第5話 人は皆どこかズルいの

本心がどこにあるのか


どれが本心なのか


“今”ばかりを大切にし過ぎて


私にはきっといつか


神様から罰が与えられる

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想像もしなかった、

はるが私を覚えてくれている事も

好きでいてくれていた事も。



「はる、今日もここで勉強?」

「うん」

「そっか~」

「麻衣は?」

「う~ん、ここで読書する」

「そっか」


はるは、優しく微笑んでくれる


あぁ…その笑顔が好き




駿斗は、はるとの再会で私が

別れたいと言い出すんじゃないかと

心配している


でも、「別れるつもりないから」


私はいつもこう返す。



“麻衣が幸せならそれを壊したくないから

 こうやって会えるだけでうちは十分だから”


はるのこの言葉に私は甘えるの…



何もしない

ただ図書館で会って

はるは勉強して

私は隣で読書したり勉強したり


ただそれだけ


だからこれは浮気じゃない


大丈夫

きっと大丈夫なはず。



「はる」

「ん?」

「…付き合ってる人いる?」

「今はいないよ」

「今は…じゃ昔は?」

「いたよ、この前別れたばっか」

「男の人? 女の人?」

「女の人」

「どんな人だった?」

「急にどうしたの?」



離れてた4年間で、

はるがどんな人と付き合ったのか

どんな人がタイプなのか

全部知りたいの



「知りたい、はるのこと」



困った様に微笑むはるは、

凄く綺麗で可愛い



「この前付き合ってた人は年上の社会人」

「うん」

「たまたまバスケの大会見に来てたらしくて

 会場で話し掛けられたのがきっかけ」

「…ナンパじゃん」

「ふふ、そうだね」

「…どんな人?」

「背は同じくらいで目がクリっとしてる」

「性格は?」

「キツかったよ、我が儘」

「年上なのに!?」

「うん、幼かったね。ギャップ」

「そう言うのがタイプなの?」

「全然」

「じゃ、どこが良かったの?」

「どこだろう…ないかも」

「じゃ、なんで付き合ったの?」

「好きって言われたから」

「えっ…」

「最低でしょ?」



今度は、辛そうに苦しそうに

はるが微笑む



「…なんで」

「ん?」

「好きって言ってくれるなら誰でもいいの!?

 好きでもない相手となんで付き合うの!?」

「好きな人はいるよ、ずっと。

 でも、手の届かない所に行っちゃったから

 …皆、代用品だよ」


「はる」


はる

好きよ

私はずっと貴女が好き

だから、

他の人に触れないで

あの優しい微笑みを向けないで…



「今日はもう勉強やめる」

「えっ」

「ごめん、雰囲気悪くしちゃったね」

「はる」

「今のままだと麻衣に嫌われちゃうね」

「そんなことない!」

「…」

「はるを嫌いになるなんてあり得ない」

「…ありがとう」

「また会いたい」

「夏休みの間は殆どここに居るから」

「また、来てもいい?」

「来て欲しい」

「うん、メールもしていい?」

「うん」



「はる」

「ん?」

「もう好きじゃない人と付き合うのはやめて」

「…」

「苦しい…から」

「…分かった」

「ごめんなさい」

「麻衣は悪くないでしょ?」

「でも、」

「彼を大切にね」

「…」

「じゃ、またね」

「うん、またね」



私はずるい

好きじゃない人と付き合うのはやめて。

そう言えばきっとはるは、

私の言葉を守り続ける


付き合えない

だからって

好きな人を他の人に取られたくない

はるにはずっと私を好きでいてほしい

私もずっとはるが好きだから

付き合えなくても

想い合っていたいの…


ごめんね、はる






「好きです」

「じゃ、付き合う?」

「えっ、いいんですか?」

「うん」


そう言って微笑めば皆喜んでくれる。


麻衣が転校して以来、

付き合ってる人がいない時に

告白されれば絶対OKしてた


麻衣がいない寂しさを

埋めてくれるなら誰でもいい

傍にいてくれればそれでいい


気持ちが無いのに付き合ってる事を

美侑はすぐに気付いて

「そんなのおかしい」

って、凄い勢いで怒鳴ってきたっけ…


どれだけ怒鳴られても

付き合うのをやめなかったから

美侑も段々何も言わなくなった

ただ、悲しそうな顔をするだけ


それでも

美侑はうちを見捨てるどころか、

ずっと味方でいてくれた


「はるの傍にいるから」

この言葉は心強かった

最低な友達でごめんね

美侑、本当にありがとう



“もしもし、はる?”

“美侑、今何してる?”

“家にいるよ”

“暇?”

“うん、暇。凄く暇”

“今から行っていい?”

“いいよ~”

“ありがとう、じゃまた後で”

“はーい”



ピンポーン



「はやっ!」

「玄関の前で電話したから」

「なんかご機嫌?」

「そう?」

「うん、すっごい笑顔」

「美侑のこと考えてたら

 会いたくなったから会いに来た」

「えっ…」


やっぱり今日のはるご機嫌だ

麻衣ちゃんと何かあったのかも


「はる、何飲む?」

「お茶」

「了解、先に部屋行ってって」

「うん」


いきなり会いに来るなんて珍しい

でも、あんなご機嫌なはるは

久しぶりに見た。


「はい、お待たせ」

「ありがとう」

「何かあった?」

「う~ん?」

「急に来るなんて珍しい」

「そうだっけ?」

「誤魔化さないで」


「麻衣にさ、聞かれたんだ」

「何を?」

「会ってない4年間にどんな人と付き合ってたか」

「…何て答えたの?」

「ありのままを伝えたよ」

「麻衣ちゃんの反応は?」

「ちょっと怒ってた」

「だよね、そりゃ怒るよね」

「うん。あ、あと」

「ん?」

「もう好きじゃない人と付き合うのはやめてって言われた

 だから、もうあんな事はやめる」

「…あのさ、」

「ん?」

「麻衣ちゃんの言ってることは正しいよ。でもさ、なんで今更麻衣ちゃんの言う事聞くの?」

「えっ」

「だって私も止めた!

でもはるはやめなかった!」

「それは…」

「まだ好きなんでしょ?」

「…うん」

「相手は彼氏いるんだよ?」

「分かってる」

「分かってないよ!

このままだったら…きっと麻衣ちゃんまたはるを好きになる!

そうなったら彼氏と別れるんだよ?

せっかく普通の恋愛してるのに…

だめだよはる」



ごめん、はる

これじゃはるが普通じゃないって

言ってるようなもんだね


傷付けたい訳じゃない

怒鳴りたいわけじゃない

ただ、2人が両想いになってほしくないだけ



「やっぱり普通じゃないよね」

「ごめん言葉が悪かった」

「美侑は間違ってないと思うよ」

「…はる」

「皆、男女で恋愛するからね

 うちは昔から男女にこだわってないし

 今も麻衣が好きだし」

「はるが普通じゃないなら

 私も普通じゃないよ」

「美侑は健と付き合ってるし、普通でしょ」


「付き合ってるよ、でも本命はずっと違う人だったら?」

「えっ、それって」

「はると一緒だね」

「…美侑」

「だから途中ではるに口出すのやめたの」

「経験者だから言うけど、それ辛くない?」

「…うん、健には罪悪感もあるし」

「美侑」


はるに名前を呼ばれた。

返事をしようと思ったら

はるに優しく抱きしめられてた


「はる?」

「こう言う時ってさ、なんかぎゅってされると安心しない?」

「…する」

「罪悪感も虚しさも分かる」

「はるも辛かった?」

「少しね、湧いてこない愛情を作るのが1番辛かった」

「ごめんね、はる」

「なんで謝るの?」

「はるが辛い時、何もできなかった…」

「安定剤。忘れた?」

「ううん」

「美侑が傍にいるだけで救われてたよ」


そう言って優しく微笑みながらはるは、

私に“ありがとう”って言った


胸がぎゅっと締め付けられる

苦しいのに

幸せが溢れてくる


「はる」


はるの名前を呼びながら

私もはるに抱き着く


ギュッと、


はるとの隙間を無くすように

ギュッとキツく抱き着く


「美侑少し苦しい」

「やだ」

「甘えるなんて珍しい」

「はるからやったんでしょ」

「そうだね」


また優しく笑ってくれる


大好き




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