第13話 たーだーいーまー思案中♪

「はぁ……」


 おっきな ため息ですね、猗綺子さん。


「うん。おっきくもなるよ」

 なにをそんなに悩んでるんですか?


「『若草祭』で綺音と晶人に演奏させる曲目がね。決まらないの」

 えっ、それですか。

「そう。候補が いっぱいあってね。どれも いい曲でね。でも、場面や人柄、いま出ている二人の様子に合ったものにしないといけないでしょ。そう思うと、オーディションは楽だったさ」

 オーディションの曲目は、すぐに決まったんですね。

「うん。バッハのなかから何かにしようと思ってた。ヴィターリのシャコンヌは外せないって。盛り上がるし。長いし。それに、アルビノーニは個人的にハマってたからね」

 単に好きな曲にしたんですね?

「うん」


 じゃあ、『若草祭』も、好きな曲にしたらいいじゃないですか。


「……それじゃ変化に乏しいでしょ。美弦くんとのデュオとは、違った雰囲気にしたいんです!」


 バロックじゃなくってことですか?


「そうだね。近代ものがいいね。大体は決めたんだよ」

 晶人さんのイメージにそぐうものですか?

「いいところをつくね。そう。晶人くんは浪漫な時代。バロックの後の時代がいいね。でも、現代音楽は私が苦手なものですから」

 じゃあ、モーツァルト?

「ふん。ふん……それは、もっと大盛り上がりなところにとっておきたいので、却下!」


 じゃあ、バッツィーニ、クライスラー、サラサーテですね。


「まあね。ほかにも考えてるけどね」


 誰ですか?


「ひみつぅ☆」


 うわ……それ、パーパとマンマの前でやっちゃだめですよ。ふたりとも、ドン引きですよ。


「やらないよ。やれないよ。

 あの二人の前で、おふざけは出来ません。おそろしくて」


 ……とにかく、大体は決まっているんでしょう? あとは何に悩んでいるんですか?


「曲順。あと、演奏時間」

 時間は15分くらいじゃないですか? 学校の部活勧誘発表会ですよ。いっぱい部活動はあるんですよ。

「そしたら、2、3曲しかできないでしょう。部活の紹介もあるわけだから」

 充分じゃないですか?

「物足りない」


 ああ……オーディションの曲、長かったですもんね。

 猗綺子さん、長い曲、好きなんですか。

「いや。ベートーヴェンとか苦手なほう。長いもん。一楽章が長い」

 じゃあ、短くてもいいじゃないですか。

「……そうか」

 ちゃんと部活動の宣伝文句も考えてくださいよ?

「そうだね」


 まあ、3曲くらいがバランスいいんじゃないでしょうか。

「うん。決めたわ。3曲にする」


 チャールダーシュも入れて?

「入れる」

 そのほかは?

「本編を お待ちください!」

 あ、やっぱり?

 

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