成り行きで魔王の配下になったけど、何か質問ある?

朝霧

成り行きで魔王の配下になったけど、何か質問ある?

 この世界は大まかに分けて二つに分けられる。

 まずは光側、女神を信仰する人間や精霊を中心としたもの達。

 もうひとつが闇側、特に信仰はないが、魔王という強力な力を持つ存在をお上に据えた、魔族や魔人や嫌われ者の人間達を中心としたもの達。

 中間も一応ないことはないのだが、今回は割愛。

 光と闇は大昔から当然のように争ってきた、不吉な力を使う闇を光は嫌い、光によって迫害された闇は光を憎悪した。

 果たしてどちらが悪かったのか、今となってはよくわからないが、結局のところどちらも悪い、というのが私の考えだったり。

 そんなこんなで、光と闇は現在も絶賛戦争中なのでしたとさ。

 そんないつまでも延々と続く戦争ののさなか、ここ数年で光側から闇へと堕ちたもの達が数名存在する。

 おっと、堕ちたという表現は嫌いかい? なら闇に渡った、と訂正しよう。

 その闇に渡ったもの達は力の強いものたちだった、ただ不吉というだけで光側で迫害を受け、闇側に逃げ……失敬、鞍替え、そう、鞍替えしたんだ。

 そいつらはとても強かった、強すぎたと言ってもいい。

 例をあげると最近幹部になった奴らが上げられる、幹部の説明は省かせてもらうよ、お前も『死神』とか『大魔女』とか『呪毒師』の事は知っているだろう? あ、あとうちの『狂戦士』も。

 とまあ、そんな逸材が揃いも揃ってここ数年で闇側にインしたわけで、光側では裏切りだのなんだとぎゃーすか騒いでるらしいけど、私は自業自得だと思う、身からでた錆、って奴ね。

 で、だ。

 その逸材達はだいたい全員、誰かしらを連れてこっち側に来たんだよね。

 ……そーそー、まあ、ぶっちゃけると仲間、っていうかしもべ的な? そういう認識でおkだよね。

 例えば『死神』、こいつは双子の女の子を連れている、うん、知っての通り人間とエルフのハーフの超美少女ツインズ。

 この双子は元々奴隷で、変態貴族に飼われていた。

 ある日『死神』がその変態貴族を殺害した、理由は変態貴族の金を奪う、ただそれだけ。

 それでも双子は金のために変態貴族を殺しただけの『死神』を自分たちの恩人だと盲目的に信奉している、話だけだとなんか滑稽ね。

 次、『大魔女』、彼女は黒猫の少年を連れている、そうそうあの黒髪の、あの少年、猫の魔人、所謂化け猫なんだ。

 あの少年はなんでか知らないけど生まれた時から光側の土地に住んでいて、ある日殺されかかっていたのを偶然通った『大魔女』に助けられたんだってさ。

 『大魔女』はちょうどその時、化け猫の爪が欲しかったから、それで助けたんだって、それで命を助けた引き換えにそれを求めようとしただけで、それきりの関係のつもりだったんだってさ。

 それなのにご覧、あの少年はここまでついてきた、猫なのにまるで忠犬が如く『大魔女』に従ってなついている。

 次、『呪毒師』……こいつは面倒だから割愛していい? あいつハーレム築いてるからいちいち説明すんのめんどー臭いんだ。

 でもだいたい、あいつのハーレムメンバーは元々光側で迫害されてきた『可哀想な存在達』だ、それだけは共通してる。

 これは『呪毒師』のハーレムメンバーだけじゃなくて、超美少女ツインズと化け猫も同じ、こいつらは自分が闇側に来たかったから魔王の配下になったんじゃない、自分の恩人、要するに主人が魔王の配下になったから、それにくっついてきただけ。

 こういう傾向は今だけじゃなく昔から見られる、もはや文化だ。

 要するに「強い力を持った『嫌われ者』が、意図せず『可哀想な存在』を救ったあとに、光側から闇側に移って『可哀想な存在』を侍らせながら、闇側で大暴れしてのし上がる」っていう、そういう文化。

 で、こっからが本題。

 私も元々光側の人間だった、それで色々あってこっち側について魔王の配下についたわけだ。

 でも、私は『嫌われ者』ではなかった、『可哀想な存在』でもなかった。

 言ってしまえばただの凡人で、駆け出しの冒険者だった。

 特別な力なんて一切持っていない、普通にどこにでもいる、もしかしたら強くなれるかもしれないけど、あっさり死んでもおかしくないようなそういう……言い方は悪いけどモブみたいな存在だった。

 そんな私はある日、とある人物とコンビを組んだ。

 そいつは私よりも三ヶ月くらい後に冒険者になった新入りで、無謀にもパーティを組まずに初クエストに挑もうとしていたから、私は慌てて止めてそいつとコンビを組んだんだ。

 私だってその頃はソロだったけど、初戦からソロは流石にまずいでしょ?

 それにチュートリアルには誰かしら経験者がついているのが普通だろう? え? そうでもない? そうか……でも私にとってはそれが普通だった。

 まあ……そんな風にちょっとしたお節介を焼いて見ただけだったんだけどさ。

 コンビを組んで驚いたよ、そいつは凄く強かった、冒険者三ヶ月の私どころか下手すりゃ上級を超える強さだった。

 だから、別に一人でも大丈夫だろうと思って、そいつとはそこまでの関係、あとは互いに頑張ろうぜ、って心境だったんだけどさ、私的には。

 でも、なんでか知らんけど続いたんだよね、コンビが。

 なんでかはよくわかんない、ただの成り行きが続いた感じだった。

 コンビを続けるうちに、あいつが光側にとって不吉な力を持ってることを知った、私としては知ったこっちゃなかったけど。

 別にそういうのどうでもよかったんだ、どんな武器も道具も力も使いよう、がモットーだったし。

 薬だって毒になる、毒だって薬になる、そういう認識だった。

 だけどそのせいであいつはよく絡まれてっけ。

 まああいつが全部笑顔で相手を半殺しにしてるうちに自然に収まってたけど。

 私も何度か巻き込まれかけたけど、大事に至ったことはないから実質被害は0だったんだよね。

 だから特に気にしてなかったんだ、私としては強い奴が味方なら心強いし、金稼ぎやすいし。

 で、コンビ結成から二年くらい経った頃だったかな? コンビ結成二周年ということでなんかうまいものでも食べに行くかと盛り上がってた時期だった気がする。

 その頃にあいつ、あいつの噂を耳聡く聞き付けた魔王にスカウトされたんだよ。

 その時は純粋に驚いた、強い奴だと思ってたけどまさか魔王から直々にスカウトされるとか、どんだけだし。

 それでどうするか、ってことになったんだよ、魔王に付くか付かないかで。

 私は完全に蚊帳の外だったから別にどっちでもよかったけど、あいつが何を選ぼうとそれはあいつの選択で、私が口を挟むことじゃないから。

 ああでも心強い相棒がいなくなるのは少し心細かったというのが本音だ、ソロに戻るか別の奴とパーティ組むかも悩みどころだし。

 でもそれは私の問題であいつには関係ないことだし、だからみっともなく引き止める気もなかった。

 で、あいつは一分間悩んだ後に決意を固めた、あいつにしては時間がかかってたから、あのバカなりに思うところはあったのかもしれない。

 魔王に付く、とあいつは私に向かっていった、私はそうか、とだけ答えて、餞別は何がいいだろうかと考え始めた。

 んだけど、ここであのアホンダラ、私もこっちに来ないか、とか言い出したんだよ。

 あの時は流石に焦った、だってあの頃の私、せいぜい中級レベルだったのに、魔王の配下になるとか……

 経験値不足すぎだろう。

 ……というツッコミはしたし、魔王も当然反対すると思ったんだが、なんでか魔王からOKが出てな……

 ドン引きしたわ。

 それで改めて聞かれたわけだよ、これからどうするかって。

 それで五分くらい考えた、私にしては熟考した方だな、ここ数年だと一番頭使ったかも。

 それで今のまま冒険者やるよりも魔王の配下になった方が生活楽になりそうだなってことで私も配下になることにしたんだ。

 それで今に至る、ちなみにその相棒とは未だにコンビを組んでいる。

 正直言って足を引っ張ってるのは明白だからそろそろコンビを解消すべきなのでは? とも思うんだけど、なんでか知らんが私、そいつの従者扱いになってんだよね。

 まあ、そのおかけで割と贅沢な暮らしができてるし、別にいいかなーとも思ってたりする、ほんと、相棒様様だ。

 で、その私の相棒がさっき話にあげたうちの一人の『狂戦士』だというわけなんだよね、うん、幹部の部下は生活が楽でいいわー。

 でだ、私とあいつがここに来てだいたい一年くらい経って、それで色々落ち着いたから、ある日私と同んなじように成り行きでこっちに来た奴らと話してみようと思い立ってさ、話して見たんだよ。

 それで驚いた、誰一人として私みたいなやつは一人もいなくて、揃いも揃って重たい過去を背負っていて、皆自分を救った主人に盲目的な忠誠を誓っていて、だから全然話が合わなくて。

 気がついたらぼっちになっていた。

 ……本当、なんなんだろうな、誰よりも普通で凡人だった私が、凡人であるというだけでここまで浮いているのは、なんつーか皮肉だ。

 ……というわけで、本当にただの成り行きで魔王の配下になったんだけど、なんか質問ある?

 自分で言っちゃなんだけど、割と珍しいパターンだと思うんだよね。

 いや、調べるまでそんな風には思ってなかったんだけどさ?

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