妃あきひどいことをした。

  ―ほうしん演義えんぎ計画けいかく亜妃あきいん王朝おうちょう悪女あくじょだっに見立てた亜妃あきへのいじめ計画けいかく。これが一ヶ月前のある日に実行された。

 内容ないよう結構けっこう、えげつなくて。亜妃 あ きの好き( す)なひとうそ告白こくはくをさせてみんなでかげから見て( み)笑う(わら)というもの。クラスの亜妃嫌い(あきぎら)の女子じょしたちが計画けいかくして男子だんしたちがそれに乗っかっちゃった(の)。ネーミングは図書館通い( と しょかんがよ)のおとこ、読んで(よ)いた漫画まんがからみたい。

 ことはこのとき初めて(はじ)だっ名前なまえを知った(し)し、ほうしん演義えんぎと言う(い)お  はなしも知った(し)。こんなので知りたく(し)なかった。

 だっっていうのはすごい悪女あくじょで、自分じぶんのやりたい放題ほうだいしてくに滅亡めつぼうさせちゃったお  ひめさまのことらしい。確か(たし)に、亜妃あきってちょっとわがままなところあるし、人の言うこと聞かないし、いらってすることもたくさんあるけど。でも、言うほどわるい子でもない、と思う。

 ただ、亜妃あきのいいところはわかりにくいんだ。亜妃あき自分じぶんの思ったことを素直すなおに口に出してしまうけど、それはいいところ。間違ったことは間違ってるって言ってくれるし、一番いいやり方も教えてくれる。

 でも、そのいいところは人によるとお節介  せっかいで鬱陶しかったり(うっとう)する。言い方もきついからあまり感謝かんしゃされない。亜妃あきはクラスで一番めんどくさい子だった。

 亜妃あきのこと嫌い(きら)な子がすごく多かったんだ。だからこの計画けいかく正義せいぎのようなそんな感じになって。参加さんかしないと悪者わるもの扱い(あつかい)されてるがして、こと参加さんかしちゃった。しないといけなかった。

 だってことはそのクラスの女子がこわかったもの。

 その計画が実行じっこうされたとき。最後のネタらしで全員が出ていくことになってたんだ。今思うと、ほんと馬鹿ばかなんだけど。それで、出ていった時一番背の高い子の後ろにかくれてたのに、背中せなかしに亜妃あきと目が合っちゃったの。

ことなんか大嫌だいきらい!」

 亜妃あきこと一人だけを名指なざしてっていった。泣きもしないでことの顔をじっと見つめたの。大嫌だいきらいって言うときもずっと。ことはすごくそれがこわかった。

 その計画が終わって次の日には先生にばれて、めちゃくちゃおこられた後、亜妃あきに一人ずつごめんなさいってしにいった。亜妃あきほかの子たちには全部ぜんぶいいよって言ったのにことには言ってくれなかった。

 ことだけゆるしてくれなかったんだ。


 亜妃あきがいいよっていってくれないままの一ヶ月いっかげつぎた。明日からもう夏休みなのに全然ぜんぜん仲直なかなおりできていない。

 そりゃ、こっちがわるいのはわかってるよ?でも、それならほかの子もゆるしてあげなかったらいいじゃない。なんで、ことだけなのよ。あれから何十回なんじゅっかいあやまっても亜妃あき琴葉のこと、無視むしするし。気まずいし。だって、こと亜妃あき同じクラスだもん。亜妃あきは自分のグループの子とつるんでるからいいかもしれないけど。それでも、やっぱりさみしいし…。

「こーとは!何してんの?帰ろう?」

「ごめん、のんちゃん。今日は飼育しいく当番とうばんがあるから無理むり―。」

「ああ。言ってたねそう言えば。飼育しいく当番とうばんってさ、亜妃あきちゃんと一緒でしょ?大変だねー。がんばれー」

「あ、うん。バイバイ」

「バイバーイ」

 のんちゃんは他に美香みかと一緒に帰っていく。手をりながら気づくとため息が出ていた。

 いやだな、飼育しいく当番とうばん飼育しいく当番とうばんの仕事くさいし、どろどろになるからきらい。動物なんて大嫌だいきらいなのに亜妃あき勝手かって立候りっこうしちゃうから。亜妃あきと一緒のかかりなんてだれもやりたがらないからことがやるしかないじゃん。

 あーあ。あ、またため息でちゃう。せめて亜妃あきとけんかしてなかったらまだましなのに…。かばんを背負せおって教室きょうしつを出ると、ネコが廊下ろうかでひなたぼっこしていた。しゃがみんでなでようとするとさっと立ち上がってどっか行っちゃう。

「何してるんですか、安住あずみさん」

 手前てまえから歩いてきたのは中嶋なかじま先生。こと担任たんにん中嶋なかじま先生はやさしくていつもニコニコしている可愛かわいい先生で、ことのだーいきな先生。おこるとこわいけど。

「もう、高岡たかおかさんは行きましたよ。ちょっと気まずいのはわかりますが早く行ってあげてください」

「はい…」

「早く、仲直なかなおりしてあげてくださいね。きっと高岡たかおかさんもそれをのぞんでますから」

 亜妃あきこと仲直なかなおりしたいなんて思ってるわけないじゃん。思ってたらいいよって言ってくれるだけでいいんだもん。

 より一層いっそう重くなった足を一歩いっぽ一歩いっぽうごかして、なんとか小鳥ことり小屋ごやまでついた。ちかくのベンチに荷物にもついて、カッパと長靴ながぐつく。亜妃あきはやっぱり先についていてもう一人で小屋こや掃除そうじを始めてた。

亜妃あきー。一人で先にはじめないでよ」

 あ、いた。でも、すぐにそっぽ向いちゃう。ホースで水をジャーって流して、ことふんとかをブラシでごしごしこする。

「ちょ、亜妃あきもうちょっと下向したむけて。かかるって」

 亜妃あき完全かんぜん無視むし。ああ、そうですか!また無視むし!何よ。イライラしてこする手をつよめる。上の方で小鳥もキーキーうるさくてかなわない。一生懸命いっしょうけんめいごしごししてたら、小屋中こやぢゅうをぴかぴかにしていた。自分がなんかこの仕事好きみたいで余計よけいに腹立つ(はらた)。

 小鳥ことり小屋ごやを出て次に向かうのはウサギ小屋。給食きゅうしょくのおばちゃんからもらった野菜やさいあまった

部分ぶぶんわすれず持って行く。

 ウサギ小屋は小鳥よりもにおいがきつい。うんこが下にぽろぽろ落ちてるのもいや亜妃あきはそんなの全然ぜんぜん気にしてないみたいだけど。

 小屋こやに入ってウサギを片方かたほうの小さい小屋に二匹にひきうつす。ことの学校にはウサギ、二匹にびきいるの。かたっぽは白でもう一匹いっぴきが黒。この黒の方が曲者くせもの油断ゆだんするとすぐにげちゃう。

 ことだと絶対ぜったいがしちゃう自信じしんあるからこの作業さぎょう全部亜まかせ。亜妃あきはそういうのきだから。

「あれ、亜妃あき。もう一匹いっぴきは?黒の方」

 どうせ、また無視むしするんでしょ。亜妃あきのばか。亜妃あきは向こうの小屋に入ったまま出てこない。仕方しかたなく、かぎをかけてから亜妃あきの方に行った。

亜妃あきー、どうしたの」

 亜妃あき一生懸命いっしょうけんめい黒ウサギをさがしていた。ことのこと、気づいてないだけみたい。そんな広いわけでもない小屋の中で見つからないなんてことないと思うんだけど。

 こと亜妃あきにつられて黒ウサギをさがす。きょろきょろと見回すと小屋のはしの方に大きなあながあいていた。気になって外に出て見ると、その穴は小屋の中から外に通じる小さなトンネルだった。ウサギなら十分通れる大きさの。

 まさかね、そんなわけないよね。おねがいだからちがうって言って。

亜妃あきー、ちょっとてよ」

なによ」

 うわ、すっごいいやそうな顔。

「なんか、小屋の外にトンネルがあるんだけど」

「だから?」

「あのさ、黒ウサギ、もしかして逃げちゃったとか…?」

 かんがえたくない可能性かのうせい。黒ウサギ頑張がんばりすぎだよ、まったく。

「…、先生呼んでくる」

 亜妃あき意外いがい冷静れいせいた。もうちょっとあせるか、びっくりすると思ったのに。亜妃が先生を呼びに行っている間、何もすることがなくて小屋の外で待機たいき状態じょうたい。中にはいたくないから当然なんだけど。

 五十八、五十九、六十。ぱっと、かべにかかっている時計を見ると秒針びょうしんは十二から大きくはずれて二をしていた。

 うー、今度こんどはゆっくり過ぎたかな。亜妃あきと先生がるの、あまりにもおそくていかに一分いっぷん正確せいかくかぞえられるかをしてごしていた。ちなみにこれで十回目。多少たしょうのずれはあるけど、十分じっぷん以上いじょうってる。

 あ、やっと来た(き)。でも、たの先生だけ?亜妃あきは?

「どうしたんですか?高岡たかおかさんがてウサギがいなくなったと泣いていましたけど」

「えっと、亜妃あき高岡たかおかさんは?」

「なかなか、んでくださらないので今は保健室ほけんしつに行って休んでもらっています。それで、安住あずみさん。ウサギがいなくなったというのは…?」

「あ、えっと。なんか、あの黒い方が自分でトンネルってどっか行っちゃったみたいで」

「はあ…。またやったんですかあのウサギ」

 前回ぜんかいもやったことあるの。どれだけいやなの、小屋の中。ウサギもくさいのはわかるのかなー。

 先生もため息ついたりしてめんどくさそう。

「仕方ないですね。安住さんには申し訳ないんですが、白ウサギに餌だけやっておいてもらえますか?あと、小屋にある腐った野菜の残りかすも捨てておいてくれると助かります」

「わかりました」

 頷いちゃった…。一人でやるとか無理なのにー。琴葉のばか。先生はその返事に満足したのかすぐに行ってしまう。仕方なしに言われた通りちゃんと飼育当番の仕事を一人で片付けて、保健室にいる亜妃の様子を見に行った。

「すいませーん。亜妃いますかー」

「あら、琴葉ちゃん。ちょうど、亜妃ちゃん帰っちゃったところよ」

「そうなんですか」

 そんなにまで琴葉と話したくないの。いい加減にしてよ。亜妃とまた一緒に話したいのに。ごめんなさいって何回も言ったのに。

「亜妃ちゃん、ウサギさん探さなきゃって言ってたわ。本当、好きなのね、あの子」

 琴葉にもその半分くらい好きを分けてくれたっていいのにね。

「たぶん。じゃ、先生さようなら。また明日ね」

「はい、さようなら。気をつけてね」

 ぺこりとお辞儀をしてお家へ帰る。保健室の時計はもう午後四時を指していて、早く帰らないとママに怒られちゃう。帰り道をできるだけ走り続けた。

「ただいまー」

「おかえりー」

「えー。何で武明帰ってんの!いなくていいのに」

「今日は部活ないんですー、残念」

「うっざ!」

 家に帰ると、三つ上のお兄ちゃん、お兄ちゃんと呼ぶのも吐き気がする、武明がいた。

「ママはー?」

「母さん、今日仕事。ご飯はチンして食べて、だって」

「えー、武明しかいないの?最悪」

「こっちも最悪だよ」

「はあ?お前に言われたくないし。もう、今日ただでさえ最悪だったのにー」

 武明とご飯とか、ないわ。

「てか、お前今日遅かったじゃん。何かあった?」

「し・い・く・と・う・ば・んですー!ほんと、嫌。亜妃はまだ口きいてくれないし、ウサギは逃げ出すし」

「ウサギ?ってもしかして黒の?またやったの、あのウサギ。俺らの時もしてた、してた。根性あるな」

「それ、中嶋先生言ってた。武明のときだったの?」

「うん。俺ら。大変だったー。夏休み中に学年全員集められて黒ウサギ探し」

 うわ、絶対にそれしたくない。武明は何にツボったのか知らないけどずっと大声で笑ってる。うるさい。

「武明笑い方きもい。黙って。てか、どっかいけ」

「はいはい。宿題はちゃんとしろよー」

「わかってるし」

 まだ笑いの収まらない武明。ここまで来ると鬱陶しい。琴葉のこと何も考えてくれない。ずんずんと足音を鳴らし、バンと音を立ててドアを閉める。

 カバンから乱暴に計算ドリルとノートを取り出して宿題を進める。計算、特に筆算とか!筆算って役に立つの?小数点も使わないじゃん。ムカつく!

 とりあえず、ご飯までに計算ドリルは終わらせなきゃ。最後の方はちゃちゃっと、適当にして…。筆算に時々イライラしてシャーペンを放り投げながらも何とかドリルは終わった。

 ご飯はママが昨日作ったカレーの残りだった。これ、チンじゃなくてただあっためてって意味だったじゃん。武明聞き間違いしてる。ほんと、バカだなー。

「琴葉、ウサギは見つかった?」

「見つかってたら、こんなにイライラしてない。わかれよ、バカ武明」

「うっわ、理不尽!」

 カレー甘口じゃないし、辛いし。武明うざいし。

「琴葉、もういらない。辛い」

「ちゃんと食えよ」

「だって辛いもん」

 武明が琴葉の皿から一口カレーを頬張る。

「から。あー、ごめん。間違えて俺、こっちにもタバスコ入れてたわ」

「何してくれてんの!ありえない!」

 皿に残ったカレーを全部、武明の方へよせる。

「お前が食えよ、全部」

「はいはい。けど、食べないとお腹空くぞ、琴葉」

「いいの!」

 勢いよく立ち上がってご馳走様もせずに部屋のドアをわざとガチャンとしめる。同時にぐーっとお腹の音。

「絶対に食べないからね!」

 武明がそらみろって言ってる気がして思わず叫んじゃう。

「琴葉、声でかい!」

 武明が応戦してくる。琴葉がそれに返すと、武明もまたでっかい声で返してくる。お互いにギャーギャー騒ぎあってるからきりがない。

「ただいまー。また、あなたたち喧嘩してるの?仲良しねー」

「はあ?」

 ママが帰って来てそうそう、変なこと言ってくる。

「仲良しじゃないもん」

 ぽかぽかとママのお腹をグーパンチする。

「はいはい。ちゃんとカレー食べた?」

「聞いてよ!武明が琴葉のやつにタバスコ入れたんだよ!」

「違うって!わざとじゃねえし。うっかり入っちゃっただけだし」

 武明が横から入ってきた。今は琴葉とママが話してるのに。

「うっかりなら仕方ないわ。でも、琴葉ちゃんにごめんねは行ってあげて。それで、琴葉ちゃんいいわね?じゃあ、晩御飯、食べましょうか。琴葉ちゃんもちょっとしか食べてないんでしょ?」

「うん。ちゃんと、甘口ついでよ!絶対だから!」

「はいはい。スプーンとそこのサラダ持って行ってちょうだい。お母さんの分もね」

「はーい」

 再び席に着いて食べたカレーはきちんと甘口。食べれることにちょっと安心した。

「ママー。聞いてよ、今日ね、ほんっと最悪だったの!」

 ウサギが逃げたこと、亜妃がまだ口を聞いてくれないこと…。くちゃくちゃと口を動かしてママに教える。

「亜妃、ウサギいないって泣いちゃったらしいんだ」

「ふーん。琴葉ちゃん、亜妃ちゃんのことこの前までは大嫌いって言ってなかった?」

「嫌いじゃなくて、ちょっと鬱陶しい時があるって言うか。でも、琴葉、亜妃とまた遊びたいし」

「そう言えば、琴葉ちゃんと亜妃ちゃん喧嘩したことなかったものね。さみしいの?」

「うん…。でも、琴葉から何言っても亜妃話してくれないの」

「それは…。綺麗にこじれてるわね。そう言うときって案外、亜妃ちゃんも意固地になっちゃってるだけかもしれないわよ。なんで、喧嘩したのかは知らないけど、仲直りするタイミングがわからないのかもね」

 亜妃がそんな子だとは思えないんだけど。

「一緒にウサギさん、探してあげれば?」

「ウサギ嫌い、動物嫌い。無理。武明ウサギにさんつけるとか、気持ち悪!」

「ウサギさんの本でも貸してやろうか」

「いらんし。さんつけんな」

「そ。じゃあ貸してやらね。俺がいない間勝手に部屋入んなよ」

「入るか!お前の部屋臭いし」

 武明は一足先にご馳走様をして部屋に去っていった。

「琴葉ちゃん、でも武明が言ったこともいいかもよ。ウサギ、見つかったら、亜妃ちゃんも喜ぶでしょ」

「どうせ、先生が見つけてくれるんでしょ。だったらいい。ご馳走様」

 ママが少し悲しそうな顔をしてる。しいたけ残したのばれちゃったのかな。

「琴葉、ごめんなさいだけが仲直りの方法じゃないのよ」

 違った。亜妃と琴葉のことだった。

「もちろん、ごめんなさいも大事だけど。それ以外に大切なことは相手がどう思っているか、相手のことを考えて行動することなのよ」

 お風呂でも、明日の準備をしてる時も、今こうしてベッドに寝転がっているときも。ママが言ったことがぐるぐるとまわる。相手の気持ち、亜妃の気持ち。

 なんなんだろう。ウサギ?琴葉?亜妃とやっぱり仲直りしたい、亜妃に許して欲しい。

 ウサギ探すべきなのかな…。でも、臭いのも汚れるのも嫌だ。なんで、脱走しちゃったの、黒ウサギ。夏休みまでに亜妃と仲直りしたいのに。

 夏休み、去年までみたいに一緒に遊べなくなるのは嫌だよ。


「今から帰りの会を始めます」

「始めます」

 一番前に立つのは緊張する。日番って何で前に出なきゃいけないんだろう。朝のスピーチも別にいらないじゃん。恥ずかしいもん。

 ずっと下を向いていると何人かの男子が聞こえませーん!ってからかうように叫ぶ。まあ、睨んでやるけど。

 いいとこ見つけ、ランドセルばっかり。これ、やる意味あるの?最後の一人、のんちゃんも琴葉ちゃんがランドセルを持ってきてくれましただった。うん、少し照れくさい。

「次は先生からのお話です。先生お願いします」

 終わったー!やっと席に戻れる!

「明日も皆元気に来てください。あと、安住さんと高岡さんは挨拶が終わったら先生のところに来てください」

 学級係の大渕がそれを合図に立ち上がる。

「起立。さようなら」

「さようなら」

ざわざわと一気に騒がしくなる教室。のんちゃんたちとバイバイして先生の方に向かう。

「せんせーい!なんですか?」

 亜妃も一緒。亜妃の横顔が見える。

「安住さん、高岡さん。実はね、黒ウサギが」

「ウサギ、見つかったんですか!」

 びっくりした!思わず、先生から亜妃に目を移す。

「ごめんなさいね。そう言う報告だったら先生も良かったんだけど。でも、そうじゃないの。まだ、見つかってないのよ。黒ウサギ。それでね、二人にも先生、探すの手伝ってほしくて」

「まだ、見つかってないの…」

 あー、亜妃絶対泣いちゃう!亜妃、自分の大事にしてるものがなくなったり壊れたりすると歯止め聞かないから。

「亜妃!」

「高岡さん、大丈夫だから。あの黒ウサギ前にもああやってどこかに行っちゃったことあるの。でも、きちんと元気な姿で見つかったわ。だから今回も。ね?そのためにも手伝ってほしいの」

 亜妃の頭が縦に動く。先生が琴葉のことをじっと見つめる。何か答えなきゃ。どうしよう…。

「琴葉たちだけなんですか?探すの。武明、じゃない、お兄ちゃんの時は全員集められて探させられたって言ってて…」

「もちろん、先生も探すわ。でも、このことはまだ内緒にしときましょうって昨日、決まったの。だから、他の子には頼めなくて」

 声を潜めて、琴葉たちに顔を近づける。どうしよう、どうしよう、どうしよう。琴葉、嫌だ。先生はまだ琴葉のこと見てる。うんって、言わないとダメなの…?

 先生に目を合わせられるのがつらくて俯いた。

「ありがとう、安住さん。高岡さんも。二人で一緒に探してね。帰る時は言って。先生、職員室にいるから」

 え、琴葉まだいいって言ってない…。先生、もしかして琴葉が俯いちゃったの見て頷いたと勘違いした…?

 先生はもうすでに遠くまで行っちゃってた。嫌だって言いに行くには少し離れていて。琴葉のウサギ探しが決定した。

「うそ…」

 隣にいた亜妃がもう目の前にいる。荷物もいつの間にか置いて、教室を出るところ。待ってよ!琴葉のこと置いていかないで。

 慌ててカバンを机の上に置き直し、亜妃の後を追う。

「亜妃!」

 亜妃は振り向く。でも、それだけ。

「待ってってば!」

「嫌だ!琴葉なんか嫌い!嫌い!ついてこないで!」

「先生が二人で探してって言ってたじゃん」

「琴葉、ウサギ嫌いのくせに!そんなんで探せるわけ!」

 亜妃だって一人じゃ無理に決まってるのに。琴葉を見る亜妃の目は少し怖くて、悲しくて、泣きそうだ。

 結局、亜妃の少し後ろを琴葉が歩くことにした。さっきまで隣にいたのに。距離が遠く感じる。泣きたい。

「亜妃、どこ探すの?」

「あの、椿とかいっぱいあるとこ」

「どこよ、それ」

 亜妃と来たのはウサギ小屋の近くの藪。藪って言うか、植え込みって言うんだっけ。あまりにも生い茂っていてとてもじゃないけど入れない。

 亜妃はバキバキと音を立てて平気で入っていくけど。さすがにできないから、それは。落ちていた木の棒を拾って藪の中に突っ込んでガサガサとする。

「琴葉!ウサギ逃げちゃう!」

「見つかればいいじゃん!」

「違うの!琴葉いいからやめて!だから、琴葉嫌い!」

「琴葉だって亜妃のこと嫌い!」

 違う、亜妃と喧嘩したいんじゃない。ダメなのに。

「亜妃なんて知らない!勝手に探せばいいじゃん!琴葉手伝わない!」

「最初から手伝わなくていいって言ったじゃん!どっかいってよ!」

 木の棒を遠くへ投げ捨てる。ぼすっと大きな音。まるで何かに当たったみたいな…。

 気になって目を凝らすと何かがぴょんと飛び跳ねるのが見えた。いた!黒ウサギ!

「亜妃、あれ黒ウサギ!」

「わかってる!」

 二人して茂みを押し分けて追いかけるけど、すぐに見失っちゃう。せっかく見つけたのに!ウサギのやつすばしっこいから!

「いった!」

 亜妃が腕を抑える。木でこすれてずるってすりむけていた。血がたくさんでてる。すごく痛そう。

 何とか茂みから這い出て、亜妃を保健室へ連れて行った。亜妃の血が琴葉にもつく。

「先生!亜妃がすりむいて、血、いっぱい出てて…」

「あらあら。亜妃ちゃん見せて」

 先生は亜妃の腕を丁寧に見る。ウェットティッシュで亜妃の傷口をふいて、マキロンとガーゼで消毒。消毒液が染みるみたいで亜妃が顔をしかめる。痛いよね、絶対…。

「結構、深くやっちゃたわねー。どこで遊んでたの?」

「そこの、植え込み、です」

「なんでまたそんなところで遊んでたの。危ないのなんて一目瞭然じゃない」

「ちょっと…」

「気をつけてね。もうだめよ」

「はい…」

 先生は手際よく、亜妃の手に包帯を巻いてくれた。お礼を言って保健室を出る。

「亜妃、痛くない?」

「痛くない…」

 もう一度、二人でウサギを見つけた植え込みに戻ってみたけど、やっぱりなにもいなかった。

「いなくなっちゃったね」

「見つけたのに…。大丈夫かな、こっくん」

「こっくん?」

「黒ウサギの名前。黒って『コク』って読むから」

 それでこっくん。亜妃らしいけど。クロとかにしないあたり。琴葉はウサギに名前つけるほど愛着わかないし、ウサギ一番嫌いだし…。

「ねえ、亜妃。亜妃って何でウサギ好きなの?可愛いから」

「うん。可愛いから。それに、ウサギ飼ってたから…」

「あれ、ウサギなんて飼ってたっけ、亜妃?」

「飼ってた。琴葉に見せたこともあるよ。琴葉でも、すっごく嫌そうな顔するから。琴葉には見られないところで飼ってた」

 言われてみたら、そんなこともあったかも?でも、ちゃんと覚えてないからきっとその頃から嫌いだったんだろうな、ウサギ。ウサギの魅力がわからないもん。あの赤い目も、動きも全部気持ち悪い。

「それに、ウサギが好きだと他の子も話しかけてくれるから」

「そうなの?」

「うん。ウサギの話してる時は皆結構亜妃のこと見て、話してくれる。でも、それ以外だと亜妃すぐにイライラしちゃって自分の好きなようにしちゃうから、ダメなんだけど」

 亜妃もやっぱり悩んでるんだ。いっつもわがままだけど亜妃だって他の子のこと考えてないわけじゃない。

 琴葉たちが亜妃にしたことはすごく、悪いことだったんだ。琴葉たちは亜妃の気持ち全然考えてなかったから。

「亜妃、ごめんね」

 亜妃の方を見れなくて下を向いてそう言った。初めに謝った時みたいにすごくじくじくする。

「謝らないで!やめて!琴葉のことなんか嫌い!大嫌い!」

 亜妃はみるみる顔をゆがませて、泣き出してしまった。全部、初めの時と一緒。亜妃はごめんって言われたくないのかも。ここにきてやっとそのことに思い至った。

 でも、琴葉、ごめん以外になんて言っていいかわかんないよ…。亜妃の泣き声が響く。それに混じって違う、男の声も聞こえてきた。

「おーい、凶暴、琴葉ー!どこだー!お、いたいた。帰るぞ」

 武明か…。お前か!タイミング悪いんだよ!ばか!

「なんで、お前がいんの!」

「母さんに琴葉の帰りが遅いから迎えに行ってあげてって言われたんだよ!優しいだろ!」

「頼んでない!」

「母さんにって言ってるだろ!」

 なんで、こんなところでよりによって武明なの!

 自分まで泣きそうになって懸命にこらえる。

「ほら、えっと、亜妃ちゃんだっけ?その子も連れてきてって頼まれてるから。帰るぞ。みんなで」

「まだ。先生にウサギがいたこと言ってない」

「なんだ、結局一緒にウサギ探ししてんじゃん。仲直りはしたの?」

 ばか、黙れ、もう。武明ほんといらない。さっさといなくなってほしい。いなくなんないんなら、琴葉がどっか行くから!

「琴葉ー、どこ行くんだー?」

「さっきから言ってるでしょ!職員室!中嶋先生のところ!」

 亜妃がまだ泣いてるのが気になるけど、武明もいるし大丈夫でしょ。背を向けるのをやめて振り返ると武明はウサギ小屋に夢中だった。

 やっぱり、あのばかだとだめかも…。

「すいません、中嶋先生いますか?」

 職員室を敷居越しに除く。

「どうかしましたか、安住さん?」

「あ、先生!」

「お疲れ様です。もしかして見つかりましたか?」

「植え込みのところにいたのはわかったんですけど、捕まえられなくて。どっかいっちゃいました…」

「いいのよ。植え込みにいたのね。ありがとう。先生とても助かるわ」

 先生がにこって笑ってくれる。それだけで少しほっとするから不思議。

「安住さんも高岡さんも本当にありがとう。今日はもう帰る?私が送ってあげるわ」

「いや、帰るのは、帰るんですけど。武明、じゃないお兄ちゃんが迎えに来てくれたから一緒に帰ります」

「そう。なら安心ね。お兄さんによろしくね」

「はい。先生、さようなら」

「さようなら」

 先生が職員室に入るまで待ってから、歩き出す。


「えーっと、亜妃ちゃん?そろそろ泣き止んで?」

 そう言うと、懸命にこらえるようにしてくれるんだけど、無理っぽい。小学生って小さいよな…。目の前にいる女の子はすごく小さくて相手するのは戸惑ってしまう。

 琴葉とよく一緒にいる子。偶に俺も一緒に遊んだから少し記憶に残ってる。どっちも性格はきつい。小さい時はしょっちゅう喧嘩してた様な気がする。学童終わったあたりからそれもなくなってたっぽいけど。

 こいつら、きっとこういう後を引く喧嘩したのは初めてなんだろうな。

「ごめんなさいですむ喧嘩じゃないんだよなー」

 亜妃ちゃんが不意に顔を上げて俺を見た。俺はそれを機にもう少し続ける。

「ちょっと大きくなるだけで、ごめんなさいって言えば済むことだったはずなのにどんどん変わっていく。それぐらい複雑になっちゃうんだよな」

「複雑…」

「だろ?亜妃ちゃんがどう思ってるかはわからないけど。中学生になるともっと大変になるぞー。特に部活なんてな。先輩とどうやってうまくやっていくか、チームメイトと喧嘩しないようにするかしか考えられねえもん、俺。喧嘩しちゃうと元に戻れないのが皆わかってるからさ。喧嘩しないように動くの。大変なんだぜ、これ」

 ちょっと、理解できてなさそうだけど、亜妃ちゃんは俺の話をしっかり聞いてくれている。琴葉と大違い。

「だから、喧嘩できてる方がいいって言うか、なんていうの。ずっと一緒にいるんだから、お互いもっとちゃんと自分の気持ち言った方がいいんだよ。気持ち汲み取るって言うのも大事だけどそれ以上に伝えないと。大嫌いとか、ごめんとか、泣くとかそれ以外の方法で」

「よく、わからない…」

「まあ、だよな。なんとなくわかればいいよ」

 あー。慣れないことした。恥ずかしい。ちょっと首突っ込みすぎたかな。

 つい顔を遠くに向けると、走ってくる琴葉が見えた。

「琴葉―!早く帰ろうぜ。俺、腹減ったし」


「お前、さっきからそれしか言ってない」

「だって帰りたい。この緑の制服でこの場にいたくない」

 そう言えば、武明、制服のまま。あのだっさい緑の制服。夏服は違うはずだけど、武明はなぜか夏服の上に冬服のブレザーを着ている。

「ねえ、武明。暑苦しい」

「えー。寒いじゃん」

「まだ日が出てるのに何で寒いなんてことある?」

「寒い…、かもしれないじゃん」

「要するに寒くないってこと?」

 武明が頷く。こいつ、バカすぎる…。本当に中学生?

 亜妃の笑い声が突如、響く。まだ目に涙の跡があるけど泣き止んではいるみたい。

 良かった。でも、少しもやもや。だって、これ笑ってるの武明がいるからなんだもん。腹立つ。

 武明の膝を軽く蹴った。

「なんだよ、琴葉」

「え?むかついたから。いいから、帰るんでしょ!」

「理不尽!」

 結局、帰り道では武明と琴葉が言い合いしてるだけで、亜妃とは一言も話せなかった。

 亜妃とバイバイした後。なんで、亜妃があんなに怒ったんだろうって考えてみた。亜妃、琴葉がごめんなさいって言うと必ず怒り出すのはなんでかなって。

 ごめんなさいの何が悪いの?なんで、亜妃は他の子のごめんなさいは平気で琴葉のだけはあんなに嫌がるの?琴葉に大嫌いなんて言うの?

 わからなくて、気付いたら自分も泣いていた。ぽろぽろこぼれたらこらえようとしても止まんなくて、息ができなくなって吸い込んだら大きな音が漏れて。

「うわ、どうしたんだよ、琴葉」

 武明の場違いなのんきな声。イライラするのに少しほっとする。

「琴葉が悪いのはわかってるんだもん!だから、ごめんねって言ってるのに!なんで琴葉、嫌いなんて言われないといけないの!」

「わかったから!せめて家に帰ってから泣け、お前の声響くんだよ」

「ごめんなさいじゃなかったら何がいいの?なんて言ったらいいの?琴葉はまた亜妃と一緒に帰ったり遊んだりしたいのに!」

 琴葉の声、多分めっちゃ響いたと思う。亜妃の家から琴葉の家までちょっとしかないのにその間にいろんな人に大丈夫って声かけられちゃった。

 武明はその度にすまなそうに答えられない琴葉の代わりに軽く説明して、人を追い払ってくれた。

「ああ。もう。泣き止めって」

 ティッシュを差し出す武明。ほんと、いっつも遅い。ティッシュよりもハンカチの方がいいのに。そう思ってあの季節外れのブレザーで思いっ切り拭いてやった。

「やめろ!ばか!クリーニング出したばっかだぞ」

「じゃあ着るなよ」

「母さんに怒られる…」

 バカ。なんか泣いてたら急に落ち着いてきて、それで急におかしくなって、めっちゃ笑った。

「ただいまー」

「おかえりなさい。手を洗って、うがいしたらさっさとご飯食べちゃいなさい」

「はーい」

 一回笑っちゃうと収まらなくて。ご飯を食べてる時も、お風呂の時も笑っていた。なにがおかしいのかわからなくなって来たけど。

「武明―!お風呂終わった、次入れって」

「わかった」

「ねえ、それとさ。ウサギって何で捕まえればいいの?」

「知らねえ。網とかじゃねえの?」

「それぐらい、わかってる!役に立たないな。じゃあ、そのウサギさんの本貸してよ」

「えー。はあ。いいよ、持って行ったら。本棚にあるから」

 武明はそう言って部屋を出ていく。入れ違いに入ったはいいけど武明の部屋、めっちゃ臭い。汗臭い。ファブリーズ一本使い切るレベル。

 息を止めて、本を探す。タイトルを見て、それらしいのを何冊か手に取って選んだ。

 あいつ、なんでウサギオンリーの本こんないっぱいあるの、気落ち悪。

 手に取った本を自分の部屋に持ち帰ってぱらぱらと眺める。ウサギの習性、生息地、飼い方…。見てて気づいたけど、これぐらいだったらきっと亜妃が知ってるよね。意味ないじゃん、もう!

 ぱらぱらとめくるペースが速くなる。最後のページまで行って何かメモみたいなのが挟んであった。

『ウサギ捕まえるよりも、お前ら一回きちんと自分の気持ち伝えた方が早いぞ。余計なお世話かもしれないけどな』

 ほんと、余計なお世話。これもノートの切れ端だし。

 話すったって何話せばいいのよ。結局、亜妃にまた嫌いって言われるだけじゃん。

 ベッドの中にもぐりこんで目を閉じる。そのまま何も考えず寝てしまった。


「琴葉ー、今日は一緒に帰れるー?」

「ごめん、今日もちょっと無理。先帰っててー」

「またー?わかったー。四時集合なんだけど間に合うの?」

「んー。ちょっとわかんないや。行けたら行くね」

「はいはい。バイバーイ」

「うん、バイバイ」

 今日こそウサギを見つけて、それで…。亜妃と仲直りするんだ。ごめんねって言わないように。

 亜妃がいないかと見渡すと既に外に出てしまっていた。こういうところはやっぱり嫌いだけど!

「亜妃、待ってよ」

「琴葉は帰れば」

「何でそうなるのよ。ばか?」

「ばかじゃないもん」

 また喧嘩してしまった。でも、前みたいに無視されるよりはまだましかも。昨日の植え込みまで行って投げ捨てた木の棒を拾う。

「今日は中入んないからね。入ってまたけがしたら嫌だもん」

「わかってる」

 亜妃も自分の腕に巻かれた包帯を見てすぐに木の棒を持ってきた。二人してがさごそとつついてウサギを探す。

「ねえ、亜妃」

「何よ」

「琴葉とウサギだったらどっちが好き?」

「ウサギ」

 やっぱりか。なんとなくそうだとは思ってたけど!

「琴葉のごめんなさいがなければ、ウサギと同じくらい好きかも?」

「どういうこと?ねえ、何で琴葉にごめんねって言われるの嫌なの?」

「ごめんなさいって自分が悪い時に使う言葉だから」

「だって、琴葉が悪いもん!だから!」

「琴葉が悪いってことはさ、琴葉が私のこと嫌ってそうしたからって思えて。それで、ごめんなさいって言われたら自分がみじめになるの。嫌なの。だって、皆があんなことしたのって私のことが嫌いだからってことでしょ?だったら、琴葉も私のこと嫌いなのかなって」

 亜妃は涙声で、でも泣いてはいなかった。

「琴葉のこと勝手に友達だって思ってたから。琴葉からごめんなさいを聞くとお前なんか大嫌いって言われてる気分になっちゃってどうしてもいいよって琴葉には言えなかったの。琴葉にいいよって言ったら私、一回琴葉に嫌われたことになるから。それが嫌で」

「亜妃のこと、嫌いじゃないよ。嫌いだから、したんじゃないの。琴葉、あの女の子が少し怖くて、クラスでも浮きたくなくて。皆参加するって聞いたら、断れなくて。丁度、亜妃のこと何かですっごく苛ついてたりもしたから」

 お互いに涙を限界までこらえたすっごい不細工な顔をしてたと思う。だめだ、泣いちゃう。まだ、泣きたくない。

 視線を上げるとぴょんとまた何かはねたのが見えた。

「亜妃、今の見た?またウサギ」

「ほんと?どこ?こっくん」

 ぴょんとまたはねる。試しに遠回りして向こうに行くと黒ウサギがその場でじっとしていた。黒ウサギは琴葉を見てから植え込みに逃げ込む。

「あ、待て!」

 追いかけたくても茂みが邪魔でどうしようもない。

「あ、きた!」

「亜妃?そっち行った?」

「うん、捕まえる!」

 向こうでガサガサと音がして亜妃の走る足音も聞こえる。

「捕まえた!」

「ほんと?」

「うん、ほら!」

 亜妃がウサギを抱きかかえてるのがわかった。すぐに向こうに言って確認する。

「ほんとだ―!よかったー!」

「これで飼育当番の仕事もできるね」

「えー、それはしたくない」

 二人でウサギを見てたらなんだか笑えて来て。一緒に大きな声を出して笑った。ひとしきり笑って、笑いあって。なんかすっきりした。

「亜妃、今日はちゃんと一緒に帰ろう?」

「仕方ないな、帰ってあげるよ」

 亜妃はこんな時まで意地っ張りなんだから。でも、それも面白くてまた笑った。


「せんせーい!黒ウサギ見つかった!」

「良かったわー。お疲れ様。はいどうぞ。皆には内緒よ?」

 黒ウサギをとりあえず、ウサギ小屋に戻してから中嶋先生に報告。そしたら先生、可愛い飴玉を琴葉と亜妃にくれた。嬉しい。

「ありがとうございます」

「二人ともほんと助かったわ。今日は二人で帰るのかしら?」

「はい。先生、さようなら」

「さようなら。気をつけてね」

 琴葉と亜妃は先生にさようならをしてどちらともなく駆け出した。

「もう、校舎内では走っちゃいけません!」

 あ、先生に怒られちゃった。でも仕方ない。亜妃と琴葉は仲良しだもん!




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こっくんの仲直り術 青空 @aozora6

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