肉と野菜
村川鯨
肉と野菜
僕は野菜しか食べられない。
野菜しか食べたことのない僕は、肉の味を知らない。
僕は、肉を食べるのが怖い。
もしかしたら肉は僕にとって毒かもしれない。
食べたら死んでしまうかもしれない。
僕には彼女がいる。
僕は彼女を愛してる。
そして彼女もたぶん僕のことを愛してる。
僕達はお互いのことを理解しあってる。
ただ、彼女は肉しか食べられない。
野菜しか食べられない僕と、肉しか食べられない彼女。
僕はまだ本当の意味で彼女を理解できていない。
僕は彼女を完全に理解したい。
僕は勇気を出して、肉を食べることにした。
たとえ死ぬことになっても、僕は彼女と並んで二人で同じものを食べたかった。
仕事帰りに肉を買って帰った。
買い物袋を下げて家に帰ると、彼女が床で冷たくなっていた。
テーブルには、冷えてしまった食べかけの野菜炒めが置いてあった。
野菜は彼女にとって毒だったみたいだ。
彼女一人を逝かせるわけにはいかない。
僕は買ってきた肉を炒めて食べた。
僕はその時、初めて彼女のことを本当の意味で理解できたような気がした。
だけど、彼女はもうここには居ない。
結局、肉をどれだけ食べても僕は彼女のもとには行けなかった。
違う人間同士が、本当の意味で互いに理解し合うことなんて、もしかしたらできないのかもしれない。
肉と野菜 村川鯨 @kumo-ito
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