「公衆トイレのビックフット」 :1475文字


私が担当する事件が初めてニュースに取り上げられるのは、負い目が感じながらも少しだけ誇りを持つのはなぜだろう。


もう13件目、またも公衆トイレが破壊されるニュースが取り上げられる。


事件はただのいたずらから始まった。単独犯、身長は175㎝で黒い覆面をかぶり、深夜2時に公衆トイレに入り、3.6キログラムのゴム製大型ハンマーで大なり小なりすべてのトイレを破壊していき、15分後には去っていく。


公衆トイレ内部には監視カメラが内部に設置されていないため、外部の公園の映像からしか情報はない。深夜2時の公園には浮浪者や危ない奴しか、いなく目撃証言をしても、やれ金を出せだの知らねーだの白を切るのが当たり前だ。


こんな、小さくも大きい事件に責任を負わされる私は対策本部を設置要望も出せる訳もなく、鑑識に頼んだとしても凶器のハンマーについていたゴムの塗料が見つかるだけで、それ以外は打ち切りになってしまった。


今日も張り込みを行う、私の予想する公園に黒が染まることを願うばかりであった。


そして、深夜2時に幕が上がる。私は毎回車で公衆トイレを除いていたのだが、今回は犯人の予想を裏切るため、色々な細工を施してきた。一つは警察署から公園まで歩いてきたこと、もう一つは今私が公衆トイレの一番奥の洋式トイレに鍵を開けたまま座っていることだ。


これで、犯人はおそらく公園にもトイレにも誰もいないことを確信し、犯行に及ぶだろう。


あとは、犯人が目標の公園をこの場所に選ぶだけである。


その時だった。誰かがトイレに入る足音が聞こえる。のぞき見をしようかと思ったが、相手に気づかれてしまうためにそれは遠慮していたが、音を聞く限りでは用を足すようには見えなかった。


最初はガシャーン、後にカラカラ、最後はポロロ、何かが壊れる音がする。間違いなく、扉の向こうは犯人がいる。


小用を足す便器は次々と壊されていく、何もできない人質のように、沈黙する羊たちのように。一番奥から出ても、後から追うことになりリスクがかかるため不意を衝くしかない。


ひたすら、待った。その間に次は和式便所が破壊されていく。


そして、最後に私が入っている便器にたどり着く、ここからは気配を限界までに消して相手を待つ。


犯人が扉を開けた瞬間だった。私は雄叫びを上げ、犯人の胸ぐらを掴んだ。


「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」


1秒、いや限りなく1秒より低い秒数で脅しをかける。犯人はメドゥーサを見たように硬直して、その場から動けない。私はすぐさま彼に手錠をかけるのであった。


「深夜2時8分、犯人確保」


その場に残ったのは、犯人確保の事実と犯人の失神した雰囲気であった。14件目、ようやく犯人が捕まった。それができたのは、おそらく、13件目の時点で残されている公衆トイレが少なかったのが理由であった。


後日、他の同僚から取調べの話を聞いた。何でも、彼は昔トイレ会社を首になった者であることがわかった。それがきっかけで転職先も愚か、恋人にも逃げられ、バイトで食いつなぐようになってしまったのだ。


だから、彼が働いていたトイレのメーカーを見ると、嫌気が指して全て壊したくなっただという。公衆トイレで彼の働いていたメーカーのトイレはあれが最後で、これが終わればきれいさっぱり犯行をやめていたという。


つまり、私は最後のトイレの守護神となっていたのだ。この話が世に広まることはなかった。しかし、別の意味でその話題が広まってしまった。


都市伝説「公衆トイレのビックフット! 公衆トイレの破壊魔を倒す!」


やはりだが、こんな話も負い目が感じながらも少しだけ誇りを持つのはなぜだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ショートショート集「臆病な流れ星」 奏熊ととと @kanadekumattt

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ