ショートショート集「臆病な流れ星」
奏熊ととと
「フゥヴッツアストロ氏」:566文字
客員研究員に晴れて認められ、ドイツ留学はすんなりと固く通る話だった。
博士課程を終えた私には他に行くところが無いくらいにドイツ語を学んでいたからだ。
ヴェストファーレン州の綺麗な景色を見ながらも豚料理とビールを仕事終わりに楽しめるのはこれ以上もない至福のひとときだった。
しかし、1ヶ月後のことだった。私はフゥヴッツアストロ氏の研究に携わることになり、気が一変した。
「この装置にドイツ人の屁を集めてくれ」
渡された意味不明の装置と一言だけ、それ以上の言葉の数はなかった。
私はドイツ人の疑り深い性格を知っているためそれ以上の詮索はせず、初めての下積みと思い彼が言われるがままになった。
それもこれも彼がノ-べル賞候補者だと小耳に挟んだからであり、このプロジェクトの一員になれると思うと鼻が高い気分でもあった。
私は6ヶ月間、毎日ドイツ人の老若男女問わず屁をかき集めた。
時に彼を知りケツを出す者、彼を知らないでケツを出す者、私を知りケツを出す者、私のケツを蹴る者、これまでの出会う人々にデータを取り、屁も採取した。
そして、ついに彼の研究が成功したとの報告が来た。私はすぐさま、彼の論文の要項を見せていただいたのだった。
フゥヴッツアストロ氏の論文のタイトルはこうだ。
「〇〇回分の屁を燃料にすれば宇宙に行くことができる」
彼はイグノーベル賞候補者だった。
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