元カノの靴がダサい
城崎
開幕、以上
蛍光色の緑とピンクのボーダーを目に焼き付け、ああ今日もまた彼女様の靴はダサいままなのだなあとしみじみ思った。黒のローファーやスニーカーが大多数を占める学校の下駄箱においては当然の如く浮いているのだが、制服の下こそアレの異常さは際立って見えることだろう。白と紺、昔ながらと言えば聞こえの良いセーラー服。なんの面白みもない黒い靴下。その下で輝く、毒毒しい足元。ああ、想像しようとするだけで目の前が真っ暗になってしまう。本能がソレを拒絶しているのか。それもそうだ。清潔で清廉で清白である、否、そうあるべき女子高校生という神聖な存在を、彼女は真っ向から否定していると言っても過言ではない。多少妄想や願望や理想が混じっていたとしても、あの靴だけは理解不能だ。仮に百歩譲ってスクールバックをジャラジャラ鳴らしている多量のキーホルダーの類を許したとしても、アレだけは絶対に許されない。こんなにも趣味が合わないことに、何故数ヶ月前の自分は気付かなかったのだろう。何故、彼女を最優先事項にしてしまったのだろう……考えても分かるはずがない。今の自分に、彼女を理解したいと思う心は残っていない。
そして、相も変わらずソレに視線を向けてしまった自分の愚かしさが涙を誘う。きっと、帰宅する時にも見てしまうのだろう。例え幸せだったとしても、不幸だったとしても、気分を悪くすると分かっていながらルーティーンと化して彼女の靴箱を見つめるのだ。なんて浅ましいのだろうか。自分は振られた側だと言うのに、まるでまだ未練がましいみたいに、元カノの靴を見て、文句を言い、自分の好みに染めようとしているだなんて。なんと罵られても、返す言葉が思い浮かばない。
罵られることも、こんなことを考えている自分の思考が読まれるはずもないのだが。
数人が机と向かい合っている教室の中心で、口の中だけで呟いた。もしも本当に思考が読まれてしまった場合は別なのだが、この世界、そんな特殊能力を持った人間はそうそういないだろう。もしいたとしても「君、元カノの靴がダサいって事柄だけを下駄箱から教室に行くまでの間ずっと考えてたよね?」だなんてことを、問いかける人間がいて堪るか。しかも、クラスメイトがいる教室内で。
教科書類の整理を終え、顔を上げる。そこで自分が見たのは、無表情でこちらを見下ろしている一介のクラスメイトだった。女子、……名前が思い出せない。どうすればいいのか戸惑っていると、彼女が口を開いた。
「君、元カノの靴がダサいって事柄だけを下駄箱から教室に行くまでの間ずっと考えてたよね?」
ご丁寧なフラグ建設お疲れ様、と付け加えられていた。
元カノの靴がダサい 城崎 @kaito8
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