おこぼれ姫と円卓の騎士 白魔の逃亡

石田リンネ/ビーズログ文庫

ためし読み

 それは遠い遠い昔の話。

 かつて、人の世界は、邪悪なる者によって乱されてしまった。

 戦乱の世を憂えた天上世界の神々は、とある神を人の世界に向かわせる。人の地に降り立つことになったその神は『クリスティアン』と名乗り、己の力の一部を剣に変え、人々へ分け与えることにした。

 クリスティアンと、彼の力を分け与えられた忠実なる十二人の騎士は、力を合わせて邪悪なる者を倒し、『ソルヴェール国』を作った。

 建国の王となったクリスティアンは、後に『騎士王』と讃えられるようになり、自由に意見を言い合えるための円卓での軍議に参加していたクリスティアンの十二人の専属騎士達は、いつからか『円卓の騎士』と呼ばれるようになった。

 これは、ソルヴェール国の民ならば、子守唄代わりに聞かされる伝説である。けれど、誰もが本当にあったことだと信じている。

 なぜならば、残っているのは話だけではない。騎士王クリスティアンが持っていたと言われている『騎士の剣』は、代々の国王に受け継がれ、今も王宮で保管されている。

 ソルヴェール国の国宝となった騎士の剣は、国王の即位の儀で使われる度、『伝説』は『歴史』でもあると国民に再認識させていた。


 時は流れ、第二十代ソルヴェール国王『アンドレア』の時代が訪れる。

 若き頃のアンドレア王は、子に恵まれないことを悩んでいたが、後になって多くの王子と王女に囲まれるという幸せを得た。おまけに第一王子フリートヘルムと第二王子グイードは、次代の王として相応しく育った。

 本来なら優秀な王子の存在を喜ぶべきことなのだが、異なる母を持つ王子達は、それぞれの後ろ盾となるローエンシュタイン侯爵家とオイレンベルク侯爵家の勢力争いに巻きこまれてしまい、次第に対立を深めていく。いつからか、どちらが王になっても国が二分するだろう、と囁かれるようになった。

 内乱という国の未来に頭を悩ませたアンドレア王は、ついにある決断をする。

 それは第一王妃から生まれた第一王女レティーツィアを、次期国王に指名するという奇策を用いることだ。

 お手本のような王女として名高かったレティーツィアは、次代の王を託されることになった十七歳の誕生日に、その評価を一転させ、兄達からこぼれ落ちてきた王の座を拾った姫『おこぼれ姫』と呼ばれるようになってしまう。

 しかし最近、レティの『王女としては優秀でも次代の王としては頼りなさすぎる』という評価は、本人の努力で少しずつ変わってきていた。

 第一席のデューク・バルヒェット、第二席のクレイグ・バーデ、第三席のアストリッド・ガル、第四席の凌皇国の皇子シェラン、第五席でありノーザルツ公国の君主であるアウグスト・カルゼン・ノーザルツ、第六席のマリアンネ・バッセルとウィラード・オルランディ、第八席のメルディ・クラインシュミットという頼もしい騎士を、レティは得ることができた。彼らに助けられながら、国政での実績を積み重ねていった。

 周囲もこれならば、とレティを認め始め、十八歳の誕生会には『国の行く先は安泰だ』と言われるまでになり、兄妹仲良く力を合わせて国を治めていくという希望が見えてきたところだったのに……。

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