ばばあに俺の気持ちを訴える

太陽炎

もしも、伝えれたら。

「おい、ばばあ。」


そんなこと、親に言える立場じゃねーけど、内心そう思っとる。というか、親って多分俺の本当の気持ち、分かってないんだろうと思うで。ほんまはな、俺、音楽じゃ無くて、演劇がしたいんや。


「ママ〜、やっぱ一番はトランペットよな〜、まじで楽しい。」

「わざわざ報告せんでもめっちゃ伝わっとるで。」


いつも通りの会話。俺はトランペット大好き人間を、本当に血のつながった家族達の前で、日々、演じる。

まぁ、【演じる】って、事だから実際は大好き人間ではないんだな。

ほんで、今日こそは、音楽科に進むんじゃなくて、演劇部がある高校に入って演劇したいっ!!って伝えるぜ!!……多分無理やけど。







「あんた、今日はトランペットの練習して無いんちゃん?」


きた、きた。お説教混じりの言い方。そんなん、吹いて無い自分が一番分かっとんやって。まじ、腹立つ。


「うん、ちょっと今日はさ、伝えたい事があって…」

「まぁ、話すんはええけど、はよ吹きまいよ。」

「やから、言いたいことあるんやって!すぐ終わるけん、聞いて!!」


こっちは伝えたいんや。必死やぞ。


「…なんで、そこまで言うん?あんたはもう進路も決まっとるやろ。音楽科は、勉強もあんまりせんでええんやけん、自己推で入れるように、しっかり実技磨きなさい。」


なんで、なんでそこまで言うん?こっちのセリフじゃ。そんなに俺の話が聞きたくないんか?


「なぁ、ママ。俺、もう音楽科志望やめるから。」


あ、あ…。あれ…???声に、出ちゃった……。ヤバイ…。


「俺、確かに音楽大好きだけど、そこまで、音楽科に入りたいほど、好きじゃないから。コンクールだって、出るって言わないと、先生だって、怒るだろ?」


やばい、やばいやばい!!!止まらない!どうしよう、どうしよう!!やばい、顔がめっちゃポーカーフェイスや!なんで!心はこんなに焦ってんのに!!


「あんた、今更何いいよん?誰に向かってゆーてるの?教えてもらった先生に対して、あんた、そんな事思いやったんやね…。」

「それは違う!!!!!!でも!俺は!!ずっと演劇がやりたかった!!先生には感謝しとる!ほんでも!俺の未来は、俺が決めるもんじゃないの?!?!」


ゆった、ゆってやったぞ、くそばばあ。


「…ふーん。まぁ、好きにしたらえんちゃん。やけど私はもう手も出さんし、口も挟まんから、好きにしまい。音楽やめるんやったら、これからは、全部1人でしまいよ。」


は…?なんで、なんでそーなるわけ。


「……結局、お前にはなんも伝わらんのやな、俺の本当の気持ちが。親のくせに、全く自分の子の事、理解してないでないか…。」
















なんて、言えるはずもない。


たいがい、俺は臆病やから、なんも伝わらんわ。なんちゃ言えん。


ほんで今日もまた、この会話。




「あ〜、まじ音楽たのし〜。はよ高校入りたい〜。」

「毎日同じことばっかいいよるがな。」


あー、ばばあが笑っとる。これでええ、これでええんや。

俺ひとりが自分の将来、人生、我慢さえすれば、家族みんなが笑ってくれる。





やっぱ、俺はずっとこうやって、いいこちゃんばかやって、いじられキャラ演じて、猫かぶって。本当の自分を見せずに生きていかなくては、ならんみたいやな。





訴えられん、この気持ち。くるしくて、毎日、毎日吐きそうや。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ばばあに俺の気持ちを訴える 太陽炎 @mikkayoshitsune1159

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ