2月14日のこと・・・・・・3

 ……今日は、お連れの方はいらしていないのですね。

 まぁ、あんなにも奇妙な話をされては、気分を害されたでしょう。


 それにしても、あなたは物好きですね。

 ここまでボクの話を聞いてくださって、感謝しています。



 机の中に入れられていた、血のついたノートの切れ端を、ボクは自分の目で読んでみました。


 このノートの切れ端と、ボクのワイシャツの左ポケットの中で潰れている薬指……

 実は、この手紙と似たようなものを、ボクは見たことがありました。

 2年前――そう、冴島さんが、亡くなった。その時の2月14日に。


 全く同じ内容のノートの切れ端が、ボクの机の中に入れられていました。

 薬指が包まれて。

 それが、冴島さんの…カノジョのものであるということは、すぐにわかりました。


 なぜなら、ボクは……犯人を、知っているからです。




 渡辺君は、とうとう動かなくなりました。ボクの名前を呼ぶこともなくなりました。

 ボクは、渡辺君から借りたものを、渡辺君に返しました。


 ボクは、教室を出ることにしました。左目を押さえながら、フラつく体を壁で支えながら、歩いて行きました。

 しばらくして、ボクは、結局、力尽きて倒れてしまいました。



 数十分後、だったと思います。

 気が付くと、ボクは横になっていました。…保健室のベッドの上でした。

 左目は、包帯が巻かれていました。誰かが、手当してくれたのだろうと思いました。

 ボクは起き上がろうとしましたが、全く身動きが取れませんでした。

 体を…ベッドに縛り付けられていたからです。

 両足、両手、どちらも。

 ボクは首をできるだけ持ち上げて、足元の方を見ました。

 誰かが、座っているようでした。


 ボクが目が覚めたのに気がつき、その人は近づいてきました。

 ……同じクラスの、霧島さんでした。


「ごめんね、こんな風にして」


「どうして…?」と、ボクは尋ねました。


「渡辺君……死んじゃったから」


 ボクの脳裏に、ボクの名前を呼ぶ彼の声がよぎっていました。

 彼の最後の姿も――。


「ごめんね、霧島さん。渡辺君のこと、好きだったんだよね?」

「……私が? 違うに決まってるじゃない」

「…え……?」


「ねぇ、冴島禮衣子って、知っているよね?」

「霧島さん……カノジョのこと、知っているの?」


「知っているわ。だって、カノジョ……幼馴染だから」

「そう、だったんだ……残念だったね、カノジョのこと」

「――白々しい真似はよして!!」


 突然、霧島さんは声を荒らげてそう言いました。


「とぼけるのも大概にしてよ! …だって、冴島禮衣子を殺したのは……」



 そうです。ボクが知っている、2年前の今日に、ボクの机の中にノートの切れ端を入れた、その人物は――。



「日向水琴……なんでしょ」



 その通りです。

 カノジョを殺した犯人、それは――彼女でした。



 2年前、ボクの机の中に入れられていた、ノートの切れ端と、薬指。


 ボクは、その薬指をワイシャツのポケットに入れました。

 大事に、大事に、撫でました。

 ワイシャツの胸のあたりが、じんわりと赤く染まりました。

 丁度、ボクの心臓の位置が染まっていました。

 とても、嬉しかった。

 彼女からもらったものがボクの心を染めているようで。

 だから、ボクも応えたくなったのです。


 カノジョの遺 留 品を、ボ ク は ず っ と 大 切 に す る こ と に し ま し た 。



 …だってそうでしょう?


 彼女がカノジョ親友を殺してまでボクに送ってくれた――


 ハジメテ最初の作品という名のバレンタインだったのだから。


 だから、ボクは、ホワイトデーに贈り物お近づきの印を返さないといけなかったのです。




 ………どうしましたか? 

 …よくわからない、というような顔をされていますが。



 …残念ながら、ここまで聞いてくださったあなたには、最後までお付き合いをお願いしますよ。





 ボクのを奪った






 さん――。

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