大問1 幸せとはなんですか?(2)
「分かりました。私の指摘したいことはたった一点です。もしこの言葉が正しいのであれば、私たちはほぼみんな幸せだということです。」
「―――ごめん、羽鳥。意味がいまいち理解できない………。もう少し詳しく説明してもらえないかな………。」
「ええ、分かっています。では少し、ヒントをあげましょう。すべてお話する方が簡単ですが、思考して導き出すことは大切だと思うので。」
「ああ、助かるよ。」
「麻田さんは、一日という言葉や半日という言葉を、間違えてとらえているのだろうと思います。それが解ければおのずと答えも見えてくるはずですよ。」
「間違えて―――とらえてる………?」
「私は昨日、一日ネトゲをしていました。」
「ど、どうしたの?急に………。」
「例文です。この場合、私はその一日、ネトゲ以外に一切の休憩をとっていないことになりますか?休憩を一切取らず、二十四時間ずっとネトゲをしていたことになりますか?」
分かる。
何を言いたいのかは分かる。
だけど―――。
そのクールな顔で、穢れを知らぬその美しい顔で、ネトゲという単語を連発しないでくれ………。
というか、なぜネトゲという言葉をこんなにも使っているんだ?他にも例なら腐るほどあるはずなのに。
まさか。
あの羽鳥楼がネトゲ厨なのか………?
ネットの住民なのか………?
絶対零度より冷たいと言われていた、あの羽鳥楼が………?
そんなのは、認めたくない………。
決して、認め………。
「麻田さん、そろそろ話を進めてもよろしいですか?先ほどから表情が二転三転していて、見ている方はとても充実していたのですが、あまりにもゆっくり話しすぎてしまうと最終下校時刻までに話し終えられなくなってしまいそうですので。」
「………。ああ、少し考え事をしてたんだ。ごめん、続けてくれ。」
「はい。つまりですね、一日当たり十数時間ネトゲをしていただけで、『昨日一日ネトゲしてたわwww』とSNSで発信できるということです。」
さっきより―――悪化してる………。
恐らく、羽鳥はネットゲーマーに恨みがあるのだろう。
そうに違いない。
絶対そうだ。
ただ、ネットゲーマーに対する偏見が度を越している………。
「少々ふざけ過ぎました。ただ、私の言わんとすることはお分かりいただけたと思います。
十数時間で一日と呼べるなら、十時間に満たなくとも半日と呼べることでしょう。
『数時間心配がない』という状況を作るのは、お察しのとおりとても容易です。寝てしまえばいいのです。何かを考えながら寝るという器用なこと、サルから進化した程度の人間には到底できません。寝てしまえば心配することもない。
勿論、『俺様は一日に三時間しか寝ないぜ。』と言う社畜もいるでしょう。しかしながらその社畜も、数十年前は新生児だったはずです。
新生児の平均睡眠時間は、一日当たり十五時間から二十時間。半日と呼ぶには十分すぎる量です。
残念ながら新生児は、十数時間通して寝るわけではなく、何時間かごとに起きてしまいます。しかし、『一日』や『半日』といったからといって一秒の休息も許されないわけではない、という話は前述したとおりです。
十五時間から二十時間もの時間、心配がない。
これは、太宰氏が指す仕合せな人間の条件に合致します。」
ネトゲに引き続き、社○という言葉や、数々の羽鳥楼の少女の外見にまったく似合わない下賤な言葉が出てきたこと、触れないでおこう。
彼女の論理に納得させられたという事実だけでいい。
まったくもって反論の余地がない論理。
僕が言えることは―――一つ。
「異論の余地がない。さすが羽鳥だね。」
そういって彼女の頭をなでる。
屈託のない少女の笑みを浮かべるわけではない。
ただ、彼女の氷のような表情が心なしか和らぐだけだ。
「まだ話は終わっていませんよ?太宰氏の意見に少々意見したまでであって、私の意見も、あなたの意見も、十分に言ってないではないですか。まだまだこれからですよ。」
続く
羽鳥楼は問う 赤城涼華 @ryoka-akagi
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