第23話 復讐

 ケーキを食べた翌日、僕と義母と弟は、早速遊園地へ行きました。

 夏休みという事でかなり混んでいましたが、弟は待ち時間もご機嫌でした。

 きっと家族で出かける事自体が嬉しかったのでしょう。


 一日中乗り物に乗ったり歩き回ったり並んだりした事もあり、帰りの車の中ではぐっすりと眠っていました。

「今日は楽しめたようで良かったです」

 運転手の石井さんが穏やかに言います。

 その後、最近弟の元気が無かったので心配だったとも付け加えます。


 石井さんは父と同年代位の中年の男性で、両親とは父が結婚の際、義母に運転手付きで今僕らが乗っている車をプレゼントして以来の付き合いだそうです。


 弟が元気が無かった原因は恐らく義母がかまってやらないからだと思いつつ僕が黙っていると、義母が口を挟みます。

「きっと一真くんが帰ってきてはしゃいでいるのよ。お兄ちゃんの事大好きだから」

 石井さんもそれに賛同しますが、僕は隣の席で眠る弟を見ながら、なんとも釈然としない気分になりました。


 その日は皆疲れていたので夕食を食べた後は早々に休み、翌日は暗くなってから庭で花火をする予定でした。

 昼の内に花火を買おうと、僕は弟と二人で近所のスーパーへ向かいます。


「遊園地楽しかったなぁ、特にジェットコースターと高い所から落ちるやつ! また行きたいなぁ」

 スーパーへ向かう道すがら、弟が興奮した様子で昨日の事を語ります。


 僕はそれを微笑ましく思いつつ、何か既視感のような物を感じました。

 夏休みに入って実家に帰ってからというもの、僕は弟の様子にずっと小さな違和感を感じていたのですが、それがなんなのかはずっとわかりませんでした。


「兄ちゃんが夏休みの間ずっといてくれたらいいのに……」

 僕の手を握って寂しげに弟が言った時、僕はようやくその違和感の正体に気づきました。

 弟は元々僕に随分と懐いていましたが、何か要求がある時はそのまま僕に言います。


 今回のようにしおらしく振舞って僕の気を引こうとするような小細工をしたりしません。

 そして、夏休みに戻ってから、義母がやたらと弟の肩を持つのです。


 それは本来なら義母が弟もかまうようになったと喜ばしく思うところなのですが、やっている事を思い出すと、義母が僕を引き止めるためのだしに弟を使っているようにも見えるのです。


「……そうするようにって、お母さんから言われた?」

 僕が尋ねると、弟の身体がビクリと跳ねました。

 その反応だけで答えとしては十分です。


「ごめんね」

 弟の頭を撫でながら僕は謝り、その後は何事も無かったかのように花火を買いに行きました。

 弟は何も悪くありません。義母から何を言われたのかは知りませんが、きっと僕を引き止めるように言われたのでしょう。


 弟は義母からそう言いつけられた事で自分が頼られている、必要とされていると思ったのでしょうし、僕が弟にほだされて実家に留まる事で、義母の中で弟の利用価値が生まれます。

 結果、弟は義母から以前よりはかまってもらえますし、義母も僕が家に留まるのなら万々歳という訳です。


 そこまで考えると、僕は義母への復讐を思い立ちました。

 今思えば、それは完全に過ち以外の何物でもなかったのですが、当時の僕は完全に自暴自棄になっていたのです。


 日が暮れた後、予定通り庭で花火を無邪気に楽しんだ弟は、片づけが終わる頃にはうとうとし始めました。

 足元がおぼつかなくて心配なので部屋まで送っていくと弟は、

「僕、兄ちゃんにいてほしいのは本当だから……」

 とベッドに横になりながら、突然不安そうに言いました。


 昼間の話の続きだと直感した僕は、静かに弟の頭を撫でて、

「わかってるよ。おやすみ」

 とだけ言って弟の部屋を後にし、両親の部屋に向かいました。


 父は今日、家に帰ってこないのは本人からのメールで把握済みです。

 ドアをノックして声をかければ、すぐに義母はドアを開けて中に入れてくれました。


「ねえ、裕也に何言ったの?」

「え? なんのこと?」

 母に促されるままにベッドに腰掛けて尋ねれば、案の定義母はとぼけます。


「まあいいや、今日一緒に寝ていい?」

「えっ……?」

 その日、僕は義母を抱きました。

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