第3章
第13話 佐藤玲亜
「家を出て親からの干渉もなくなると、羽目を外したくなるものだろうし、それも多少は構わない。だが、親ではなく一人の男として一つだけアドバイスするとすれば、高学歴の男はモテる」
無事、外部の高校に合格したことを僕が報告した時の父の第一声がそれでした。
「必ずしも良い大学を出る必要はない。就職先はいくらでも
どうやら父は、今勉強を頑張ると、将来的に僕の人生にどんなメリットがあるのかをわかりやすく説明して勉強に対するモチベーションを上げようとしているようでした。
「あと、寮に入ると言っていたが、寮生活は窮屈で敵わん。学校の近くの学生向けマンションを借りておいたから、そっちを使いなさい」
そうそう、と思い出したように父は言いました。
昔、父も高校時代高校の寮に入っていたものの、寮の規則や集団生活に馴染めず、一年も経たずに近所のアパートで一人暮らしを始めたそうです。
ちなみに以前別の機会で聞いた話によると、父は高校時代一人暮らしをしながら好き勝手やっていたせいで一年留年していたはずです。
しかし、父はその事をなんら恥じている様子はなく、むしろどこか自慢気でした。
その後一念発起して一年浪人した後、某有名私大に合格したと聞いています。
「現役の女子高生と合法的に付き合えるなんて今だけなんだから、悔いの無いようにな」
結局父はそう締めくくり、僕に勉強して欲しいのか遊んで欲しいのか、よくわからないまとめになりました。
要するに『好きにしろ』ということだろうと勝手に解釈した僕は、とりあえず、成績を落とさない程度に遊ぶ事にしました。
引っ越してからしばらくは毎日のように義母から不在着信とメールが大量に入っていたので、落ち着くまでは携帯の電源は使う時以外落としておくことにしましたが、それも一週間もすれば収まりました。
それでも一日二、三通のメールと実家の夕食が終わった位の時間に電話が来てましたが、全て無視しました。
弟からも義母に連絡をしてやってくれという内容のメールが届きましたが、もう少し落ち着いたら連絡するとだけ返しておきました。
父の用意してくれた学生向けのマンションは、既にベッドや食器、その他家具などが一通り揃っていました。
近所を散策してみると、徒歩圏内にコンビニとスーパーもありましたし、最寄り駅までも歩いて行ける距離です。
学校へは歩いて二十分位でしょうか。
高校は習熟度によるクラス分けは無く、生徒の自主性を重んじるという校風だったため、特に厳しい校則もなく、授業についていけさえすれば、テストでも別段困る事はありませんでした。
クラスメート達も皆、良い意味であまり周りに興味を持っていないように感じました。
僕は初め、あまりに日々の生活が快適過ぎて戸惑いました。
テスト前に試験範囲を勉強すればそれでそこそこの点も取れたので、普段は授業以外で自主的に勉強する必要も無く、門限も無く、交友関係も当人同士やその友人の間で完結して、そこに親の影はありません。
知らないうちに部屋を片付けられる事も無く、食事や洗濯、掃除など、全てが自分の手でできて、そこに一切他人の目が入らないと言う事が、どうしようもなく開放的に感じられました。
一人暮らしをすると、寂しさを感じたりホームシックになるだとかいう話をよく聞きますが、少なくとも僕にはそれはありませんでした。
家で一人でいる時は人の目を気にして自分を良く見せようとする事から完全に開放されたというのも大きかったのかもしれません。
しかし楽しいのも最初の内だけで、しばらくするとそれも当たり前になってきました。
当時の僕は、とにかく暇を持て余していました。
幸い高校でもすぐに周りに馴染めましたが、そのうち僕は、もっと別の気晴らしをしたくなりました。
要するに、ただの友達付き合いではなく、身体の関係を伴った付き合いをしたくなったのです。
けれど、自業自得とはいえ中学時代の事もあるので、同級生に手を出す気にはなれませんでした。
結果、僕は成功経験のある同級生の母親に狙いを定めて、実家住みの同級生達の母親の容姿や性格、家庭環境、働いているかどうかなどを
見た目は綺麗な事に越した事はありませんし、性格は温厚で強く出られたら断れなさそうな人が良い。
時間を持て余している方が構ってもらえやすいので、専業主婦で、できれば一人っ子の家庭が良い。
少なくとも、まだ目の離せない小さい子供がいる家庭はダメです。
などと、色々と条件を考え、学校での同級生との会話から大まかに絞り込み、あれこと理由を付けては家に上がり込んで確認しに行きました。
そんな努力の甲斐あって僕は、子供は同級生一人、旦那さんは海外に長期出張に行っている、年齢の割に随分と若々しい
ところで、僕のクラスの席は男女混合の出席番号順で、僕の席の前には
眼鏡をかけた地味な印象の子で、僕とは事務的な会話しかしたことありませんでしたが、同性の友達はそこそこいるようでした。
クラスでも、あまり目立つタイプではありません。
彼女はいつも髪を後ろで一つにまとめていて、僕は授業中、なんとなく彼女のうなじにあるほくろに目が行ってしまうことが多々ありました。
なぜ急にそんな話をしだしたのかと言えば、僕が放課後、恭子さんと隣町でデートしてラブホテルに行った帰り、彼女とすれ違ったからです。
三十代位のサラリーマン風の男と一緒で、長い黒髪を下ろして化粧した彼女は随分と垢抜けていて、男と話す声も学校にいる時よりも高く、初めは知り合いだとは気づきませんでした。
ただ、彼女が一瞬僕と目が合った時に微かに驚いたように見えたので、僕はなんとなくすれ違った後振り返って彼女を目で追いました。
そしてちょうど一緒にいた男が彼女の髪に指を通して、露になったうなじから見慣れたほくろが見えた時、僕は今まで味わった事の無いような衝撃を受けたのです。
彼女はそのまま男と僕達が出て来たラブホテルへと入っていきました。
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