だれがぼくにこいをした?
……。
……。
……あ、すみません。
ちょっと、考え事をしていたもので。
…いえ、気にしないでください。
その代わり、また、ちょっとした昔話に、付き合ってもらえますでしょうか。
――2月14日のことでした。
ボクは、彼女のことを考えていて、ほとんど睡眠が取れませんでした。
正直休もうかと思ったのですが、家でじっとしているのも嫌だったので……
学校に着くと、妙な目線が、ボクを突き刺していました。
昇降口に着いた時から、妙に静かで、人はいるけれど、誰も口を聞いていないような感じでした。
その代わり、みんなボクを見ていた。
無表情に、虚ろげで、まるで、その黒い瞳の中が真っ暗闇な空洞なのではないかというくらい、心を持たない人形かのような、そんな目で。
昨日見た、冴島さんの面影が、昨日見たあの得体の知れない何かが、ずっとボクを見ているような、そんな気持ちになりました。
階段を登っても、廊下を歩いていたも、無音の校舎の中で、ただボク一人だけが取り残されたかのようでした。
昼間なのに、薄気味の悪い淀んだ天気が、より一層不安な気持ちを煽りました。
教室に入ると、みんな、隅の方に固まって、それまでしていたはずの会話を止めていました。そして、やはりみんなが、ボクを見るのです。
ボクはこういう目が嫌いでした。
誰もが白い目でボクを見てくる。
中学生だったボクには、耐え難いものでした。
ボクの中身なんて理解しようともせずに。
冴島さんにも、そんな目をされていました。
そんなときでした。
席に着いたとき、机の中で、何かべったりとしているものが付着していたのです。
ボクは――恐る恐る、手を、引きました。
それは――血でした。
そうしてボクは無言の観衆が視線を集める教室でみつけてしまった―――。
それは・・・腐りかけた薬指が包まれた、ノートの切れ端でした。
この薬指が誰のものか……
あなたにはもう、お分かりですよね?
…えぇ、あなたは知っているはずなのです。
だって、そうでしょう?
あなたは、その手紙の内容を、既に知っているのだから。
…どうしました? 顔色が良くないみたいですね。
ボクが、その冷や汗を拭いてあげますよ。
その手じゃ、辛そうだから。
ボクは、彼女、日向美琴の愛を受け取りました。
でも――そのことは問題じゃありません。
問題なのは、その彼女がしたことと同じことを、ほかの誰かがやっている、ということなのです。
もちろん、二度目のノートの切れ端に入れられていたのは、日向水琴本人の物だと思います。あの時と、手口がほとんど同じだったから。
なら、ボクとミコトの恋路に、何者かが割り込んできた――。
だれがぼくに、こいをしたのでしょう。
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