第4話 花弁。

カルロスに呼ばれるままに、ホイホイついて行ってしまった西郷。


果たして二人は、これから何処へ向かうのか。


場所的な意味というよりも、むしろ物語の展開的に。何処へ向かうというのか。


まさかとは思っていたが今回で最終回になれるのか。ならないのか。もうグチャグチャです。




「すぐそこさ。もう着くよ」


壮大かつ厳しい出で立ちの門をようやく潜る事が出来た西郷だったが、入学手続きどころかまだカルロス以外の生徒に出会えていない。


西郷はこの超寵児学園に転校してきた事を早々に後悔し始めていた。


「ここが学生寮だよ」


カルロスが指した先にはまるでデザイナーズマンションの様な洗練されたデザインの建物が立ち並んでいた。


しかし残念な事に西郷は愚か、作者もデザイナーズマンションという物に出会った経験がないのでここでの詳細な描写は割愛する。


「学生が住むとこにしては随分良い場所だな。セレブ妻が住んでそうだ」


西郷の発言にカルロスは笑ってみせる。


「アンタ、冗談とか言うんだな。超寵児学園は私立だからね。お金はあるんだよ。さて、ここがウチだよ。入って、どうぞ。」


カルロスの部屋はその中の一つ、周囲でもひと際高い建物の最上階にあった。


「さっさと繕ってくれ。まだ入学手続きもしてないんでな」


ドライな物言いの西郷に対し、カルロスは相変わらず冗談めいたテンションで応対する。


「おいおい。俺は裁縫道具があるって言ったんだぜ?使えるとは言ってないぞ」


「おい待て。それじゃどうすんだ。俺だって出来ないぞ」


二人はしばらくあ然としていたが、そのうち妙に可笑しくって笑い合ってしまった。


「解った解った。俺が悪かったよ。幸いこういう時に色々やってくれるメイドのオバさんがいるんだ。電話して呼ぶから、脱いでよ」


「え?」


西郷は何故だかカルロスの言葉にドキッとしてしまった。その理由が、西郷自身には解らなかった。


「上着だよ。そこに脱いで置いてくれ」


西郷は学ランを脱ぎテーブルの上に置いた。薄手のタンクトップ一枚だけを身に付けた西郷。厳しく鍛え抜かれた西郷の身体が露わになる。


それを、無言で見つめ続けるカルロス。


「男の身体を見つめるのが好きなのかお前は」


西郷は照れ隠しも含めてつい辛辣な言い方をしてしまった。


「いや、別に。だけどアンタ、やっぱり思っていた通り良い身体してるよなって」


「え、なんて?」


西郷の聞き返しにカルロスは答えなかった。


「今立て込んでて、こっちにくるまで2時間はかかるってさ」


カルロスが電話を切った後、二人は手持ち無沙汰で途方に暮れてしまった。


「どうする?飯を食うのも半端な時間だし、というかまだ食堂や売店も空いてないからな」


西郷は学校が始まる時間よりもかなり余裕を持って来た。そう考えると、カルロスは置いておくとしても先ほどのモヒカン達も随分早起きだった事がうかがえる。


「生憎と茶くらいは用意できるけどそれ以上は期待されても困るしね。それとも、ベッド貸すからひと休みするかい?」


そう言えば西郷も微かに疲労を感じていた。


「お言葉に甘えよう。悪いが休ませてくれ」


「こっちだよ」


通された寝室はかなり広かったが、中にはキングサイズのベッドがひとつあるだけの殺風景な場所だった。


「まあ自由に使ってよ、枕もあるから」


「遠慮しないで使わせてもらうぞ」


西郷はベッドのど真ん中にゴロンと寝転がり大きく腕を広げた。こんな場所で寝るのは初めてだった。


「まあ、ゆっくり休んでよ。2時間後に取りに来て繕ってもらって。3時間は寝れるからさ」


「ああ‥」


カルロスの言葉を聴きながら意識が遠のいて行くのを感じていたが、その直後に身体に温かい感触を受け途端に目を開けた。


見ると目の前にカルロスの顔があった。彼は目を閉じ西郷に寄り添う様に寝ていた。


「なんだ?!どういう事だ?お前、何してる!?」


西郷は堪らず起き上がるが手を掴まれて直ぐに引き戻された。


「何って、自分のベッドで寝てるんだよ。ここは俺の部屋だし、アンタに貸してるけど俺のベッドには変わりないからね。俺もひと眠りしてんのさ」


「だからって‥、こんな‥男同士で」


「別に普通だろ?それともアンタ、なんかやましい事考えてんの?」


猫の様にズル賢い目線でカルロスが迫ってくると、西郷には手も足もでなかった。そうだ。別に変な事はない。


「せっかく貸してんだから、寝なよ。俺も寝るさせてもらうから。じゃおやすみ」


そう言って露骨な寝息を立て始めたカルロスだったが、いざ西郷の身になってみるとなかなか気になってしまう。


カルロスの寝顔は、見れば見るほどに美しく引き込まれていくものがあった。西郷は胸の高鳴りがカルロスにバレやしないかと気が気でなく、むしろ一層に鼓動が早くなってしまうのだった。


「アンタさあ。興奮してんだろ」


「な!?」


カルロスの発言が西郷を更にドギマギさせた。


「心音もバクバクいってるし。汗もかいてる。どうして?」


「それは‥」


言えない。男の寝顔に興奮してしまっているなんて。言えやしない。


「ねえ。どうしてだい?」


目を見開いたカルロスは更に美しく、まるで映画のワンシーンを見ているようだった。


「言えないなら、このままだよ」


悪戯っぽく微笑むカルロスに、西郷はもう抗う術を失っていた。


「お前を見てると、胸が苦しい」


「何それ。面白いなあアンタ。見た目通り無骨なんだね」


カルロスはそう言って西郷の身体に腕を回した。


「でもちゃんと言えたご褒美に、アンタの望む事してあげるよ」


カルロス柔らかで花の蕾の様な唇が西郷の無骨で厳しい唇に覆い被さる。


「あの窓から連中に絡まれているアンタを見た瞬間から、こうなりたいって思ってたんだ」


「だから俺を助けたのか」


西郷は最早カルロスのされるがままだ。


「そうだね。でも連中よりも、俺のがタチが悪いかも」


「それでも‥良い」


西郷はカルロスの身体を強く抱きしめ、同時にまた唇を強く重ねた。


「焦らないで、まだ時間はあるんだ」


カルロスが西郷の髪を手で撫で付ける。


「すまない‥俺‥実は‥」


「初めてなんだろ。こういうの?」


「ああ‥」


その台詞にカルロスは一層愛おしそうに西郷を見つめる。


「大丈夫。俺に任せて。全部。良くしてあげるから」


カルロスの唇が西郷の身体を這う。


「んんああッ!」


若き一輪の華が、静かに音も無く、ハラリと散って地面に落ちた。


外にはまた、小雨が降り出していた。



ツヅク

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