第4話 救う世界

「腕章って、確かに描いてある絵によって力が違うって言ってたよな。

俺のは浮いている様な絵なんだけど、使い方が解んないだよ。」


「見せて貰って良いかい?」


拓にポケットに入れてた腕章を渡して見せた。


「多分これって「空を飛ぶ」とか、「浮き上がる」とかと違うんじゃないかな……多分だけど重力に関係する能力だと思うよ。

だって上からの矢印は重力を表していて、それに干渉されない様に浮いてるからさ」


なるほどね、まだ意味が解らず使っていなかったけど、試してみる価値はあるな。


「まぁ、ちなみに僕の腕章は人が消える絵が描かれてるんだ。

結構良くてね、消えると相手に音や気配すらも遮断してくれるらしいんだ。

ここに来るまでに何回か使って見たから間違いないかな、それに触れている人にも同じ現象を起こせるって言うオマケ付きなんだよ」


だから、あのコオロギの中を掻い潜って来れた訳か……そう言えば樹のはどんなんだ?見ていないな


「樹のはどんなんだ?見せてくれよ。」


「良いぞ、でも俺のも意味が解らん。良かったら2人で解析してくれ。」


樹から腕章を受け取り、拓と一緒に見てみる……これって単純な物じゃないのか?さすがは脳筋ゴリラ…拓と目を合わせ答えを告げる。


「とりあえず見たまんまの能力と思う、多分壁を創り出す能力じゃないか」


描いてある絵はこうだ、人が居て手を向けた先に壁を出現させている感じだ。

単純で使い易い能力じゃないか、解ってればここまで来るのにこんな苦労は絶対しなかったぞ……


「さすが2人は頭が良いのぉ、さっぱりだったから考えるのを止めたんだ。」


あぁ…さっき死にかけたのが…樹だからしょうがなかったと諦めよう……


「樹の能力があれば楽に援護出来るな、後は舞さん能力は何ですか?」


舞さんの腕章を見る……こんな危険な能力まであるのか?

描いてある絵は爆弾を持った人だ、物を壊すのに使えば良いが、危険な人物が持てばそれこそ……

彼女の性格が解らないが、樹の能力が相手だと相性が悪いのが幸いだ。

舞さんを疑う事ではないが、これから先どんなゲームが待ってるか判らない為、危険な能力であるのは間違いない。

拓がこっちを見ている。やっぱり用心しろって事か……だが、今の状況だったら


「舞さんの能力と樹の能力でコオロギを殺せないか?」


「そうだね、樹がコオロギを壁で囲い、舞さんが爆弾で始末するって連携を使えばいけると思うよ。」


殲滅出来れば生き残れる人も多くなる。

協力する人間が多ければクリアも楽になるだろう


「朝陽……いや、これはまた後で伝えるよ。

今は救出に向かおうか。」


何を言いかけたのか気になるが、また後でと拓が言うなら後で聞こう、今は急いで助けなければいけない。


「じゃあまずは外のコオロギを退治していこう、俺がさっきと同じ要領で壁を叩くから、拓と樹が手を繋ぎ力を使って外へ、その後樹の能力でコオロギを壁で囲い終わったら声を掛けてくれ、それを聞いたら舞さんと外に飛び出し爆弾を囲いの中に放って爆破する。これでいいか?」


皆が頷き樹は壁を出す練習をし、樹の合図を待つ。どうやら操作自体は簡単な様で壁を出す事には成功していた。

樹がイメージが済んだ様で俺を見て頷いた。


「それじゃあ行くぞ!!」


手筈通り壁を叩く、直後に手を繋いでいた2人が消える。

実際見ると凄いもんだ、全く気配が無い。


壁を叩き続けて10秒程で外からドンと何かが落ちる音がした。


「舞さん今だ!!」


樹の声だ。舞さんは不安な面持ちで俺を見る。


「すまないが頼んだ。」


舞さんは深く頷き外に出る。その後すぐに壁から離れる。爆破がこの外で起こるなら壁の側に居れば何かしらの被害を受ける可能性があるからだ。


爆弾を投げ終わったのか、部屋の中に舞さんが戻ってきた直後に爆発音……鼓膜にそれが伝わる。

コオロギは倒せたのか?すぐに外の2人に確認したいがクラクラする……


外に居た2人が中に入ってきた、入り口付近の舞さんは耳を塞ぎ体を縮めて居た。

爆発音をまともに聴いたのは俺だけだった様だ……なにせ1人だけタイミングが判らなかったんだから


「朝陽やったぞ成功だ。とりあえず外の安全は確保出来たか向こうの様子を伺えるぞ。」


樹が嬉しそうに近づくがまだ音の余韻が残っていて余裕がない……


「耳を塞いでいなかったのか?朝陽はしっかりしている様で、なんだかんだドジだなぁ」


「あのね樹、朝陽は爆破のタイミングが全く解らないんだよ。それに舞さんが入って来るまでは壁を叩いていた訳だから……」


樹が「あっなるほど」って顔をしてる……若干と言うか、かなり苛立ったぞ脳筋め…


「拓、解説ありがとうな。とりあえず外の安全が確保出来たなら通路の様子を確認しに行こう。」


急いで通路が見える扉を全員で目指す、通路は……凄惨な状態だった。

コオロギに襲われ沢山の人が死んでいた……それに、今も追い込まれながら襲われている。

せめてこっちを目指す様に伝えないと……

見えているのはコオロギが十数匹と隙間から生きてる人が絶望して泣いている光景……

その現場までは200m位だ、走ったって間に合わないが、少しくらいは助けられるかもしれない


「舞さん、爆弾は出せるか?後、爆発のタイミングや威力の操作は出来る?」


「多分大丈夫だと思います。さっきの爆発も操作出来たし、威力は解らないけど……」


「タイミングさえ出来れば大丈夫だ。もう1回出してもらって良いかい?」


能力で出してもらった爆弾を受取る。

拓を見て軽く頷くと「やっぱりかぁ」と言いたげな顔をしていた。拓と手を繋ぎ能力の使用を頼む


「舞さん、威力の操作は出来ないかもしれないけど、一応コオロギの真ん中に投げるから、それで全体にダメージを与える様な感じを思ってて」


「出来るか判らないけど、頑張ります。」


それを聞いて拓と走り出す。拓の能力を使い届くとこまで気付かれない様にする為だ。

大体50m位まで近付けば大丈夫だろう……走っている間にも人が襲われている。


ようやくたどり着き拓の能力を解除してもらい、爆弾を投げ込む……大体狙った場所に入れれた。

後は牽制しておかないと……


「今から爆発が起きます。耳を塞いで出来るだけ体を低くして下さい。」


言った直後2人で後方へ走り出す。

それを合図として舞さんは爆破させた……

爆発は集まったコオロギ達のほぼ全体を巻き込み、殺傷していた。

俺達は立ち止まりそれを確認すると生存者を確認する。


「無事な方は急いでこっちに走って来てください。まだ生きてるコオロギもいるかもしれませんので、被害の少なそうなやつの所は避けて下さい。」


屈んで居た人達が立ち上がり、走って来る。最初の時と比べて人数はかなり減っていた……

「これだけ助けられたのか」と思うのか、「これだけしか助けられなかったのか」と思うのか、俺には判断出来ない……でも助けられずに全員を見殺しにするよりかは後悔はなかっただろう


生き残った人達と生きていた喜びを感じながら、再びあの出口を目指した……

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テロから始まるDEATH GAME 虚実実行 @yusyoz

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