第17話 執着

 晴れて佐藤玲亜と友達になった僕ですが、彼女にはこれから友人関係になるにあたり、いくつか条件を出されました。


 学校では彼女に馴れ馴れしく話しかけない。

 お互いに学校の知り合いといる時や付き合っている相手といる時は見つけても話しかけない。


「……篠崎くんって学校でも結構目立ってるからあんまり一緒にいて注目浴びたくないのよね」

「なんか不倫相手に出す条件みたいだね」

「あら、だって篠崎くんはそういうのが好きなんでしょう?」

 僕が呟けば、彼女はからかうように笑いかけてきます。


「違うよ。ただそっちの方が色々と都合がいいんだ」

 なので、僕は素直に答える事にしました。


「……世の中には人畜無害そうな顔したろくでなしがいるから困ったものね」

「佐藤さん、そんなに自分を卑下しなくたっていいじゃないか」

「なんで私の話になってるのよ」

 茶化すように僕が言えば、彼女は不服そうにむくれました。


「じゃ、またね」

「ちょっと待って」

「何?」

 そのまま彼女はベンチから立ち上がって帰ろうとしたので、僕は慌てて引き止めました。


「僕は君と逢いたい時はどうしたらいいの。学校も外でも話しかけちゃダメなんでしょ」

「あら、それもそうね」


 言われてみれば、という様子で彼女は首を傾げます。

 僕にはその仕草が随分と白々しく感じましたが、そこは黙っておきました。


「なら、こうしましょう。日曜に私の家に来たらいいわ。土日は両親いないし。稼ぎ時でもあるのだけれど、特別に日曜日だけは空けといてあげる」

 彼女は笑顔で提案してきます。


「え、いいの?」

 予想外の申し出に僕は思わず聞き返してしまいました。


「あら、不満? ならこの話は無しでもいいのだけれど」

「ううん、それでいい」

 クスクスと笑いながら彼女が前言を撤回しようとするので、慌てて僕は頷きました。

 土日は恭子さんも家族が家にいて会えないので、僕も都合がいいです。


「じゃあ今日は佐藤さんの家まで送っていくよ。そうしたら家の場所もわかるし」

「そうね。今日が金曜日だから、明後日また来たらいいわ」

 帰ろうとする彼女の後を付いて歩きながら言えば、彼女は薄い笑みを浮かべながら答えます。


 それから僕らは彼女の家に着くまでの間、学校での事や、家庭環境など、とりとめのない事を話しました。

 あまりお互い踏み込んだ話はせず、大まかな事を雑談しただけです。


 だからその時わかったのは、彼女は一人っ子で両親が共働き、家族全員がお互いにあまり興味がないらしいという事位でした。


 案内されたのは学校から徒歩十五分位の一軒屋でした。

 彼女が今の高校に進学を決めたのも家からの近さがあったようです。

 僕の家とは逆方向だったので、近道をしても徒歩では三十分近くかかりそうです。


 僕らが家に着いた頃には辺りは薄暗くなってきていて、あちこちの家で明かりが灯っていましたが、彼女の家は真っ暗でした。

「それじゃあ、篠崎くん、また明後日」

 そう言って小さく手を振った彼女が家に入っていき、家に明かりが灯ります。


 帰り道、彼女が何を考えて僕を家に招いたのか考えました。

 大方、あんまりしつこく食い下がってくるようなら、下手に拒絶して変にちょっかい出されるようになる前に適度に餌を与えて飼い慣らそうという事なのでしょう。


 自分で仕向けた部分はありますが、いざそうなってみると、実家にいた時とは立場が全く逆で、僕はなぜだかそれが妙に面白く感じました。


 とにかく、構ってもらえるうちになんとか彼女に気に入られなければなりません。

 貢ぐにしても今の僕では高が知れていますし、他の『彼氏』と差別化するためにも何か別の方法で気を引かなくては。


 そこまで考えて、僕は首を傾げました。

 僕はなんでこんなにも彼女に執着しているのだろう、と。


 今になって思えば、きっとそれは彼女の中に自分の実の母親の姿を見ていたからなのだと思います。

 彼女を義母や奈緒美さん、恭子さんのように篭絡できたのなら、自分の中の呪縛のような物から解放されるような気がしていたのでしょう。


 もっとも、彼女はそんな玉ではなかったのですが。

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