03
まず動いたのはルナであった。
ルナは背中に生やしたアームを即座に光と変え、己の武器へと変換する。ルナの武器は短刀だ。それを口でくわえ、迫り来る無貌の獣へと駆け出し、紙一重ですれ違う。その際に短刀で切り傷を負わせる。
傷を負った無貌の獣は僅かに姿勢を崩して着地に失敗し、続いてミチルの剣戟を受ける事となる。
ミチルは躊躇いも無く着地に失敗した無貌の獣の脳天目掛けて剣を振り下ろす。そして更に首を刎ねるように、胴体を両断するように連続で切り付けて行く。
連続で切り付けるのは一撃では倒し切れなかったからだ。
今までの黒い異形ならば一撃の下屠る事が出来たが、無貌の獣は耐久が上がっているようで一撃では倒せない。
結局、無貌の獣はルナの一撃も合せて五回切り付けなければ倒す事は出来なかった。
ルナとミチルの手によって倒された無貌の獣は光となって消え去る。
もう片方の無貌の獣はと言えば、こちらもほぼ同時に光となって消え失せた。
事前の打ち合わせも無く、ほぼ同時に動いた朔夜と秋果は無貌の獣の側面へと回り込み、片方は切り上げ、片方は剣を振り下ろし鋏のように無貌の獣の身体を切り裂く。
それだけでは倒せなかったので、振り下ろした剣を切り上げ、切り上げた剣を振り下ろし再度裁断する。その後、無意識に息の合った交差する連撃により倒された。
光となって消え去ったが、カードは残さなかった。
「うんうん、やっぱ結構敵は強くなってるね。一撃じゃ倒せなくなってる。まぁ、でも倒せない事も無いけど一人じゃ囲まれた際にキツイね」
剣を肩に担ぎ、ミチルはうんうんと頷く。
「んじゃ、敵も倒した事だし、この開け放たれた扉から建物内部へと向かいましょうかね」
「……そうだな」
ミチルの言葉を合図に、一行は屋上からビルの内部へと移動する。
階段を下り、最上階のフロアへと足を踏み入れる。本来ならば、そのまま一気に階段を下りて最下層まで行きたかったのだが、生憎と階段はこのフロアで途切れてしまっていた。
別に、瓦礫に埋もれていたり崩れたりしてはいない。単純に最初からこの階と屋上しか繋いでいなかっただけだ。
なので、このフロアを探して下へと続く階段ないしはエレベーターを探す事となる。これ程高い建物なのだ。エレベーターくらいは存在するあろう。
それを見付ける事が出来れば体力を温存して一気に下まで降りれるが、それが動くかまでは分からず、そして何かしらの罠が仕掛けられているかもしれない。
そのような危険を充分念頭に置きつつ、一向は階段かエレベーターを探していく。
変わり映えの無い無地の壁に囲われた廊下を進んでいく。このフロアには部屋が存在しておらず、迷路状に入り組んでいる。人が三人並んで歩けるスペースはあり、天井に備えられた照明が廊下を照らす。
時折廊下の角や地面から無貌の獣が現れて一行へと襲い掛かっていくが、傷を負う事も無くことごとく撃退して行く。
「いやはや、ルナちゃんの御蔭でマップ見ながら進めるのが有り難いよね」
「そうだな」
ミチルはプロセッサーの画面にマップを表示させ、自分達が進んできた通路を表示させる。
本来なら、地図が無く道標もないこの迷路では方向感覚が狂い、彷徨う未来も会っただろう。
しかしながら、ルナがパーティーに加わった事により一度訪れた場所に限りマップとなってプロセッサーに表示させる事が出来るようになった。
適当に進んだとしても、マップを頼りに元来た道を戻る事が出来るようになる。これで迷子になる確率はぐっと減っただろう。
そして、出口のない迷路でない限り、踏破する事も出来る。
一行はミチルに地図の確認を任せて躊躇いも無くずんずんと進んでいく。罠が仕掛けられている可能性も考慮しているが、そこは先頭を行くルナに任せている。
ルナは、動物としての勘か罠がありそうな場所を避けて移動をしている。真ん中に何かありそうと思えば端によって歩き、壁から何か出てきそうだと思えば一度立ち止まってい一匹だけ一気に駆け出して罠を敢えて発動させている。
これにより、朔夜、ミチル、秋果の三人は罠に掛からずに済んでいる。また、一度発動させた罠はマップにも表示されるので忘れた頃に引っ掛かるという事もない。
朔夜と秋果の二人は、主に戦闘を買って出ている。数値上では速度、精神はルナに、力、耐久はミチルに負けているが朔夜はバランスの良いステータスとなっており、秋果は実質二人分の戦闘能力を持っている。
また、ステータスの数値はあくまで素の状態だ。クロスカードを使用した状態ならば、一番ステータスの値が高くなるのは朔夜になる。ヤバい相手と見たら即座に全力で叩き伏せられるようにと朔夜が前線に出ている。
秋果はサモンによって自分が剣を振るっている間にさまざまなサポートが行える。デュラハンなら近接戦闘において有利になり、リッチーなら遠距離からの援護射撃が任せられる。残る一体も戦闘を優位に運ばせる事が出来るが、使い所が難しいだろう。
ただ、今の所はクロスカードを使用せずとも倒せるレベルの敵しか出ていないので、己の剣のみで戦っている。
それでも、不測の事態と言うのはいつ起きるのか分からない。なので、二人は何時でもクロスカードをホルダーから出せるようにしている。
無貌の獣を倒し、迷路を進み、時折カードを手に入れステータスを強化する。
そのような事を続け、漸く下の階へと続く階段へと辿り着く事が出来た。
「あった~。でも、まだまだ地上には辿り着かないんだよね。あと何十回繰り返すんだろ……」
「さぁな。だが、終わりがある分マシだろ」
「それもそうだけどさぁ……ほんっとうにエレベーターとかないかな」
ミチルは肩を落とし、朔夜はやれやれと首を横に振って階段を下りて行く。秋果はルナと並んでゆっくりと歩を進める。
次の階もまた、迷路のように入り組んでおり一行の士気を下げさせた。
それでも進まない訳にはいかないので、先の階と同じように進んでいく。
今回は運よく先の階の半分にも満たない時間で階段を見付ける事が出来た。
迷路の階層はまだまだ続く。
合計して九階層分も迷路だと、気が滅入ってくる。
限界に達する前に小休止を挟み、ミチルが大量に持っていた水とチキンカツバーガーを食べ英気を養い、進み続けた。
「もう、迷路は勘弁して欲しい。疲れたし飽きた。ローグライクとか不思議のダンジョンじゃないんだから、一気に行かせてよ……」
「そんなのはくだらない遊びをこしらえた奴に言え」
「そうだけどさぁ……はぁ……また下に行けば迷路が待ってるのかぁ」
愚痴を零し、下の階へと向かう。
そんなミチルの言葉が通じたのか、その階は迷路ではなかった。
だだっ広い空間がそこにあり、最奥には下へつ続く階段が待ち構えられている。
そして。
「うわっ、ケルベロスだ」
「ケルベロスだな。顔のない」
その階段を守るかのように、三つ首の獣が待ち構えていた。
数は全部で三。大きさは今まで遭遇した無貌の獣の三倍はある。この三つ首の獣もまた無貌の獣と同じ顔を有している。
三つ首の獣はそれぞれ起き上がると一匹はミチルに。一匹は朔夜に。残りの一匹は秋果とルナを標的に選び、一斉に襲い掛かっていく。
三人と一匹は即座にホルダーからクロスカードを取り出して、プロセッサーへと挿入する。
クロスカード~全ては願いを叶える為に~ 島地 雷夢 @shimazi
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