第22話 あるドラマと、はじまりの曲、バラード第2番

 猗綺子さん。

 今日は、何について、お話ししましょうか。

「そうだねぇ。何がいいかな」

 パーパとマンマが生まれたころのことは?

「つっこむねぇ。それって作中で?」

 ちがいますよ。猗綺子さんが生みだしたころのことです。


「……あれは、まだ私が小学生だった……」

 ──小学生!?

「ある、ドラマにハマってました」

 ドラマですか。


「なんか、どこかでこの話した気がするなぁ。まあ、いいか。

 ある美術館だか博物館だかの学芸員である、若い女性が主人公。彼女は時折あらわれる幻覚に悩まされ、カウンセリングに通っている。光の点滅であらわれる幻覚。それは妙に生々しく、彼女にとって日常生活の妨げともなるほどだった。

 その頃、世間は婚約者連続殺害事件に騒いでいた。結婚間近の女性が殺され、婚約指輪もろとも指を切断され、目をえぐられるという凄惨な事件(でも、うろ覚え)。それは、23年前の殺人事件と同一犯だということも分かっていく。

 23年前。殺された女性の記憶が幻覚に混じる主人公。

 どうやら、彼女は殺された女性の生まれ変わりらしい。

 そして、出逢った、殺された女性の恋人の生まれ変わり。

 彼は、彼女が殺された後に、後追い自殺していた。

 現世の ふたりは協力して事件の謎を解き、犯人を追いつめる。

 それが、幻覚を止める方法でもあると信じて……。


「どうですか。面白そうでしょう」

 うん。流行ったの、このドラマ?

「それが、全然。今では聞いたことのない人のいない監督の作品で、すんばらしく面白かったんだけどね。うけなかった」

 あらー。

「このドラマなくして、結架と集一は生まれなかったのです」


 ──生まれ変わりものなの?

「ちがいますよ。そんな、まるパクリはいたしません。パクったのは、主人公のビジュアルイメージと、ピアノを弾く女性だということ。薄幸の美女っていう設定。ひとりっこじゃないってこと。恋人が富裕な家庭の令息だってこと。そういう細かい設定です。物語自体は、だいぶ違うよ。連続殺人もない」

 オマージュですか?

「そのつもり。元の作品には、かなりのリスペクトを捧げております。でも、残念なことに、ソフトがないんだよね。あったら絶対、買い揃えてるのに。そのせいもあり、当時は小学生だったこともあり、うろ覚え(涙)」

 それは……よほどコケたんですね。

「それは言わないでぇ!」


 タイトル、なんていうんですか?

「え? 言っていいのかなぁ」

 大丈夫じゃないですか? ソフト化されてないんでしょ。

「え……でも、さすがにヤバいかも。伏字でいい? 知ってる人には、まるわかりになるけど」

 いいんじゃないでしょうか。

「では……」

 はい。


「『〇〇〇〇〇キス ~イブに逢いましょう~』。テレビTO○YO系列局ほかで放映されていたドラマです。いま考えると超豪華俳優陣なんで、憶えている方も多いと思います。このドラマが流行っていたら、たぶんショパンのバラード2番とクリスマスローズも大ブームになったに違いない」

 つかわれてたんですか?

「そりゃあもう。重要な素材でしたよ」

 それで、両方ともパクったんだ。

「あああ……それは……そうですけど」


 で。そのドラマの主人公たちが、パーパとマンマのモデルなんですね。

「そう。集一は現世。結架は前世の主人公たちを演じた俳優さんがモデル」

 以前、パーパの脳内俳優は松尾敏伸さんだって言ってませんでした?

「あう……だって、もう年齢が……」

 そういうことですね。

 似てるんですか? ドラマのほうの俳優さんと。

「系統はね。似てると思いますよ。怜悧な雰囲気の美青年な感じが」


 ──マセた小学生ですことで。

「あう……」


 

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