第八章 「別離」

命尽きるまでの間、私は最期まで抗い続けるつもりだった。

惨めに白旗を上げるところを、あなたに見せて消えてしまいたくはなかったもの。

私は私らしく、あなたを愛したままの私のままで姿を消したい。

あなたの記憶毎スッパリ消してしまえれば、どんなにか気が楽でしょう。

あなたは優しすぎる人だから。

私がいなくなった後も、きっと私の姿を追い求めて、街や自分の想い出の中を彷徨い続けてしまう気がするの。そんな繊細で寂しがり屋のあなたに忘れな草を送るような真似は絶対にしたくない。

私が今できる形で、あなたにしてあげられることをしばらくずっと考えていて、ようやく思いついたことを行動に移し始めたわ。

あなたの心の傷が癒えるまでの間、私の言葉であなたに語りかけるの。

どれくらいの時間が必要かしら?どんな言葉が適切だろうか?そもそもあなたは嬉しく思ってくれている?こうして様々な思いを託して書いて、見つめ直して、消してを繰り返してみる。

でも、時間が経つにつれ、私自身の体調が段々思わしくなくなってきた。

もう私には時間があまり残されていないのが、感覚として解るの。

メールを打つ手が震える。意識を集中して、自分で書き連ねた文面を読んでみても、その内容を理解出来ない時がある。

こうなってみて、初めて激しく思う。



死ぬのが怖い。



死ぬのが怖いよう。



ああ死ぬことって、こんなに怖いことなんだなって、今更ながらに感じています。


ゴメンね、最期の最期で弱気を見せちゃうなんて。

もうとっくに覚悟は出来てると思っていたのにね。このまま意識が消える様に、あなたのことまでも忘れてしまって、死んでいくのはどうしても厭。

心の中では、あなたに私のことをフェードアウトさせて欲しいと願ってはいたけれど、私の心までが喪われてしまうだなんて、あまりにも残酷すぎるじゃない。

神様お願いです。どうか最期まで彼への想いを断ち切らずに逝かせてください。彼にさよならを言わずに逝かせてください。



あなたの優しい眼を視て、温かい腕に抱かれて、同じ時を共有して、お互いの言葉でお互いの気持ちを思いやって・・・どれほど幸せを感じたか、どれほど愛しみを感じたか、どう頑張って考えてみても言葉には言い表せません。

本当に、本当に、どうもありがとう。

一緒にいられて、毎日が楽しくて嬉しくて、私はとても幸せでした。








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なごり雪 赤松 帝 @TO-Y

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