03:アラサーOLと男子高校生の、“ひとりの日”

 季節は夏の終わり。秋の始まり。


 いつからという訳でもなく気づけば肌寒く、いつまでだったかと記憶しない内にせみの声が消え、コオロギが鳴き始める。夏の暑さをすっかり忘れ、冬の寒さをまだ思い出せない。そんな時節。


 ピピッ、ピピッ。と、枕元の目覚まし時計が不快な音を立てた。


 何も載っていない枕が、布団から飛び出してはる彼方かなたの床の上に転がっている。


 ピピピピピッ。と、目覚まし時計がアラームの間隔をどんどん短くして、けたたましく鳴り続ける。


 敷き布団の上には、羽毛布団が饅頭まんじゅうのように真ん丸になって盛り上がっていた。羽毛饅頭まんじゅうが、モゾモゾと揺れている。


 ピピピピピピピピピィィィィッ。と、目覚まし時計のアラーム音が最高潮に達する。



「もぉー……うるっせぇっての……」



 羽毛饅頭まんじゅうの中からぬっと腕が伸びてきて、目覚まし時計をぴしゃりとたたき、わめき散らすアラーム音を黙らせた。


 羽毛饅頭まんじゅうから伸びた手が目覚まし時計の上に置かれたまま、静止する。



「……」



 辺りは静寂に包まれて、何も動くものはない。目覚まし時計の上に置かれたままの手がボタンに触れるたび、時計のデジタル表示のバックライトがいては消えて、細い指の隙間からその光が漏れ出てくるばかりだった。



「……寒ぅ……」



 延ばした手を引っ込めるのも億劫おっくうといった様子の間延びした声が、羽毛饅頭まんじゅうの中からくぐもって聞こえた。露出した肌が、秋の朝の冷たい空気にさらされて、こらえきれなくなった羽毛饅頭まんじゅうが、のっそりと腕を中に引っ込める。


 しばらくの沈黙があってから、羽毛饅頭まんじゅうが再びモゾモゾと揺れて、重いまぶたの片方をうっすらと開けた千鶴ちづるが、饅頭まんじゅうの中からすぽりと顔をのぞかせた。



「……げぇ……まだ7時じゃねぇかよ……」



 目覚まし時計のバックライトに照らされたデジタル表示を、まぶしそうに見つめてから、千鶴ちづるは独り言をこぼして再び羽毛饅頭まんじゅうの中に潜り込んだ。



「……目覚まし切っとくの忘れてたぁ……今日休みなのにぃ……」



 モゾモゾと動き回る羽毛饅頭まんじゅうの中で、千鶴ちづるが弱々しい声でつぶやいた。


 ゴソゴソは一向に鎮まらない。千鶴ちづるは2度寝をしようにも、うまく寝付けない様子だった。



「……アタマ、痛ってぇ……」



 羽毛饅頭まんじゅうが、うめき声を上げた。



***





「……。……ふーっ……」



 ダイニングキッチンに据えた椅子に腰掛けて、背もたれに片腕を回し載せ、テーブルに投げ出した脚を組んで、千鶴ちづるが寝起きのタバコをぷかぷかと無言で吹かしている。


 テーブルの上には、缶ビールの空き缶が数缶積み上げられていて、その傍らにはまだ中身が半分残っているウィスキーの瓶が置かれていた。昨晩それらと一緒に口にしたとおぼしき、ビターチョコレートとビーフジャーキーが、パッケージの袋に入った状態で食べ残されている。


 羽毛布団にくるまっている間は、寒くてとても起きあがれないと思っていたが、一旦起きあがってしまうと、薄着のままでも案外大丈夫だなと、千鶴ちづるはタバコを吹かしながらぼんやりと思った。


 休日は、目が覚めたらとりあえず、まずタバコを吸う。数年来の千鶴ちづるの習慣である。仕事のある平日はそんなことはしない。千鶴ちづる自身よく分かっていないのだが、どうやらそうやって、気持ちのスイッチを無意識に切り替えているらしかった。


 とにもかくにも真っ先にタバコを吸うので、千鶴ちづるは布団にくるまっていたときのままの格好をしていた――上はタンクトップ1枚で、下は下着意外に何も穿いていない。タバコを口の端にくわえたまま、猫のように気怠けだるげに伸びをすると、タンクトップがずり上がってヘソがのぞいた。



「……へっくしっ! ……やべやべ、やっぱさみぃわ……」



 ヘソを隠した千鶴ちづるが、灰皿にタバコを押しつけて、ぶるりと身体を震わせた。



***



 シャコシャコシャコ。


 細いシルエットのジーンズと、無地のロングTシャツを着た千鶴ちづるが、洗面所で歯を磨いている。


 タバコを吸ったお陰で、目はすっかり覚めていた。しかし軽い2日酔いの頭痛はまだ残っていて、それのせいなのか、全く食欲がなかった。



「(今日どうすっかな……用事もないのにこんな早起きしても、することねぇんだよなぁ……)」



 千鶴ちづるが鏡の前で歯ブラシをくわえて、寝癖のついた頭をボリボリときながら、持て余した時間をどうしたものかと考え込む。



「(……。……なんも思いつかん……腹も減ってないし……)」



 結局、千鶴ちづるは何も考えつかないまま歯を磨き終え、口をゆすいだコップを洗面台の片隅に置いた。



「……本でも読も」



 両手を上げて伸びをしながら、千鶴ちづるが独り言を漏らした。



***



 コチッ、コチッ。



「……」



 コチッ、コチッ。


 壁掛け時計の秒針の進む音が、不思議と大きく聞こえる。


 壁掛け時計の真下に置かれたソファの上に仰向あおむけに寝ころんで、千鶴ちづるが文庫小説を片手で広げて読んでいた。



「……むぅ……」



 コンタクトレンズをつけて、「積み本消化するかー」と意気込んでソファに寝転がった千鶴ちづるだったが、タバコをくわえた口元はとがっていて、不満そうな声がそこからこぼれていた。


 千鶴ちづるは小説を読むとき、複数の行を斜めに読んだり、飛ばして読んだりはしない。速読の真似まね事のようなことはできるのだが、千鶴ちづるはあえてそれはせず、1行1行、一字一句の文字の上に、一定のスピードで目線をわせながら小説を読むのが好きだった。


 小説の小気味よい文章のリズムと、文字で表現される世界への没入感を味わうには、この読み方が最適なのだというのが、千鶴ちづるの持論だった。


 そしてその持論が、千鶴ちづるを今不機嫌にさせている原因でもあった。


 文章がいまいち頭に入ってこず、目線が時々ピタっと止まってしまうのだった。小川おがわを流れる水のように、サラサラと引っかかりなく文字の上を目線が滑っていく感覚を重要視している千鶴ちづるにとって、岩だらけの濁流の中を、枝がゴツゴツと引っかかりながら無理やり流されているような今の感覚は、背中がむずがゆくなるような不快感しかなかった。



「あー、ダメだー……集中できねぇ……」



 いまいち読書に集中できず、「うわー」と声を上げながら、千鶴ちづるがソファの上で大の字になった。その拍子に、くわえていたタバコの先端から、ロングTシャツを着ている千鶴ちづるの二の腕に、灰がぽとりと落ちた。



「熱っ……!」



 シャツの生地越しでも灰の熱さは伝わってきて、千鶴ちづるは慌ててその灰を手で払い飛ばした。火傷やけどこそせずに済んだが、無地のロングTシャツの腕の部分には、小さな黒い焦げ跡がついていた。



「あーぁ……」



 ふだんの千鶴ちづるなら、たとえ小説に熱中していても、タバコの灰を落とすようなことは絶対にしない。どうやら今日は、なんでか知らんがよほど調子が悪いらしいと、千鶴ちづるは他人の体調を探るような気持ちで自問自答した。


 慌てた拍子に床に落としてしまった文庫小説を、千鶴ちづるが拾い上げる。



「えーっと……」



 タバコを灰皿に突っ込んで、千鶴ちづるが文庫小説のページをパラパラとめくった。そして「はぁ……」とめ息をついて、文庫小説をパタリと閉じた。



「どこまで読んでたか、分かんなくなった……」



 どうやら今日は読書日和ではないらしいと諦めて、文庫小説を本棚に戻そうと腕を上げたとき、千鶴ちづるのおなかがグゥと大きな音で鳴った。



「うーん……」



 本棚に文庫小説を戻しながら、鳴ったおなかをさすりながら、千鶴ちづるが何かを考えている。



「……なんか作るか……? 久しぶりに」



 壁掛け時計は、午前11時を指していた。



***



 時刻は午後2時。千鶴ちづるは久しぶりにキッチンの前に立っていた。


 外に出る準備をぱぱっと済ませて30分。近所のスーパーを当てもなくうろつきながら、何を作るか考えて1時間。喫煙所でタバコを吸って、よく見かける近所の半野良の猫をわしゃわしゃとやって30分。ぶらりと立ち寄った帰りの書店で、また積み本になると分かりながらも小説を数冊買い込んで1時間。気づけば昼食時はとっくに過ぎてしまっていた。



「……よし、やるかぁ。もう何メシなのかよく分かんねぇけど」



 腕まくりをした千鶴ちづるが、まな板と包丁を取り出した。


 スーパーで買ってきた野菜を洗い、肉を切る。2口のコンロの片方でフライパンを熱しながら、その横で水を張った鍋を火にかける。いため物とで物を同時にこなして、それぞれを一旦皿に移し、空になった鍋に新たな具材を入れて、火が通ったところですべてを一緒くたに投入し、じっくり煮込む。


 調理中にタバコは吸わない。滅多めったに自炊などしない千鶴ちづるだったが、いつだったかインスタントラーメンを作っている最中にタバコの灰を鍋の中に落としてしまって以来、このすずめの涙ほどの禁煙ルールだけは破られずに今日まで続いている。



「いい感じじゃないですかー」



 鍋の中の料理は、良い色に煮込まれて、程良くとろみがついて、完成形になっていた。



「……」



 クツクツと美味おいしそうに煮えている鍋の中身をのぞき込みながら、しかし千鶴ちづるの顔にはわずかに影が差していた。



「いい感じだけど……なーんか、作ってたら食欲なくなっちゃったなぁ……」



 千鶴ちづるが壁掛け時計に目をやると、時刻は午後3時を過ぎていた。



***



 午後4時。アパートの2階の窓から見る町並みには、既に夕暮れの予感が漂っていた。


 昼間の内に暖められた空気は、徐々にその熱を失い始めていて、窓から差し込むの光は、なんとなく黄色みがかっているような気がした。


 カラスの鳴き声がやたらと大きく聞こえて、いつもより人通りが少ない気がした。


 すぐ近くで原付きバイクのエンジン音が聞こえたが、窓から顔を出して幾ら探してみても、そんなものはどこにも見あたらなかった。


 結局、千鶴ちづるは料理を作っただけで、今日は起きてから何も口にしていない。


 食欲が、湧かなかった。


 何かが胃の辺りに引っかかっていて、いつまでもそれが消化できずにいるような、いやな感覚があった。


 何もしたくないのに、何もしないまま時間だけが過ぎていくのが、すごく気持ちの悪いもののように感じられた。



「……あー……」



 意味もなく声を出しながら、窓のそば千鶴ちづるがしゃがみ込んで、両手で顔を覆っていた。



「……まぁただよ、この感じ……ヤだなぁ……」



 目に入る景色が、何もかもむなしい。


 耳に入ってくる音が、何もかも物悲しい。


 食欲が湧かず、眠気もない。


 じっとしているのが、気持ち悪い。どこかに行くのが、不安で仕方ない。



「……私、秋って嫌いだぁ……」



 両手で顔を覆ったまま、千鶴ちづるが「むーっ」とうめき声を漏らした。


 千鶴ちづるが、何か救いを求めるように、携帯端末を手に取った。


 数件のメッセージの着信サインがあった。


 ――千鶴ちづるは、秋という季節が嫌いである。


 メッセージは全部、つまらないダイレクトメールだった。


 ――むなしい気持ちになるから、千鶴ちづるは秋が嫌いである。


 ニュースサイトを表示させてみたが、興味を引かれる記事は何もなかった。


 ――物悲しい気持ちになるから、千鶴ちづるは秋が嫌いである。


 何か面白いことを探そうと、検索欄を選択するが、そこに打ち込むべき単語を、何も思いつけなかった。


 ――意味もなく不安になるから、千鶴ちづるは秋が嫌いである。それから――


 ぼーっとしながら、千鶴ちづるが特に目的もなく、携帯端末をつつき回す。



「……」



 千鶴ちづるが、画面をにらんで、何かを迷っているような表情を浮かべた。


 ――それから、独りでいるのが無性に寂しくなるから、千鶴ちづるは秋という季節が、大嫌いである。


 携帯端末上では、アドレス管理ソフトが起動していて、そこには「智哉ともや」の名前が表示されていた。



「……んー……」



 千鶴ちづるの指が、「智哉ともや」の表示の下にある「発信」のボタンアイコンに伸びていく。



「……んんー……」



 モニターガラスの数ミリ手前まで、指が接近する。



「……んんんー……」



 そして、千鶴ちづるの指が、「発信」のボタンアイコンに触れた。



「……だあぁー!」



 画面が暗転し、通話画面が呼び出される前に、千鶴ちづるはキャンセルボタンを連打して、通話ソフトを強制終了させた。



「あー……なんか腹立つ……なんか……なんか、腹立つなぁ……」



 ソファの上に携帯端末を放り投げて、千鶴ちづるがぶつぶつと独り言を漏らした。



「……もぉー……だから嫌なんだよ、秋ってさぁ……」



 千鶴ちづるが訳もなく、ソワソワしながら、オドオドしながら、ザワザワしながら、室内をウロウロと歩き回った。


 ……ピンポーン。


 そんなときに呼び鈴が鳴ったものだから、千鶴ちづるは身体が飛び上がるほどドキリとした。


 ピンポーン。


 また呼び鈴が鳴った。


 その呼び鈴の音を聞いて、千鶴ちづるは自分の頭の中に何の脈絡もなく「智哉ともやくん」の4文字が浮かんできたことに、心底イラっとした。


 そんなことを考えてしまう自分に、自己嫌悪した。


 ピンポーン。


 3度目の呼び鈴が鳴る。



「……はーい、どちらさん?」



 千鶴ちづるが、努めていつもの調子の声を出した。



「郵便でーす」



 扉の向こうから、郵便配達員の声が聞こえた。



「あ……そっすか。そっすよねぇ」



 ほっとしたような、がっかりしたような、何ともいえない微妙な気持ちで、千鶴ちづるは扉を開けて、郵便物を受け取った。



***



 届いたものは、何のことはない、ただのダイレクトメールだった。



「……。……ふーっ……」



 アパートの2階のベランダのさくにもたれ掛かって、千鶴ちづる気怠けだるげにタバコを吹かしていた。



「あー……さっさと冬になんねぇかなぁ……」



 千鶴ちづるは、秋という季節が嫌いである。



「さっさと紅葉になってさぁ……」



 独りで食事をするのがむなしくなるから、千鶴ちづるは秋が嫌いである。



「さっさと落ち葉になってさぁ……」



 独りで休日を過ごすのが物悲しくなるから、千鶴ちづるは秋が嫌いである。



「さっさと日が短くなってさぁ……」



 独りでいるのがたまらなく寂しくなるから、千鶴ちづるは秋が嫌いである。



「さっさと雪、降らねぇかなぁ……」



 訳もなく、誰かと一緒にいたくなるから、千鶴ちづるは秋という季節が、大嫌いである。



「……千鶴ちづるさん?」



 だから、窓下の道路から、彼女の名前を呼ぶ声が聞こえたとき、千鶴ちづるは秋を、心底呪った。



「(……あーぁ……)」



 千鶴ちづるがそっぽを向いたまま、タバコの煙をふーっと吹き出した。



「? 千鶴ちづるさーん」



 目の端に、こちらに向かって手を振っている、智哉ともやの姿がちらりと映った。



「(……だぁから嫌なんだよねぇ、秋ってさぁ……)」



 千鶴ちづるがタバコを灰皿に突っ込んで、窓下の智哉ともやを見下ろした。



「(……秋じゃなかったら、こんなにドキドキしなくて、済むのになぁ……)」



 千鶴ちづるが肺の中に残っていたタバコの煙を、不満そうに鼻から吹き出した。



***





「……やあ、智哉ともやくん」



 千鶴ちづる気怠けだるげに、窓辺から手をヒラヒラと振ってみせる。



「どうしたんだい? なんか用?」



「いや、別に用ってわけじゃないんですけど……」



 智哉ともやがもごもごと、口籠もりながら言った。



「昼間ちょうど通りがかって、その、ちょっと挨拶でもしていこうかなぁと思ったんですけど、千鶴ちづるさん、出かけてるみたいでしたから……なんというか、えーっと、もう、帰ってたりするかなぁとか思って、もう1回寄ってみようかなぁとか……」



 智哉ともやが何やら、的を得ない言葉を並べ立てた。


 それを見て、千鶴ちづるは思わずぷっと笑ってしまった。



「ごめんごめん、ちょうど買い物に出かけてたんだよ、智哉ともやくん。珍しく料理でも作ってみようかなと思ってさぁ。君もなかなか引き運が悪いね、智哉ともやくん。ゲームに熱中し過ぎて現実が見えなくなったOLに登校中ひっ捕まったり、部屋に呼んだら土砂降りに出くわして全身びしょれになったり、珍しく君の方から訪ねてきたと思ったら、生憎あいにく私は外出中だったり、ね」



 智哉ともやの顔を見やりながら、千鶴ちづるがからかうように笑った。



「……。……いえ……ちょっと通りがかっただけですから。お休み中にお邪魔しました、千鶴ちづるさん。それじゃあ……」



 千鶴ちづるにからかわれて膨れ面になった智哉ともやが、ぷいと横を向いて立ち去ろうとする。


 その段になって千鶴ちづるは、智哉ともやと会話した途端、自分がとんでもなく空腹になっていることに気がついた。



「まぁまぁ、待ちなってー、智哉ともやくん。君が通りがかってくれて、ちょうどよかった。実は折り入って頼みがあるんだよ。ちょっと料理、作り過ぎちゃってさぁ。私1人じゃ明らかに多いんだよねー。ねぇ、食べてかないかい?」



 千鶴ちづるのその言葉を聞いて、智哉ともやがどうしたものかと迷っている仕草を見せた。しかしその目には、明らかに招待されて喜んでいる類の感情が浮き出ていて、それを見た千鶴ちづるは吹き出すのをこらえるので必死だった。



「……それじゃ、いただいていきます……」



 気恥ずかしげに、智哉ともやが応えた。


 “素直じゃないなー”と思いつつ、“やっぱり君といると楽しいなー”と思ったが、それを口に出すと、何かに負けるような気がして悔しかったので、千鶴ちづるはその言葉をみ込んだ。



「よし、なら上がってきなー。鍵開いてるからさぁ」



「ちなみに千鶴ちづるさん、何作ったんですか?」



「ん? カレーだよ。千鶴ちづるさん特製カレー。隠し味はビターチョコレートとビーフジャーキー、それとちょびっとウィスキーが入ってるよー」



「……それって、明らかに昨夜ゆうべの酒盛りの余り物か何かですよね……」



「何だっていいんだよー。おいしけりゃさ」



 ……千鶴ちづるは、秋という季節が――



「(あー……まぁ、秋もたまには、いいかもねぇ)」



 ――智哉ともやといれば、そんなに嫌いではない。

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千鶴さんと智哉くん -アラサーOLと男子高校生の、 - 長月東葭 @nagatsuki_tohka

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