第4章

第21話 別れは突然

 それはある木曜日、唐突に訪れました。


「もうニュースで知っている人もいるかもしれませんが、昨夜、このクラスの佐藤玲亜さんが殺されました。犯人はもう捕まっています。お通夜が今日行われるそうなので、放課後参列する人は教室に残ってください。クラスで一緒に行きます」


 教室はたちまち騒然となりました。

 ただの事故ではなく殺されたというのも大きいのでしょう。


 先生は詳しい事はこれに書いてあると言って、事件のあらましと、通夜を行う葬祭場の住所や簡単な地図、開始時刻の書かれたプリントを黒板の隅に張り出しました。

 ホームルームが終った直後、プリントの前には人だかりができます。


 今までクラスであまり目立つ事の無かった少女の話で、その日の話題は持ちきりです。

 彼女と仲の良かった女子生徒が何人か、泣いたり取り乱したりしていましたが、僕は唐突に突きつけられた事実に感情が追いつかず、ただ呆然とするばかりでした。


 今週の日曜日は晴れていましたが二人でスーパーに買い物に行って、玲亜がさっぱりしたものが食べたいと言うので、ならそうめんにしようと提案したら、嫌だと文句を言われました。


 じゃあ何ならいいのかと尋ねたら、玲亜は冷麦の袋をカゴに入れてきて、ピンクやグリーンの麺が入っていて可愛いからこっちの方がいいと言うので、僕は気が抜けて笑ってしまいました。


 玲亜とは夏休みには一緒に水族館へ行く約束をしていて、最近は挨拶以外でも、たまに学校でこっそりと話しかけてくれるようになって、料理を作る時、色々手伝おうとしてくれるようになったけれど、玲亜に料理を覚えられると僕が玲亜の家に通う理由が無くなるから僕は後片付けや配膳しか玲亜にやらせなくて、玲亜はそれがちょっと不満そうで、それから…………それから……………………。


 玲亜との事が走馬灯のようにグルグルと頭の中を回って、これは夢に違いない。でなければ何かの間違いだと考える僕と、玲亜はもう死んでしまったので、そんな事考えても、もう無駄だとどこか冷めた僕がいました。


 携帯でニュースを調べてみると、昨日の夜、隣町の駅前で玲亜は恋人を名乗る男に刺殺されたようです。


「犯人の男は佐藤さんと付き合ってて、浮気された恨みで殺したって言ってるみたい」

「でも犯人って三十過ぎの無職でしょう? 急に連絡が取れなくなったって、そもそも付き合ってたの?」

「支離滅裂な事言ってて精神鑑定するんでしょう? もう完全にストーカーの妄想なんじゃない?」


 クラスでは大体こんな内容の会話が飛び交っていました。

 彼女と仲の良かった友人も、

「恋人がいるなんて聞いた事ないし、玲亜は人違いか妄想で殺されたのよ!」

 と憤っていました。


 彼女の裏の顔を知っている僕は、犯人の男の言っている事はあながち嘘でもないだろうし、携帯の履歴などを調べればすぐにわかりそうな気もしましたが、黙っている事にしました。


 放課後、彼女の通夜に向かえば、葬祭場はほとんどのクラスメートや他のクラスの生徒等、多くの野次馬で溢れかえっていました。

 テレビ局の取材なども来ていて、クラスの担任やクラスメイトが彼女は普段から真面目で大人しく、痴情のもつれで男に殺されるような人間ではないという事を話しています。


 報道や通夜で用意された写真も、高校に通っている時の地味な姿の写真でしたが、棺に入れられた彼女の姿は、僕のよく知る美しい彼女の姿で、なぜだか僕はそれが口惜しく感じました。


 棺の中の彼女は、眠っているだけのように見える程に綺麗で、僕は彼女の死に実感が持てないままでした。


 彼女が殺害されたという事件は、数日はテレビでも取り上げられて騒がれましたが、すぐにぱったりと取り上げられなくなりました。

 遺族である彼女の両親が何か手を回したのかはわかりません。


 彼女が実際に援助交際をしていたという証拠は、彼女の遺品を整理すればすぐわかりそうなので、それが広がる前に何か手を打った可能性はありそうです。


 彼女がいなくなった後の僕の生活は、驚く程以前と変わりませんでした。

 ただ僕の前の席がずっと空席のままで、毎週の日曜日の僕の予定が無くなっただけです。

 それだけなのに、途端に僕を取り巻く全ての物が色褪せたように感じられました。

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