第11話 お友達

 結局寧々はあの日以来学校に来ず、そのまま転校してしまいました。

 柏田家のスキャンダルがクラス中に知れ渡ったその日から、彼女とは電話もメールも通じなくなりました。

 彼女にどうしても謝りたかった僕は、事の真相を突き止めた翌日、柏田家を訪ねました。


 寧々やその家族をここまで追い詰めたのは僕の母親であり、結局元をただせば僕が原因です。

 しかし、彼女には会えませんでした。


 平日で仕事があるはずなのに出迎えてくれた彼女の母親に、これ以上娘に近寄らないで欲しいと言われました。

 昨日、寧々は家に帰った後、酷く塞ぎこんでしまい、学校であった事を娘から聞いた彼女は無理を言って会社を休ませて貰ったそうです。


 たとえ僕から謝罪を受けても寧々が学校で嫌な思いをした事実は変わらないし、僕の顔を見ればまたその事を思い出してしまう。


 寧々を本当に心配して悪いと思っているのなら、もう寧々の事は忘れて欲しい。

 というような事を言われました。


 寧々の母親の言い分は全くもってその通りで、反論の余地もありません。

 その日僕は、謝罪するよりも、謝罪の機会も与えてもらえない方がよほど辛いのだと知りました。


 僕は、ただ謝る事で自分の気持ちを軽くしたかっただけなのです。

 きっと寧々の母親もその事に気づいていたから、そう言ったのでしょう。


 学校では、しばらく寧々の話題で持ちきりでした。

「なんでただ噂が本当なのか尋ねただけなのに、あんな態度とるんだろ、感じ悪いよね」

「別に不倫してたのは柏田さん本人じゃなくて父親なんだから、堂々としてれば良かったのに」

「ここぞとばかりに悲劇のヒロイン気取ってたのマジうざかったんだけど」


 そんな話もちらほらと聞こえましたが、たとえ自分だったら気にしないと思っていても、なぜそれで傷つく相手もいる事を考えられないのでしょう。

 クラスメート達が人の皮を被った鬼のように思えました。


 誰かが寧々とはまだ続いているのかと聞いてきて、別れたと答えたらその日の内にクラスの女子から告白されましたが、その子が楽しそうに寧々の事をあげつらって笑っていたのを見てしまったので、とても付き合う気にはなれませんでした。


 しかし二ヶ月もすれば何事も無かったように誰も寧々の話をする人はいなくなりました。

 単純に飽きたのでしょう。


 義母はあれから随分と僕の機嫌を伺ってくるようになりましたが、一ヶ月もすれば、すっかりいつも通りの様子に戻ってしまいました。


 このままだと、また今後何かの拍子に寧々の時のような事が起こるかもしれません。

 僕は中間試験が近づいたある日、クラスメートの女子を初めて実家の自分の部屋に招きました。


 義母は少し驚いた様子でしたが、笑顔で迎えてくれました。

 その笑顔が引きつっていたり、頻繁に僕の部屋に差し入れを持ってきたりはしていましたが。


 そして翌日、今度は別の女の子と勉強会を開きました。

 翌々日にはまた別の女の子を呼びました。


「ねえ一真くん、この前遊びに来た子達は、お友達……?」

 三日目、女の子を駅まで送ってから戻ると、義母が聞きづらそうに尋ねてきました。

 僕は笑顔で答えます。


「そうだよ? 全員前に告白された事があるけど、付き合ってはないよ」

「そ、そう……」

「特定の子と付き合うより、色んな子と遊んだ方が楽しいなって、最近思うようになってさ」

 あえてどちらとも取れる言葉を選びます。


「でも、お母さん、そういうのはどうかと思うんだけど……」

「どうして? ただ友達と遊んでるだけだよ?」

「……その子達とは、その、本当に何もないの……?」

「それを知ってどうするの? それに、仮にそうだとして、母さまはもう約束破るの?」


 急に無表情になって低い声で尋ねて見れば、義母はすぐになんでもないと焦ったように言いました。

 その様子に満足した僕は、

「試験が終ったら、前に母さまが見たいって言ってた映画見に行こうよ。あれ僕も気になってたんだ」

 と義母と出かける約束を取り付けます。


 この頃になると、すっかり義母の扱いも板についてきていました。

 義母は僕の交友関係が気になって仕方が無いようでしたが、その辺はずっとぼかしていましたし、実際学校で特定の相手を作ったりもしませんでした。


 学年トップの成績を維持するため、勉強にも励みます。

 ただ、この時僕が熱心に勉強していた理由は、義母が成績を理由に交友関係で文句を言ってくる事を阻止するための嫌がらせでしかありません。


 義母へのあてつけに、役員会で仲が良いらしい隼人の母親の奈緒美さんと大人のお付き合いをしたりもしました。

 もちろん義母にバレる訳には行きませんでしたが、それは彼女も同じなので、その辺はとても助かりました。

 今になって思えば、そうすることによって僕は義母に対する日ごろの鬱憤うっぷんを晴らしていたのでしょう。


 また、女好きの父と重なるような言動をして、義母に幻滅して欲しかったのかもしれません。

 しかし、僕の希望に反して義母の僕に対する執着は日に日にエスカレートしていきました。

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