僕を食べて

ヤミヲミルメ

玉子 ~tamago~

 回転寿司のチェーン店。

 朝一番で握られて、レールの上を僕はすでに何周もしていた。


 並んで座ったカップルは、ふわふわしたおしゃべりに夢中で、ふわふわ玉子の僕のことなんか眼中にない。

 僕はとってもおいしいはずだよ?

 キスしてないで僕を食べてよ?


 あの人の前を通り過ぎる。

 この人の前も通り過ぎる。

 僕を食べて。

 同じ職人が握ったカッパやカンピョウはとっくに居なくなっているのに。


 観光客かな? 金髪の幼女だ。

 僕を食べて。

 おいしい玉子さんだよ。

 わさびなんて入ってないよ。

 馬刺しかい!? 馬刺しへいくのかい!?



 ものすごいデブの人が入ってきた。

 流れてくるお皿を片っ端から平らげている。

 ウニやイクラが悲鳴を上げてる。

 何でもっと喜ばないのさ。

 食べてもらえるってのに。


 彼の下流にお皿は残らない。

 イカが食べられた。

 トロサーモンが食べられた。

 いよいよ僕の番だ!


 ああ、何でこんな時にスマホが鳴るのさ。

 おデブの人は大急ぎでお勘定を済ませて出て行ってしまった。

 職人は新しいお寿司を握る。

 神様、このままじゃ僕は干からびてしまう。

 僕を握った職人ですら、僕なんかもう忘れてる。



 怪しげなお客が入ってきた。

 マスクにサングラス。

 マスクをしたままお茶を飲もうとして慌てて外した。

 職人が慌てて駆け寄った。


 なぁんだ、職人の妹さんだったのか。

 職人は今日が初日。

 お姉ちゃんが心配で様子を見に来たらしい。


 あーあ、ケンカを始めちゃった。

 妹さんが、何かわめきながら僕を手にとって、そのまま口に押し込んだ。

 妹さんの口が閉じる瞬間、お姉ちゃんがニヤけるのが見えた。

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