2月14日のこと・・・・・・?

 ……そういえば、お連れ様は亡くなられたそうですね。


 確か、通り魔事件にあったとか。

 左目が失くなっていたそうですが……不思議な事件もあったものですね。

 ふふふ。



 大丈夫ですよ。


 あなたは、ま だ、死 ね ま せ ん か ら 。


 あー……だめですよ、そんなに興奮したら腕がとれちゃいますよ……。





 さて、話の続きでも。




 ボクは、霧島さんを殺してしまいました。

 自分でもよくわからないくらいに、清々しい気持ちになっていました。

 人を殺してしまったのに、ボクは、何物にも代えられないような幸福感に包まれていたのです。


 ボクは、それがなぜなのかに気がつきました。


 ボクも、生粋の人殺しなんだと。


 そういえば、最近、家族の姿を見てません。

 まぁ、とうの昔に彼らは頭部で作った人形として、リビングに置いてあるだけなのですから。時折、昔のことを思い出しながら、しゃべりだすんですよ。

 ボクは、心は男ですが、体は女です。

 そんなボクを、家族は一番醜いモノを見るような目で見てくるのです。

 その目が気に食わなかった。ボクを見る目は、誰だって、いつだって。

 だから、2年前のあの日、ボクはカノジョに人形をプレゼントしてあげました。

 ボクの、妹です。可愛い妹でした。腕と足を千切って捨ててあげると、泣いて喜ぶんです。

 まぁ、捨てるのはもったいなかったので、ボクはそれをお弁当にして、カノジョにあげました。カノジョは、とても嬉しそうに食べてくれたので、ボクも嬉しくなって、どんどんお弁当を作ってあげました。とうとう、食べられるところがなくなってしまったので、代わりに両親から調達しました。それも、食べられるところがなくなってしまったので、余った部分を使って苦痛に歪んだ頭部人形を作ってあげました。

 ……そしたら、突然、カノジョのボクを見る目が変わってしまったのです。

 ……おかしいですよね? 何がいけなかったんだと思います?

 カノジョは、ボクのバレンタインを、受け取ってくれませんでした。

 あの目は、あの目だけは、一生忘れられない。


 だから、ボクは、彼女にカノジョを殺してもらいました。

 もちろん、あの憎い目を抉って、ボクがずーっと、ずーっと一生懸命作り続けたお弁当の中身も、返してもらうために、カノジョのナカミも全て取り除いてもらいました。あぁ、よかった。これで、全てなかったことにできるな。

 あとは、カノジョとの縁を切るだけで、全てが終わりますよね。

 だから、ボクとカノジョの婚約ケイヤクを、指ごと破棄すててもらいました。

 そして、ボクと水琴は、めでたく婚約ケイヤクすることになりました。

 


 でも――本当は―――

 彼女は――泣いていました。

 ――ボクは、嬉しいんだと思っていました。


 

 彼女との婚約ケイヤクが切られたのは……。





 その時、不意にボクは……気づいてしまいました。


 保健室には鏡があります。

 ベッドの対面に。


 その鏡をふと見てみた時に、気づいてしまったのです。


 ボクは、目を疑いました。

 その鏡に、本来映っていなければならないものが、映っていなかったのです。



 その時、ボクは、思い出したのです。


 あの時の、カノジョの言葉を……。





       カエシテ



       カエシテ、カエシテ



 かえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてどこにいったのわたしのめわたしのめわたしのめかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてよかえしてわたしのくすりゆびだいちょうしょうちょういぶくろかんぞうじんぞうしんぞう



               アシタハチガウモノヲトリニクルカラ


               タノシミニ マッテテネ 


               だ ぁ り ん




 ボクは、嫌な感覚を覚えました。

 これまでの記憶の中で、ほんのわずかだと思っていた時間のずれの正体に気づいてしまったからです。


 ……カレンダーを見てしまいました。


 保健室にあった電子時計……日時がついているから……



 今日は……




         窓の影から



              カノジョが覗いているのが



         見えました







 ……2月15日でした。











       「アリガトウ……」








           「カエシテクレテ」







 ……ほら、これですよ。


 あなたにも、見えないでしょう?




 失くなっていたのです。


 ボクの、左手の薬指彼女とのケイヤクの印――。


 もういちど、カノジョの言葉を、思い出してみてください。

 なくなったものの……なくなっていくものの順番を……。


 ボクも、きっといつかはなってしまうのです……。


 あの、人体模型のように――。


 

 



 ……だから、ごめんなさい。


 本当はこんなことしたくなかったんですよ。本当です。

 信じてもらえないかもしれないですが。








 今から、あなたの薬指をもらいますね。


 簡単なことですよ。



 ……その顔の近くにある左手を、ゆっくり前に差し出して頂ければ。










 …あはは、冗談ですよ。

 本気にしないでくださいね。




 あ、そうだ……






 次は、ちゃんと、玄関の戸締りをしておいたほうがいいですよ。




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