成り行きで魔王軍の幹部の嫁になったけど、なんか質問ある?
あのさー……もうそろそろ帰してくれないかね? もうじき日が沈む、夜までには帰りたいんだけどさー。
え? 駄目? やっぱり? うーんそれは困った。
てかさー、何で私を拉致ったのあんた、私なんかした?
……え? いや……それはあってんだけどさ……うん。
……なんだいその顔は? って、そりゃまあ、あんたも事のあらましを知れば大体理解できんじゃないの?
話した方がいい? それとも別にいい?
了解、それじゃあ、話そうか。
その理由は至極簡単でとても単純だ、呆れるほどね。
今からちょうど1年くらい前だったかな? 私らが魔王軍に入ってから2年くらいたった頃だった気がする。
その頃あいつはそれなりに優秀な戦績を収めてそれなりに活躍していたわけだ。
それで、縁談が舞い込んできたんだよ、それも何件も。
貴族の御令嬢とか優秀な魔術師とか、そう言うエリートな感じの人達から。
聞いた話だと一般市民の中でも憧れの存在だったらしくてラブレターとかよく貰ってたらいけど、正直言って戦闘中のアイツを見たらドン引きするんじゃないかと思うよ、そのお嬢様方。
血飛沫浴びてニッコリ微笑みながら留めをさすあいつの顔見たら大体の人がドン引きすると思う。
でもまあ、戦場に足を運ばないお嬢様型やその親御さんはそんな事を当然知らないわけで、一応、『狂戦士』っつー渾名は知れ渡ってるはずなんだが、そのあからさまな通り名からやばい奴だって察する事が出来なかったんだろうか、彼らは。
察した奴が少なかったからどんどん縁談話が持ち込まれてきたんだろうな。
それで辟易したんだろうね、あいつは。
そもそもあいつ、女には全く興味ないんだよ、興味がある事と言えば戦う事と食べる事と寝る事だけ、たったそれだけの馬鹿なんだよ。
え? 何であんたが怒るの? だってあいつ馬鹿じゃん。
ちょ……待った待ったごめんってば、訂正するから!! 全くもう乱暴だな、ヒステリーかよ。
シンプル、シンプルな奴なんだよ、はい、これでいだろう?
だからその握りしめた拳は降ろしてくれ、頼むから。
……で、だ。
そんな奴に縁談が舞いこんだらどうなると思う?
……その通り、全部断ってた、もう容赦なくね、送られてきた姿見とか全部見ないで処分してたんじゃね?
さっき言った通り、女になんて全く興味がない奴だ、だからそう言う反応は当然だろう。
……いや、当然なんだけどさ、もうちょっとオブラートに包んだ行動をしてほしかったなーと部下であり相棒である私は思うよ。
だってさー、あいつが軒並み縁談断りまくったせいで逆恨みした貴族の御嬢さんがさー、何でか知らないけど部下だった私に手ぇ出してきてさー。
……殺されかけたんだよね、うん、あれはぶっちゃけやばかった。
逆恨みした奴は何をするか分からないからおっそろしーよねー。
……え? その時どうして助かったのかって? 偶然友達のアラクネに助けてもらったんだよ。
アラクネって分かるかな? 分かる、うんならよかった説明する手間が省けた。
すごくいい奴でさー、私の話しをよく聞いてくれんの。
あいつ? あいつその時は戦場に出てたよ? だから知らないんじゃないの? この事。
そんな事件が起こった二か月くらい後だったかな。
あいつ縁談を断る事すら面倒になってきたらしくてな?
それで弱いおつむなりに考えた訳だ、どうすればこれ以上縁談が来なくなるのか。
それで考え付いた結論は……もうお察し、だよな。
御名答、結婚しちまえばいい、既婚者に縁談なんて来るわけねーからな。
で、その相手として白羽の矢が立ったのが私だった、ってわけだ。
以上があいつと私が結婚した理由だ。
……え? 何でそこでブーイング? 以上、じゃないって言われても……
どうして私に白羽の矢が立ったのかって?
そりゃ……一番近くにいた異性だったからじゃねーの? 付き合いもそれなりにあったし? 来た縁談の中から適当に選ぶのは嫌だったらしくてな?
信用されてたのもあったのかもなー、こういう事情を説明した上で「別にいい」なんていうのも私くらいしかいなかっただろうし。
……え? 何でそこでそんな顔すんの?
うん? 私の意志?
正直言って結婚とかするつもりなかったんだよねー私、女でも幹部の部下やってれば十分喰ってけるし、だから結婚とか興味なかった。
恋とかした事無かったし、好きな奴とかいなかったし。
あ、恋愛面で、と言う意味合いでね、友情的な意味での好きな奴はそれなりにいた、あいつもそのうちの一人だったし。
だからさー、あいつからかくかくしかじかと説明された後に、『だから結婚してよ』って、言われた時は正直言ってどうするか悩んだよ。
だってあいつの事そう言う目で見た事一回もなかったし? あいつだって別に私の事そう言う意味で好きだったわけじゃないし?
ただ縁談を断る為の出汁に使われるのもどうなんだろうか、と思ったわけだ。
……うん、でも結局折れた、まあ、相棒が困ってるなら手を貸してやるのもやぶさかではなかったし? 誰かと結婚する予定も今後一切経つ事も無かっただろうし? なら別にいいかなーって。
え? 軽い? ふざけんなって言われても……
でもまあ、私もあいつも昔からこういうノリだったからなー。
周囲の奴等もさして驚いてなかったし。
まあ、外面だけ聞くととんでもない話だとは思うけどね、私も話しててそう思った。
……聞きたい事はこれでいいかい? ところで日が完全に沈んだな、帰っちゃ駄目か?
……ちょ、待って何で泣いてんの私なんか変な事言った!?
……え゛? 幼馴染? あいつと? え、嘘初耳、うわー……マジかー
…………………そっか、それでずっと探していた、と。
そうか……大変だったな……その頃あいつは多分私と一緒になって馬鹿騒ぎしてた頃だと思う……なんつーか、すまん。
相棒として一度くらい帰郷を促すくらいの事はやっておいた方が良かったかもしれない。
けど許せ、そういや私あいつから、あいつの故郷は魔物のせいで滅んだ、とか言われてたんだった、今更だが、騙されてたんだな、私。
……うん?
昔から好きだった……? あいつの事を?
え、嘘マジで……? でもあんた勇者でしょ……
………ちょっと待って、どうすりゃいいのこれ。
成り行きで魔王の配下になったけど、何か質問ある? 朝霧 @asagiri
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