おまけ

3年後。

「忘れ物はない?」

「大丈夫だよ」

「護身用のナイフと銃は持った?」

「持ってねぇよ。持ってたら捕まるわ」

「でもトモも企業戦士なんだし」

「武装するほど戦士じゃないし。不死身だから大丈夫だって」

「本当に忘れ物ない?」

「うん、以外はね」


 すっかり日課になった、いってらっしゃいのキスも、今ではアヤさんも慣れたのか照れもほとんどなくなったようだ。


「ラン! 早く来ないとパパが行っちゃうわよ!」

「はぁーい‼」


 子ども番組の童謡がテレビで流れてるリビングから、可愛い返事とともに、愛娘がとたとたと走ってきた。俺は鞄を置いて、娘のタックルを受け止め、そのまま抱きかかえた。


「ランー、パパにいってらっしゃいのチューは?」


 小さくすぼめられた口が俺の頬に優しく触れる。娘からのキスもここ最近の新しい朝の日課になった。よっし、これで今日も一日頑張れる。


「じゃ、いってきます」

「行ってらっしゃい」

「パパ、いってぇらっしゃーい‼」


 ランは四月から幼稚園に通い始めた。それと同時にアヤさんは在宅でフリーランスの翻訳業を始めた。5カ国語を巧みに使いこなせることもあり、仕事は軌道に乗りそうだ。


 一方、俺はというと不死身の体を持て余しつつ相変わらずサラリーマンを続けている。勘解由小路も俺の部下のままなんだが――


「先輩、ランチご一緒してもいいですか?」

「おう、前に座れよ。勘解由小路」

「紫苑寺です。もう結婚して一カ月なんですよ? いい加減慣れてください」

「すまんすまん。ところでアイツは元気にしてんのか?」

「はい、私の心の中で……」

「自分の旦那を勝手に殺すな」


 なんと勘解由小路は紫苑寺と結婚し、紫苑寺小百合子になった。なんでも、勘解由小路が紫苑寺を何かしらの弱みで強請ゆすり、プロポーズさせたとか。どうしてこう殺し屋の女性はアプローチが過激なのか。しかし、もともとチームを組んでいたこともあり、夫婦仲は良好らしい。ちなみに、紫苑寺星はトップクラスの殺し屋として前線で活躍してるそうだ。


 ふと、スーツのポケットの中でスマホが震え出した。取り出してみると、アヤさんからの着信だった。珍しいこともあるもんだなと思いつつ、電話に出た。


「もしもし、どうしたの?」

「さっき幼稚園から電話があって、ランが転んで、膝を擦りむいたらしいのよ」

「え!? 大丈夫なの!?」

「大丈夫。大丈夫なんだけど、先生たちが応急処置をしようとしたら、膝の傷がもう治ってたらしくて」

「それって……」


〈完〉

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今日も俺は嫁にイチコロ クラタムロヤ @daradara

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