五ノ話「異世界の本」

雪乃とゼロは地下に続く階段を降りている。この城の地下室の壁と床は中世の城にありがちな石畳ではなく一階と同じ材質でできている。


「ゼロ君。どこに行くの?」


ゼロは少し何かを考えた後に答えた。


「図書室だよ。雪乃はこの世界のこと知りたいでしょ?」


「そ、そうだけど.....」


そんな話をしている間に地下室に「Library」と書かれた大扉についた。ゼロがドアノブを両手で引き、重々しい音を響かせながら大扉は開いた。

そこには壁が全て本棚になっており、見ただけでも10万冊は余裕で超えてると思う。


「知りたいって言ったけどこの量はさすがにちょっと無理があるよ......。」


そうするとゼロは一番手前にある絵本くらいの厚さの本を取り出した。そうすると本の表紙を確認して雪乃に差し出した。


「よし。これなら基本文字のルル字しかないかな。簡単なおとぎ話だけどちょっと読めるかな?」


「えーっとね。大丈夫だよ。」


全部英語......音声言語は日本語だけどなんでこれは英語なのよ。幸い私は英語は得意ほうだからまだ読めるけど。頭の中で日本語に変換して読むのかな?だとしたらとても面倒なところだよ.....。


「この世界ってこの文字を使うの?」


「まあそうだね。でもこれは基本文字の『ルル文字』と言って他にも主に魔術や術式み使われる『ロミ文字』とかその他諸々あるよ。」


そのルルなんとか文字が英文じゃなかったらさすがに心が折れるわ。


「と言っても日常生活を送るだけならルル文字以外はあんまり見かけないけどね。」


公用語ならぬ公用文字なのかな?そんな解釈をしながら雪乃は読んでみたいと思った本を次々ととっている。


ふと時計を見るともう夜の10時だ。人は新しいことを体験すると過ぎる時間が早く感じられると言うけどあれは本当だったのか。


「読めるなら寝る前に読んでみたら?今日はもう遅いしね。」


「わかったわ。じゃあ客室に戻るねー。」


雪乃は絵本を片手に階段を上り、客室の中に入った。


そうだ。お風呂に入らないと。


静かな浴室にわずかにシャワーの音が響き、虚しい気持ちになる。自分の家以外のシャワーを浴びているからかな?


雪乃は風呂からあがった後、あらかじめ置いてあったカシミア製の白い寝衣を着た。

カシミア製の服って.......こんな大きな城に住んでいるくらいだからあってもおかしくないよね。


寝る前にこの本でも読もうかな。この世界のお伽話はどんなものか気になるな。

どれどれ....題名は.....やっぱり英語ね........。



雪乃は少し期待しながら本をめくった。そこには墨で描かれたような絵とブロック体の文字を筆記体のように崩された英文が並んでいた。




ーーー『四人の英雄』かあ。



子供向けのお伽話のはずだけど英雄とか小さい子供には難しい言葉が普通に使われている。ただこの短時間で私の住む世界とは違う文化であると実感できた。

そう考えると難しい言葉はこの世界では然程難しくない。寧ろ簡単なのかもしれない。


雪乃は慣れない書き方の文字に戸惑いながらも小半時の時間をかけて黙読していた。

お伽話と言うよりも昔話だね。


雪乃は静かに本を閉じ、三人寝れそうなトリプルベッドの横にあったキャビネットに本を置き静かに眠りについた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



窓の隙間から差す日差し。それは目を閉じていてもわかるくらいの眩しさだ。

ゼロは日差しの眩しさで目を細め、ゆっくりとベットから起き上がった。



ー「もう朝か。」


今日の目覚めは実によくも悪くもない。普通だ。髪も結構跳ねてる。

いつものように洗顔、歯磨き、寝癖を直したりと朝からなにも変わっていない。変わったことと言ったら雪乃って子が来たくらいかな?


ゼロは朝の身だしなみを終わらせ、フードのついた上着を着た。 あの子の様子でも見るかな?



ゼロは雪乃が泊まっている客室の扉をノックした。扉が大きいためノック音がかなり響く。


「はー....きゃああああああああああああ!!」


雪乃の悲鳴と共に扉の向こうに何かが落ちる鈍い音が聞こえた。ゼロは何事かと思い、思いっきり扉を開ける。



「いたた.....。」


雪乃は部屋の真ん中で仰向けに倒れていた。どうやらどこかにつまづいたか。あるいはなにもないところで滑ったか。


「ゆ、雪乃?」


「ははは.....」


唖然とするゼロと軽く笑って誤魔化す雪乃。しばらくすると広い客室から二人の笑い声が聞こえる。

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ZEILE 永咲 刃 @Zin0115

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