四ノ話「災厄の復活」

ジールの心臓部がある島「コアルド」に二人の人影があった。この島はこの世界の心臓部だけあって警備がとても厳重だ。


そんな時、封印の間という部屋の奥にあるギリシャ文字が書かれた扉が開かれ、そこから髪が触手のようにうなり、白いはずの白眼が黒く染まっている男が出てきた。


「なぜだ.....!封印が....解かれた....!」


その時一人の警備員が腰を抜かし震えた声でそういった。その時、警備員の肉体は膨らみすぎた風船が破裂するように飛び散り、血しぶきが上がった。


「5万年ぶりですね。ノア様。」


その男をノア様と呼ぶ一人の博識な女性が入り口の前に立っていた。その女性の右手で破裂した警備員の首を掴んでいた。


「ああ。久しいな。」


「この島の警備員は全て排除いたしました。」


女性がそういうと上空に島を覆うほどの魔法陣を展開し、島に日光を入れまいと暗雲を発生させた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



なんの話をしてるんだろ....ここからだとよく聞こえないな。もう少し近づこう。

そう思いながら雪乃は姿を消しながら柱に隠れては顔を出していた。ここならよく聞こえるかと思ったのか。玉座から最も近い柱に隠れた。


「ゼロ。重要な話があるがその前に言いたいことがある。」


「なに?」


すると男は玉座から立ち上がり雪乃の隠れている柱の死角に顔をのぞかせて苦笑いでこう言った。


「お嬢ちゃん。盗み聞きとは感心しないなあ。」


「ば、ばれた!?」


雪乃は驚いてその場でバランスを崩し、倒れそうになった。


「まあ君にもこの話をしないといけないから別にいいけどよ。」


私にも話を?あってから1日も立っていない私にそんな重要な話って.....


「やっぱりか.....」


ゼロは左手で頭を抱えながらため息をついていた。


「さて、本題に入ろう。」


そうすると王らしき男性はもう一度玉座に膝を組んで座り、少し微笑みながら右手を自分の胸に当ててこう言う。


「その前に自己紹介をしようか。俺は青龍 ゼリュークだ。ゼロの父親にして東の国『ルガイヤ』を治める四神王の一人、14代目青龍王だ。よろしくな。」


「は、はい!よろしくお願いします!」


雪乃はこの国で偉いという王を前にしていたことに気がついたのか緊張して声が震えていた。するとゼリュークは少し困った顔で雪乃の頭をポンと叩いた。


「緊張しなくていいぞ。俺は堅苦しいの苦手だ。友達と喋る感覚でいいぞ。」


人は王と言う絶対権力を持つ地位に立つと独裁者に成り果てるがこの世界ではそんなことはないかもしれない。雪乃はぽかんとした顔を浮かべていた。


「よし。自己紹介終わり!では話すぞ。」


「早く話して」


勿体振るゼリュークに対してゼロは呆れた顔でため息をつく。

ゼリュークの陽気な顔は真面目な顔に変わり、口を開く。


「コアルドと言う島の警備員の連絡が突然途絶えた。」


「連絡が途絶えたって一体なにがあったの?」


「調べたが正直わからん。分かるとすれば連絡が途絶えて暫くしたら上空に暗雲が広がったくらいだ。」


明らかにおかしい。あそこが荒らされたらこの世界に多大なる影響を受けるような場所だ。しかも5万年前に大戦争を起こした厄災が封印されているから尚更だ。

ゼロはまさかと思いながら答えた


「あくまでも可能性なんだけど......ノアの封印が解かれたのかもしれない。」


「そんなバカなことがあるのか!?封印が劣化するのは千年先だぞ!」


ゼリュークの顔には焦りが見えた。それは2度目の大戦争が起こる可能性があるかもしれないという気持ちから来るものだった。国をまとめるという役目を持つ王だけでなく、そこに住む市民にとってもそれは由々しき事態となる。それとは裏腹にゼロは表面上冷静になっている。


「僕もありえないと思っている。でも.....それしかないんだ。あそこを襲撃する理由を持つやつは聖騎士を一瞬で消せる邪神くらいだよ。」


ゼリュークはゼロの主張に少し納得し、軽く深呼吸をした後、いつもの表情に戻った。


「ではもしノアが復活したとなれば初代青龍王の遺言に従いシルフィの書物を見せてもらいたいものだ。」


シルフィは最果ての森の小屋に住む大精霊だ。5万年前の大戦争が終結したのは彼が軍隊の戦力を厳選したからだ。歴史に語り継がれる導きの大精霊。


「ーーあの。二人とも?」


「え?」


雪乃の一言でゼロとゼリューク冷静な表情が一瞬にして素に戻った。


「どうしたの?」


「すまん....焦りすぎてお前のこと忘れてた.....。」


「あのな......」


雪乃は人差し指を上に指しながら八の字を描くようにくるくる回していた。


「私がここに飛ばされた時に変な人に会ったの。私に選ばれし存在よ。眠りし力とかなんとか言ってたの。」


ゼロとゼリュークはお互いの顔を少し見つめた後、心が通じ合ったように同じタイミングで頷いた。


「雪乃よ。お前はどうやらシルフィに選ばれたようだ。こうなるとすまないがお前を元の世界に戻せん.....」


え?戻せないって選ばれたってなんなの!?私は一体....。

そう思っているとゼロは雪乃の右手を掴んだ。


「ごめん.....帰りたいのはわかる。でも一旦シルフィのところに行ってみようよ。」


「わ、わかった。」


雪乃の頰は桜色に染まり、恥ずかしそうにゼロから視線を逸らした。

またこの昂ぶる気持ち.....鼓動も早くなっている。この気持ちは恋なの?いや、そんなことはない。




ーー多分.............

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